最初は小さなネットワークから! 農家が挑むディープラーニング活用

[2018/04/04 08:00]小池 晃臣 ブックマーク ブックマーク

ソリューション

農業人口の減少や高齢化が進む今、後継者不足による生産ノウハウの消失を阻止する有効策の1つとして、IoTやAIといった最新のIT技術を農業に取り入れるスマート農業が注目されている。

3月7日に都内で開催された「データマネジメント2018」では、きゅうりの選果作業の効率化や技術の永続化に、ディープラーニング(深層学習)を活用する静岡県のきゅうり農家、小池誠氏が講演を行った。

講演テーマは「農業におけるデータ活用の取り組み、きゅうり選別AIの開発を通して分かったこと」。小池氏は、きゅうり選別AIの開発経緯やデータの集め方、深層学習のポイントなど、開発を通して得た知見を紹介すると共に、農業におけるデータ活用に関して、今後の取り組みや課題について見解を語った。

きゅうり農家が抱える「課題」

もともと小池氏は普通の会社員だったが、4年前に退職して実家の農業を継いだ。現在は家族経営の農家としてきゅうりのハウス栽培を行っており、年間63トン・約21万本ものきゅうりを育てて出荷している。

「農業も機械化が進んでいるとよく言われてはいますが、実際にはまだまだ手作業が多くあります。特にきゅうりを含めた果菜類は、その傾向が強いです」と、小池氏は説明する。

農林水産省の調査でも10アールあたりの労働時間で見ると、きゅうりとトマトは圧倒的に時間(=手間)がかかることがわかる。マルチ張りや支柱立て、ネット張り、茎の誘引、摘芯などの作業は、基本的に手作業で行わねばならないことも理由としてあるようだ。

「成長が早いので1カ月半ぐらいで収穫になりますが、収穫も手作業で、防除作業もあります。農家同士でも、きゅうりをやっていると言うと『大変だね』と言われるぐらいです」(小池氏)

そして出荷時にもまた選別作業があるが、これも手作業でかなりの労力を要する。同じく農林水産省の調査では、きゅうり栽培における作業別労働時間のうち、出荷作業が全体の22%を占めており、収穫作業に続いて2番目に時間がかかる作業となっているのだ。

きゅうりの選別作業では、長さ、太さ、曲がり具合、色などにより等級に分けて選別するが、対象は自然物のため、定量的な選別基準があるわけでははない。したがって、長年の経験(=主観)や、生産者のこだわりで判断することになるため、習得に時間がかかるという。

「毎日同じ基準で分けていることの積み重ねが信頼に直結しているので、作業者間での統一が重要になります。そのため、選別時だけアルバイトなどを雇うといったことがやりづらいのです」(小池氏)

特に小池氏のような小規模農家の場合、すべて手作業が基本となるため、忙しいときには一日8時間・4,000本以上を仕分けることになるという。とは言え、選別作業はいくら頑張っても品質が上がるわけでも収穫量が増えるわけでもない。特に新規就農者の場合はおいしい野菜を作ることを何よりのモチベーションとしていることが多く、小池氏も例外ではない。こうしたことから、なるべくこの仕分け作業にかかる負荷を軽減したいと小池氏は考えていたのだった。

「そこで注目したのがディープラーニングです。こと画像認識においては人間と同等の判断が可能になっているディープラーニングを活用すれば、選別作業を大幅に省力化できるのではと考えました」と小池氏は振り返る。

ディープラーニングによる選別機を手作りで試作

とにかくきゅうりの画像を使ってディープラーニングを試してみようと、小池氏はまず試作1号機を作成した。これは、市販のWebカメラやアルミパイプを用い、結合パーツも3Dプリンタで印刷したという手作り感満載のものだった。ソフトウェアもGoogleのTensorFlowをはじめ、オープンソースを利用した。

「機械学習ではデータが重要と言いますが、初めからコストをかけられないので試作1号機では2,500枚ぐらいの画像を用意しました」と小池氏は話す。

きゅうりの撮影が終わると、画像判断のためのニューラルネットワークを構成することになるが、最初は3層のニューラルネットワークを構築した。最近は100層ぐらいが一般的とも言われるが、ノートPCのCPUだけで動くよう配慮したのである。それでも認識の精度は80%ほどにもなった。

小池氏は、「正直予想以上の結果でした。要因はおそらく短期間内の画像データによる評価であったことや、3層ニューラルネットワークという小さなネットワークで始めたのが逆に良かったのだと思います」とコメントした。

これで可能性を見いだしたことから、小池氏は試作2号機の開発へと移る。その開発コンセプトは、「より人間の判断に近づける」ことだった。そこでWebカメラを3台に増やし、上下横からの画像を撮影できるようにすると共に、照明もなるべく明るさが均一になるよう工夫した。また、少しでも大量のデータを集めることが良い結果につながることから、教師データには8,500本のきゅうり画像を用意した。その結果、96.1%という高い正答率を達成したのだ。

「一番大きかったのはデータを増やしたことでしょう。それに、カメラを増やしたことで、より人間が判断する際の状況に近づいたのも精度向上に貢献できたのではないかと思います」と小池氏は分析する。

試作2号機の紹介動画


高精度で判断できるようになったため、2号機で判断したきゅうりを等級ごとの箱に自動的に運べないかと、小池氏はベルトコンベアによる自動選別機も手作りし、いよいよ実際のきゅうりを用いた選別テストへと移った。

しかし結果的に、この2号機は実用化には至らなかった。その理由も含めて、それまでの実機テストでわかったことを小池氏は次のようにまとめた。

「まず、カメラを使う性質上どうしても周りの環境に影響を受けてしまいます。特に明るさの影響が大きく、それにより実機テストでは実質7割ほどの精度に低下しまいました。また、細かい傷や表面の艶などはうまく認識できなかったり、ベルトコンベア方式ではきゅうりに傷がついたりといった問題も出てきました。きゅうりは自然物なので、収穫時期によって形や太さに偏りがありますが、熟練作業者はその時々の傾向を自分で判断して等級分けします。そうした相対的な判断基準は、なかなか真似できないことがわかりました」

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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