エプソンはどのようにヘッドマウントディスプレイ市場へ挑んだのか?

[2018/07/03 07:00]エースラッシュ ブックマーク ブックマーク

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6月20日~22日にかけて、東京ビッグサイトで「設計・製造ソリューション展」「機械要素技術展」「ヘルスケア・医療機器 開発展」「3D&バーチャル リアリティ展」の4展から成る「日本ものづくりワールド 2018」が開催された。

本稿ではヘッドマウントディスプレイの開発事例としてセイコーエプソン ビジュアルプロダクツ事業部 HMD事業推進部 部長の津田敦也氏が登壇した「エプソンのヘッドマウントディスプレイ開発秘話 ~世に無いHMDを創り、市場を創る挑戦~」についてレポートする。

時計を起点とし、独自の「省エネルギー・小型化・高精度」技術で数多くのウェアラブル機器を創出してきた同社。1969年には世界初のクオーツウォッチ、1982年にはテレビウォッチ、1985年にはリストコンピュータなど、革新的な製品を世に生み出してきた。

1999年にはスマートフォンに欠かせない機能を搭載した携帯型情報端末「ロカティオ」を発売。マーケティングそのものは成功と呼べなかったものの、ここからデバイスビジネスが飛躍的に向上したという。

リーマンショックなどでIT業界が厳しい時期を迎えた頃、同社ではプリンティング・ビジュアルコミュニケーション・生活の質向上・ものづくり革命という4つの領域にフォーカスする「SE15」というビジョンステートメントを掲げる。

ここから独創のマイクロディスプレイ技術をもとにビジュアルコミュニケーション環境の創造に乗り出したのが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の始まりだ。

スマートグラス「MOVERIO」を展開

同社では2009年に保有するコア技術を活用した、新たな製品創出を検討。その1つとして挙がったのがHMDだ。

HMD事業は2009年後半に企画検討を開始し、2010年初頭にプロジェクトをわずか8人のチームでスタート。当時はコンシューマ向けに「大画面を手軽に持ち出す」という観点を、ビジネス向けに情報をオーバーラップさせハンズフリーでの作業を可能とする新たなスタイルの創造を想定した。

やがて同社ではクローズ型かシースルー型か、民生市場か業務市場かという大きな判断を迫られる。ここで技術的にはハードルの高いシースルー型、認知も目的に民生市場での投入を決断。津田氏は「この判断は正しかった」と振り返る。

こうして2011年11月、スマートグラス「MOVERIO」の初代モデルであり、民生向けスタンドアロン型として世界初の両眼シースルーHMD「BT-100」を発売。

「家でも外でも一人で楽しむ大画面」をコンセプトにエンターテインメント領域の拡張を訴えたが、技術的には称賛されたものの受け入れらなかったという。

スマートグラス MOVERIO BT-100

しかし”ウェアラブルの伝道師”と呼ばれる神戸大学の塚本昌彦氏の協力のもと、業務効率化や聴覚障害者へのサポートなど福祉面や医療現場での取り組みを推進していった。

2014年には「BT-100」を大幅進化させ、光学エンジンの作り直しを行った「BT-200」を発売。

改めて業務市場への参入について分析し、特に支援を必要とするのは屋外での作業員だと気づいた津田氏は堅牢性や耐久性、安全性、操作性を高めた「BT-2000/2200」の開発をスタートした。2017年には商業領域に向けた「BT-350」を発売し、1~2年ごとに新たな製品展開している。

小規模で活性化した組織づくりの重要性

こうした新たな市場創出には、一体何が必要なのか。

津田氏は「現場が何をしたいのか、何を目指すのか」という意志がスタートだったと考える。

あえて小さなチームで始め、小さな着実を短い周期で積み上げて結果を残すという点を重視。成果を積み上げながら社内外の理解者を増やし、最後に経営層を巻き込むという形でプロジェクトを動かした。

さらに「変える勇気をもつ」ということも重要で、長年培ってきた軸やルールにどう立ち向かっていくか、失敗を跳ね返し迅速に判断・対処することを押さえたと振り返る。

次のステップとして、組織づくりについて語る津田氏。市場創出と同様に小さなスタートを切り、組織ではなくやる気を優先した。前例がないため自ら判断するしかない状況では、たとえ正論であっても否定論に対処できる強いメンタルを持たなければ新しい発想は生まれない。

スキルや年齢差が関係ないフラットな関係を築き、組織という枠組みを意識せず他組織や他社を巻き込むという意識をもつこと、常にメンバーが活性化した組織体であることの重要性について説いていく。

では、どのように組織の活性化を行えばいいのか。津田氏はこの当時、開発・設計・企画・営業すべてがフラットな25人程度の組織として動いており、主担当こそ明確にしたものの担当の枠を超えて活動していたという。

「皆が営業!皆が設計!」と掲げ、すべてのメンバーが達成感を得られるよう心掛けていたそうだ。

活性化の具体的な事例として、エンジニアを小学校に派遣してハッカソンを行った活動を紹介。

この結果、複数のスマートグラスで同時にARコンテンツを再生できる再生「グループAR」や、学校授業における新たな体験型の総合学習への挑戦へ繋がっていったという。

自立活性度調査を行ったところ、全社平均よりも高いという目に見える数値的な結果も出たと津田氏。現在もこの傾向を維持できていると自信を覗かせる。

領域ごとに最適なサービスを提供

続けて津田氏は小型光学エンジン、シリコンOLED(Si-OLED)、マイクロディスプレイといった同社のコア技術を解説しながら、現実とデジタルが融合した高コントラスト・高輝度の実現、有機ELを採用したスマートグラス「BT-3」シリーズも紹介。個人領域と産業領域それぞれのニーズにあったラインアップを展開している。

スマートグラス MOVERIO BT-350

個人領域では映像の視聴をはじめ、世界最大手のドローンメーカー「DJI」とパートナーシップを結び、操作の簡易化やシースルーHMDの特性を活かしたフライトシミュレーションなどを提供。産業領域では現場でのトラブル発生時のサポートや遠隔での修理サポート、現場トレーニングなど想定通りの活用が進められている。

今後、定年を迎えた熟練の技術者が遠隔支援で後任をサポートするというような事例も増えていくのではと津田氏。医療現場での導入・活用も進んでいるそうだ。

美術館・博物館での映像を使ったガイダンス、映画館での映像・言語のバリアフリー化なども進む中、現行施設を利用した新たなサービスの導入も行われている。

北海道日本ハムファイターズでは訪日外国人観光客へ自国語での情報提供を行い、メルセデスAMGペトロナスモータースポーツではVIPツアーでガレージにマシンがあるような状況を生み出す付加価値の提案、公共スタジアムを使うサッカーチム・松本山雅FCでは体験ツアーを開催して高い満足度を得ている。

また、同社では5Gを活用したARライブ映像視聴システム、異業種を結んだ新たな顧客の創と地域の活性化、スマートマスクを利用した消防・救助活動の見える化なども支援。

とくにスマートグラスを専門的なものとして制作しておらず、どの現場でも同じ仕組みで扱えるという特別なものではないことが多様な可能性を示しているのではないかと講演を締めくくった。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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