ソフトバンクは12月19日、総務省 北海道総合通信局の「携帯スマホなどを活用した遭難者の位置特定に関する調査検討会」における実証実験を北海道・虻田郡倶知安町で行った。
この実証実験は、スキー場や山間部における遭難事故が起こった際に遭難位置を特定することを目的としている。これまでは、携帯電話とは異なる専用無線機器を持たせることで位置特定を行っていたが、昨今はスマートフォンユーザーが増えていることから、アプリをインストールするだけで位置情報の特定を容易にすることを目的に据えた。
一方で、雪崩などによって遭難した場合、携帯電話が基地局の電波を拾う可能性が低くなる。これは、水の中で電波が届かないことと同じ理屈で、雪密度と含水率、電波の入射角によって電波の浸透度が変わるためだ。今回の実証実験では、通常の無線基地局とは別に、係留気球とドローンを活用してセルラー電波の中継を行う。
ドローン無線中継システムは、遭難位置に容易に近づけるだけでなく、入射角を大きくすることで電波の減衰を可能な限り減らす |
ドローンは長時間飛行が難しいものの、ドローンによる中継局が稼働している間に救命救助を目指し、その後の捜索には気球を用いる |
気球とドローンを使い分け
ソフトバンク 研究開発本部 フェロー 兼 特別研究室長の藤井 輝也氏によれば、検討すべき技術課題は「スキー場の携帯電話エリア外対策」「積雪に埋もれた端末の位置特定」「積雪に埋もれた端末との通信性能」に集約される。
同社は2011年の東日本大震災を教訓に、基地局の停電・倒壊などによる不通地帯解消策として災害対応係留気球無線中継システムを作り、今年4月の熊本地震でも実際に稼働して一部エリアカバーを行った。気球中継局は100mの打ち上げで半径10kmを円状にカバーできるだけでなく、わずか数時間で展開できる。
ただ、藤井氏らが倶知安町の消防職員らに話を聞いたところ、雪崩における生き埋めになった人の生存率は20分を境目に急激に下がると言われたそうだ。そこでこれまで実績のある気球に加えて検討したものが「ドローン無線中継システム」だった。ドローンは、気球に比べて短時間で運用できるほか、おおよその遭難位置まですぐに到達できる。ドローンの航続可能時間は数十分と限られるものの、その後に展開する気球中継局への”繋ぎ”としてとっさの「救命用」としての展開を想定している。なお、ソフトバンクによるとドローンを用いたセルラー電波の無線中継局は国内初とのこと。
これらの対策によって、電波が到達しにくい積雪下にあっても電波が浸透するようになったスマートフォンだが、位置情報の特定には専用アプリを用いる。仕組みは「Androidデバイスマネージャー」やiCloudの「iPhoneを探す」機能と同等で、入山者やスキー客に対してあらかじめアプリをインストールしてもらう想定で、万が一の際にGPSによる位置の特定とビープ音を鳴らすことで遭難位置を見極める。
ちなみに、「中継局が携帯端末と通信できているのであれば位置情報がわかるのではないか」という疑問も湧く。これについて藤井氏に尋ねたところ、調査検討会の試験受託から試行までわずか3カ月しかなかったことから実現が難しかっただけであり、技術的には指向性を持たせたアンテナの活用と電波強度の測定によっておおよその位置を推定することは可能としていた。
今回実証実験で使用されたドローンは、業務用ドローンの国内メーカー「サイトテック」を使用した。ペイロードは10kgまでとなっており、中継局のシステムが、バッテリー込みで7~8kgのものを搭載。風速10m程度までの飛行が可能とのことで、雪崩が起きやすい状況においては、ある程度安全に飛行できることを想定している(※気球は25m程度まで係留可能)。
ドローンについては、単純に飛行のデモンストレーションしか行われなかったものの、アンテナをドローン下部からぶら下げている様子が確認できた。なお、高度は100mまで飛ばすことができるが、基本的には迅速性を重視しているため、高くしてエリアカバーを稼ぐことは念頭に置いていないようだ。