ガートナー ジャパンは4月25日~27日、「ITインフラストラクチャ、オペレーション・マネジメント & データセンター サミット 2018」を都内にて開催した。本稿では、デンソーアイティーラボラトリ CTO 岩崎弘利氏によるゲスト基調講演「Autonomous car as a sensor -自動運転を実現するセンシング技術-」の模様をレポートする。

5つのレベルで展開される自動運転の「2つのトレンド」

デンソーアイティーラボラトリは、研究開発に特化したデンソーのグループ企業で、デンソーが持つマーケットや技術を最大限に活用し、研究開発成果を製品につなげていくことをミッションに掲げる。

現在、クルマには数多くのセンサーが搭載され、クルマ自体がIoTのキーデバイスとして位置づけられている。また、将来のADAS(高度運転支援システム)や自動運転の機能を搭載するクルマでは、複雑な機能を実現するために高度なセンシングが必要だ。

「これらのカギとなっているのがAI(人工知能)技術です。自動運転を実現するセンシング技術やAI技術をどう活用していくか。具体的な研究事例を紹介したいと思います」と岩崎氏は講演を切り出した。

デンソーアイティーラボラトリ CTO 岩崎弘利氏

デンソーアイティーラボラトリにおけるAIの研究開発分野としては、ドライバーの意図を推定する技術や周辺環境をセンシングする技術、クルマからのビッグデータを情報を解析する技術、ユーザーインタフェースなどがある。これらを「アルゴリズム」「半導体」「品質保証」の3つのチームで推進しているという。

電気・電子工学を専門とする岩崎氏は、1990年に日本電装(デンソー)に入社。カーナビの開発に従事したのち、2000年からデンソーアイティーラボラトリでベイジアンネットワークを始めとしたAI技術の研究に従事している。2016年からは、デンソーのAI R&Dプロジェクトのリーダーを担当する。

岩崎氏は、AIの技術的発展やトレンドを振り返り、ディープラーニング(深層学習)技術の開発、データからの特徴抽出、開発ツールの充実といった変遷を背景に、今、第三次AIブームと呼ばれる盛り上がりを見せていることを示した。

AIの自動運転への応用としては、自動運転を5つのレベルに分けて展開することが国際的な大きな流れになっている。レベル1は単独型で、アクセル、ブレーキ、ハンドル操作などどれか1つを自動で行うもの。例えば、自動ブレーキなどだ。レベル2は、それらをいくつか組み合わせるもので、例としては、同一車線を自動走行するものが挙げられる。

レベル3は、これらとは大きく方向性が異なり、「運転の責任の主体をどちらに置くか」という部分に違いがある。レベル3ではドライバーではなく、システムに責任を求めるのだ。システムに任せる操作が増えるため、ドライバーの自由度も増える。

レベル4、レベル5は、ドライバーのいない、いわゆる自動運転の領域に入ってくる。レベル4は地域限定で、例えば、高速道路は自動とか、品川から目黒までは自動といったもの。レベル5は、そうした制限がないものだ。

「大きく2つのトレンドがあります。1つは海外で行っている自動運転タクシーのように、レベル4、5で新しいビジネスに取り組む流れ。もう1つは、国内の自動車メーカーのようにレベル2をどんどん広げて商用化を目指し、レベル3の足がかりにしようという流れです。国内では、2020年までに高速道路でのレベル2を、2025年以降に一般道でのレベル2の実現を目指そうとしています。レベル4のほうについては、2020年以降にタクシーや無人宅配が広がってくると見られています」(岩崎氏)

デンソーではこれら自動運転の将来像をわかりやすく理解できるように、ビデオコンテンツを制作している。講演会場で流されたビデオでは、例えば、集客のための送迎車を自動化する店舗や施設のケースが紹介された。無人の送迎車が自宅まで迎えにきてくれて、走行中は店舗や施設の催し物やキャンペーンを知らせたり、クーポンを発行したりする。

街中には駐車場やガソリンスタンドがなくなり、クルマの販売店も姿を消す。道幅も狭くなり、空いた土地を活用して、人々が集まり楽しめる場所が作られる。子供や高齢者など、今まで運転が難しかった人も、自動運転車を利用して、さまざまな場所に自由に移動できるようになる。さらに、自動運転車を移動型の監視カメラのような防犯にも役立てられる……というイメージだ。