「Gartner.com」の検索キーワードにおいて、「AI」は、2016年1月時点ではトップ100圏外だったが、2017年5月には7位に浮上した。この急速な注目度の高まりを受け、ガートナーでは「2020年までに、30%以上のCIOがAIを投資優先順位のトップ5に位置付ける」と予測している。

本稿では、10月31日~11月2日にかけて開催された「Gartner Symposium/ITxpo 2017」に登壇したガートナー ジャパン コンサルティング部門 マネージングパートナー 中村拓郎氏による講演「2030年の環境予想とAIが導く世界観」から、AI投資を伴う新規事業の戦略立案とその実行方法について考えてみたい。

今起こりそうなコトは2030年には当たり前になっている

中村氏は、まず企業がAIへの投資を伴う事業戦略を策定するにあたり、「国境という概念が希薄化している」「産業構造の破壊と再構築が繰り返されている」という2つの前提を考慮することが必要だと説いた。

ガートナー ジャパン コンサルティング部門 マネージングパートナー 中村拓郎氏

「自動翻訳の精度がさらに高まれば、言語が制約にはならなくなります。2030年には、全世界86億人を相手にビジネスを行う時代も来るでしょう」と中村氏。また、Forbes Global 2000にランクインした企業を2009年、2013年、2017年で比較すると、米国企業はクラウド、ソーシャル、モバイル、ADAS(Advanced Driver Assistant System)を提供する企業が新規にランクインしている。中村氏は、突然現れる新しい企業と競争するスピード感を日本企業が持てるかどうかを懸念する。

携帯電話がショルダーフォンから始まり、今では誰もが持つスマートフォンになったように、基幹システムのクラウドへの移行が進んでいるように「現時点で起こりそうなことは2030年にはおそらく当たり前になることを前提にして、事業戦略を考える必要がある」と中村氏は語る。

さらに、このセッションのテーマであるAIソリューションを提供する新興ベンダーは、現在2,000~3,000社存在すると見られ、このなかからAmazon、Google、IBM、Microsoftをしのぐ存在が2019年までに登場するとガートナーでは見ている。そしてアプリケーションがインテリジェントなものに進化することから、AIリテラシーが企業の競争力を左右することになると中村氏は予測する。

例えば、不動産物件の検索サービスを提供する米Zillowは、MicrosoftでExpediaやHotel.comのビジネスをリードしたリチャード・バートン氏が2006年に設立した企業である。同社は、深層学習のテクノロジーを用いたデータ分析をコアに、不動産物件の価格算定と将来価値を予測するサービスを提供しており、時価総額7.6Bドルにまで事業を成長させた。この企業価値はマツダや出光興産と同程度だという。

「AIリテラシーを高めれば、グローバル企業に匹敵するポジションを獲得することも不可能ではありません」(中村氏)