9月7日、8日の2日間にわたって都内で開催された、東陽テクニカ主催による「東陽ソリューションフェア 2017」。初日の基調講演には、日本自動車研究所 ITS研究部 部長 谷川浩氏が登壇した。同氏は、「日本自動車研究所における自動運転に関する取組み」と題し、日本自動車研究所(JARI)が取り組む認識・判断DBやセキュリティ対策、安全設計といった委託研究事業の概要を紹介するとともに、自動運転の開発に必要な大量データの獲得や自動バレーパーキング実用化に向けた取り組みなどに関する最新のトピックスについて言及した。

自動運転の「レベル2」と「レベル3」の間に立ちはだかる壁とは?

1969年に設立したJARIは、1961年に産業界が設置した公的機関、日本自動車高速試験場に起源を有する。”クルマ社会”の健全な進展に貢献することを使命としており、中立的・公益的な活動を行いながら、日本の自動車産業の発展と自動車技術の進展に寄与してきた。

近年、自動車の役割が多様化するとともに、自動車技術の高度化・情報化が進むなか、JARIでは中立的な研究機関である強みを活かして、産官学が単独ではできない「車と社会のつながり」という領域における研究・試験を推進している。例えば、そうした研究・試験の1つである事故メカニズムの解明においては、ドライバー特性の把握などに活用する「JARI-ARV(拡張現実実験車)」の開発をはじめ、模擬市街路やドライビングシミュレータを用いた運転支援、交通弱者対策のための試験などを進めている。

また、予防安全の分野では、人間工学をはじめ、人、車、道(交通環境)などの事故発生要因を分析し、事故防止対策や、AEB(Autonomous Emergency Braking:自動緊急ブレーキ)をはじめとした予防安全システムのあり方についての研究も行っている。

そんなJARIが現在注力している分野の1つが、国の重要施策にも位置づけられている人道運転技術の実用化に向けた研究である。自動運転には、「運転支援」から「完全自動運転」までの5つのレベルが設けられているが、なかでも特に難しいのが、レベル2の「部分運転自動化」からレベル3の「条件付け自動運転」への移行であると言われる。

谷川氏は、次のように疑問を投げかける。

「自動運転のレベル2では、ドライバーには全て安全を確認して危険を回避することが求められます。たとえ手放しで運転ができていたとしても、危険発生時には自分でハンドルを操作して避けなければ、ドライバーの責任となってしまうのです。対してレベル3では、危険を機械が判断し、自動的に回避してくれますが、もしも機械側がギブアップした場合には今度は人間が交代して回避行動を行わねばなりません。しかし考えてみてください、本当にそんな緊急時に、急に運転を代わることができるでしょうか?」

日本自動車研究所 ITS研究部 部長 谷川浩氏

ここで谷川氏は、自動運転に必要な5つの機能要素について解説を行った。1つ目が「状況(交通環境)認識」だが、一般的に、レベル3以上の自動運転に求められるような高い認識性能と安全性を実現するには、性能限界の異なる複数種のセンサーの組み合わせが必要になる。2つ目が「基本走行計画(パスプランニング)」、3つ目が「潜在リスク予測と回避」であり、例えばサッカーボールが転がってきたら、子どもが飛び出して来るのを予測して減速するといった危険予測がこれに当たる。

「センサー情報や基本走行計画におけるダイナミックマップなどの情報から潜在リスクを予測するわけですが、ここが非常に難しいポイントとなります。ビッグデータやAIなどのIT技術の活用が期待される分野です」と谷川氏は強調した。

衝突予測時にMAXでブレーキングしたり、車輪制御することで横滑りしそうな体勢の立て直しを行ったりするのが4つ目の「緊急回避」、5つ目は「HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)となる。ここでは、自動走行車両とドライバーや周辺交通との協調が求められる。

「自動車とドライバーとの間のHMIに加えて、自動運転では自動車と周辺車両や歩行者とのコミュニケーションも必要になります」(谷川氏)