日本データマネジメント・コンソーシアムは3月7日、今年で7回目を迎えるカンファレンスイベント「データマネジメント2018 ~データが拓く無限の可能性~」を開催した。

その中から本記事では、富士通 デジタルソリューション事業本部 デジタルアプリケーション事業部 エンタープライズアプリケーション部 マネージャー 佐藤祐介氏が登壇した「AI/機械学習を活用した需要予測の高度化アプローチ」についてご紹介しよう。

同社では30年以上培ってきたAIに関する知見・技術を「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」として体系化し、さまざまな分野をサポートしている。本講演では「需要予測」にフォーカスし、そのアプローチと活用事例について解説していく。

複数のモデルを使い分け、需要予測を高度化

富士通 デジタルソリューション事業本部 デジタルアプリケーション事業部 エンタープライズアプリケーション部 マネージャー 佐藤祐介氏

AIによる需要予測を導入したい企業からは、例えば「需要予測システムが”当たらない”から使わなくなった」「需要予測システムが特化した技術を使っていたため、メンテナンス担当者が辞めてしまったので使えなくなった」「働き方改革による作業効率化・人手不足対策のため、システムに任せたい」「社内にいる先読みのプロが定年する前に、ノウハウを標準化したい」などの声が挙がっている。

とくに佐藤氏は、発注・物流・在庫・生産におけるコストの無駄や廃棄ロスをできるだけ減らす「SCM最適化」への期待を強く感じるという。

「過去の実績を学習し、今後どのようになっていくのか未来を予測するのが一般的な需要予測です。予測する対象がどういうデータに起因して動いているか、それを見つけていくことがポイントかなと思います」と佐藤氏。

需要予測はたった今始まったものではなく、従来からさまざまな手法で研究が重ねられ、現場へ活用されてきたものだ。前週同一曜日の値を使う「ナイーブ予測」や指数平滑法、ARIMAモデルなど、手法によって強みや弱みが異なる。

万能なモデルは存在しないため、多様な商品に対して単純な予測モデルだけでは説明できないものが非常に多い。佐藤氏は対象の商品へ最適なモデルの使い分けが必要になると説明する。

万能なモデルは存在しないため、複数のモデルを使い分ける必要がある

一般的なアプローチでは、予測したい対象を過去の実績から誤差の少ないものを選んでいく「モデル選定型」が考えられる。一方、佐藤氏は「弊社でも研究を重ねてきましたが、一つのモデルを選択するよりも複数のモデルを統合するほうが高精度を実現できると感じています」と話し、需要予測を高度化する「動的アンサンブル予測」について説明。

複数モデルを使って予測を行い、その結果からさらにもう一段階機械学習を行ってデータの採用比率を変化させていく。従来は人手を使っていたチューニングをシステムで自動化し、安定的かつ高精度の需要予測と運用効率化を実現しているのだ。

機械学習で各モデルの統合比率を自動最適化する「動的アンサンブル予測」

需要予測の導入には運用範囲の見極めが肝要

続いて佐藤氏は、さまざまな業種での導入事例を紹介。製造業では消費者ニーズの変動に対応し、生産計画変更の付加軽減と廃棄ロスの削減に成功。卸業では数十万にも及ぶ商品を取り扱わなければならない中、商品特性を考慮したセンター別の高精度な予測で発注業務の省力化を可能とした。

小売りのスーパーやサービス業などパートタイムの多い量販店では発注精度にばらつきが多く、作業が長時間に及ぶことも少なくない。そこで機械的に販売予測を支援することと合わせ、店舗の来店人数の予測による人員の最適化などへの要望にも応えていきたいという展望も覗かせた。

小売業の抱える課題を解消し、顧客満足度の向上へも繋げていく

また、ユーザーからは「過去実績のない、新規の取り扱い商品はどうするのか」という疑問も多くぶつけられるという。一般的には学習に十分な実績を得るため、類似サンプルを活用することになる。

そこへ「弊社では数字だけでなく、商品のもつ需要も活用して『属性分解モデル』というアプローチも行っています」と解説する佐藤氏。例えば商品のタイトル、原材料、味などに消費者の需要が分散している可能性がある。

そこで類似商品そのものではなくテキストマイニングで商品の属性情報を抽出し、初期需要と需要の推移を予測。テキスト活用をすることで、単純な数値情報だけでは上げられなかった精度をさらに高めていくのだ。

テキストマイニングによって商品の属性情報を抽出し、新商品の需要を予測

ここで佐藤氏は、改めてユーザーの抱える理想と現実についても言及。「需要予測の導入には、実現可能性を見極めることも重要だと思っています」と続け、AIであれば何でも予測可能で100%当たるものではないと念を押す。

過去に例のない突発的な需要対応への難しさもあれば、学習期間が長いほど精度は高まるもののビジネス環境の変化にきちんとマッチしているのかという問題もある。

目的とする環境はまったく異なるためユーザーごとのフィッティングは不可欠であり、ある程度パターン化は存在するものの単純にモデルを応用することは困難だ。

「弊社では過去実績だけでなく、お客様が持っている『この商品は、こうなったら需要が上がるのでは?』というお声をいただきながらじっくりやらせていただくことが多いです。情シスだけではなく現場も交え、予測精度が上がった/悪かっただけでなく、上がったから業務KPIがどうなったのかというKPIの設定が需要予測導入前のポイントになるでしょう」と佐藤氏は締めくくった。

ユーザーとの「共創」で業務KPIの達成を目指す

富士通では「Operational Data Management & Analytics(オペレーショナル・データマネジメント&アナリティクス)」という業務の迅速化・高度化を実現するソリューションを提供。

既存の業務プロセスに動的アンサンブル予測のエンジンから算出されたデータをアドオンし、先読み・見込みを立てていく業務へデータを活用することができる。同社の業務・データ起点のアプローチに加え、ユーザーの業務ノウハウに組み合わせてAIを活用する「共創」を実現。現場の課題解決やビジネス環境の変化に合わせた総合的なサポートで、データの分析・活用を支援する。