7月26~28日に開催された「総務・人事・経理ワールド2017 HR EXPO」では、3日目の特別講演に、日本航空 取締役会長 大西 賢氏が登壇。「社員がイキイキと働ける環境を目指して。日本航空が実践する働き方改革」と題し、日本航空(以下、JAL)の働き方改革に向けた取り組みを紹介した。

やりがいと成長の実感が得られるフェアな環境の整備

2010年1月に会社更生法適用を申請・経営再建を進め、2012年9月に東証1部に再上場を果たしたJAL。働き方改革に向けた取り組みは、破綻直後から経営トップの強いリーダーシップを持って進められてきた。当時会長を務めた稲盛和夫氏の下、社長時代から改革を指揮してきたのが大西氏だ。

氏は講演の冒頭、会場の聴衆に向けて深々と頭を下げて破綻をわび、経営再建を支えてくれた周囲に対する感謝を述べた。その上で、「破綻後は外科手術のような事業の構造改革とともに、内科治療のような内面的な構造改革の両方の取り組みが必要でした。内面的な構造改革では、企業理念を実現するために『JALフィロソフィー』を掲げ、部門別採算制度を導入して進めてきました」と説明した。

日本航空 取締役会長 大西 賢氏

2011年には「出身会社を超えて活躍すること」、2012年に「国を超えてグローバルに活躍すること」をトップのコミットメントとして発表。2014年からは「女性がもっと活躍できること」を目指し、経営戦略としてのダイバーシティ宣言を行ってきた。そして、2015年から本格的に取り組み始めたのが「ワークスタイル変革」だ。

大西氏は、「ワークスタイル変革に取り組み始めてから約2年がたちました。2017年からは植木義晴社長の下、全社一丸となってワークスタイル変革をやり抜くことを掲げています。ワークスタイル変革の推進には、大きく5つの要素が必要でした」と語り、その5つの取り組みを順に紹介していった。

1つ目は、「大義の明確化とリーダーのコミットメント(責任体制の明確化)」だ。経営だけでなく、各部門トップが責任を持って、文化的背景・ライフスタイルの異なる社員がフェアに活躍できる環境を整えた。トップからは「働き方は多種多様。各部門長・各社社長の責任で進めよ。まどろっこしい報告はいらないから、どの部がだめなのか教えてくれ」といったコメントが発され、社員が成長し、より付加価値の高い仕事の成果を出すことで、会社も成長していくことを示したという。

2つ目は、「素早く着手する進め方と外部知見との連携」である。部門トップの責任で個別に進めるための「特区」として、他部門に先駆けて2010年に設置されたのが「調達本部」だ。調達本部は、再生の重要なミッションの1つに位置づけられ、破綻後の「出血」を止めること、収支改善のための購買コストの削減、購買に関するダブルチェックといった調達体制の見直しを進めた。

調達本部は、今でこそ年間営業費用1兆1,000億円のうち6,500~7,000億円をカバーする中核的組織として134名の規模に拡大しているが、設立当初は25名の部隊だった。改革の先鋒として、慣れない業務や深夜までの恒常的な残業が続き「一番行きたくない部署」として社内で有名だったという。

しかし、今度はむしろそうした環境を改善するために、場所にしばられない働き方が生まれていった。従来、調達本部は金額の交渉や注文など、作成・商談・調整型の仕事が多かったのだが、情報共有できる場や会議室が少なく、オフィスも静かとは言い難い環境だった。

そこで、まず情報を分析しアイデアを企画するような、思考・討議・提案型の仕事へのシフトを試みた。オフィス内に情報交換や会議ができる場所を設置し、フロアも個人作業と複数作業を切り離せるような設計にした。フリーアドレス化やモバイル機器などのITインフラの整備も、積極的に取り入れられたのだ。

特区・調達本部のオフィスの変更前と変更後

この特区と各社・各部の取り組みを整理し「部門で解決できること」「全社で課題解決すること」「すぐに解決できること」「解決に時間とお金がかかること」などをフローチャートのようにして「共通項」を切り出した。これがまさに、3つ目の要素となる「全社共通課題の解決と推進目的の専任組織の立ち上げ」である。切り出した共通項を働き方改革の実現に向けた部門共通のシナリオとし、活動を進めた。

例えば、デスクトップPCからノートPCへの切り替え、文書の電子保存とペーパーレス化、モバイルデバイスやVDI環境の構築、業務プロセスの簡素化、業務の高度化と生産性向上などをステップを踏んで実施できるようにした。

「時間や働く場所、担当業務や職務権限基準の見直しを進めることで、やりがいを持って働き、成長の実感を得られるようになります。社員の成長を会社の成長につなげていったのです」(大西氏)