まずはIoTの推進体制づくりを

「IoT」が新しいビジネス創出のキーワードとして叫ばれるようになって久しい。日本企業の多くもIoTに対して強い関心を示しているものの、なかなか具体的な取り組みまでには至っていない、というのが現実だ。

現在、IoTに関わる何らかのビジネスを実践している日本企業の割合は一桁のパーセントに過ぎないのに対し、欧米の企業では実に3分の1がIoTに取り組んでいるという。これが今後1年、さらには3年後になれば、相当な割合の欧米企業がIoTビジネスをスタートしているはずだ。つまり、世界では本格的なIoTビジネスの準備が着々と進められている状況なのである。

ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティのリサーチ ディレクター 池田武史氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティのリサーチ ディレクター、池田武史氏は次のようにコメントする。

「IoTの重要性は理解していても、では自分の会社は何をどうすればいいのかとなると、”まだわからない”という状況だと思われます。このような場合の結論としては、とにかくまずIoTに関する社内の推進体制を立ち上げてしまうことが大事なのです」

IoTに関する社内推進体制を立ち上げる際のポイントとして池田氏は、IT部門がITの切り口のみで主導権を握ろうとしないこと、それと生産管理部門が”新しいものづくり”という側面にフォーカスし過ぎないことの2点を挙げる。

「自社がつくるべき製品やサービスが大きく変わってくるという見地に立って、関連するさまざまな部門の責任者を引き入れつつ、経営陣が直に進捗を見ることができるような体制を作っていくことが求められます。とはいえ、体制づくりはそう難しくはないはずですので、まずは立ち上げることが肝要なのです」(池田氏)

また、製造業の場合、製品の開発担当者は明確であっても、製品そのもののオーナーがはっきりとしていないケースが多い。そうなると、5年後、10年後にどのような製品を作っていくべきかのロードマップが描き辛くなってくる。

そこで、開発終了後も製品のオーナーを明確にしておき、顧客と製品の未来にフォーカスしながらアイデアを醸成していく。他社の革新的な製品やサービスにもジャンルに関わらず常に意識していく必要がある。それが、将来イノベーティブな製品を生み出す土壌となってくるのである。

IoTは「モード2」の考え方で - 技術的検証だけでなく制度やルールの検証も重要に

本格的なIoTビジネスに向けて具体的な準備を進めるために重要なのが、ガートナーが提唱する、”2つの流儀”を指す「バイモーダル」で言うところの、不連続的であり、俊敏性とスピードを重視する「モード2」の流儀に沿うことである。

池田氏は言う。「これから10年で人々の暮らしは大きく変わってきます。そうなるとさまざまなデバイスから多種多様なデータが集まってくるでしょう。その時に、どういったデータをどう集めて、そこからいかに次のビジネスにつながるようなヒントを見つけるのか、推測を交えてブレインストーミング的に進めていくのがモード2の考え方なのです」

また、単にテクノロジーの活用のみに目を向ければいいというわけではない点にも注意が必要だ。

「個人に関するあらゆるデータが集まれば、その人のライフログが完成することになります。たとえ事前にコンセンサスを得てデータを収集していたとしても、将来思わぬ使い方に発展した時に”やっぱり使わないで欲しい”と拒否される事態が生じるはずです。そうした場合に備えて、技術的な検証はもちろんですが、合わせて制度やルールを常に見直していくといった概念的な検証も必要になるのです」(池田氏)

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