ガートナーは6月24日、「ガートナー ソーシング&戦略的ベンダー・リレーションシップ サミット2016」を開催した。本稿では、ガートナージャパン リサーチ ディレクター 海老名 剛氏による基調講演「『攻守』両立のテクニックを磨く」の内容をレポートする。

ソーシングにおける”攻守”の特徴

ガートナージャパン リサーチ ディレクター 海老名 剛氏

一般に、企業のチャレンジングな取り組みは「攻めの経営」「攻めのIT投資」などと称されることが多い。それに対し、「守りの経営」「守りのIT投資」などと呼ばれるのが既存のビジネスを維持していくための取り組みだ。現代の激しいビジネス競争を勝ち抜くには、攻守のどちらか一方だけではなく、双方を両立させることが重要となる。では、人材やITリソースを調達する「ソーシング」における「攻め」とは何で、「守り」とは何か。

海老名氏はまず、ガートナーが提唱する「バイモーダル」の考えに沿って、「攻めのソーシング」と「守りのソーシング」の特徴を解説した。それによると、攻めのソーシングは、新しい成長への直接貢献をゴールとし、アジャイルやDevOpsなどの開発手法を取り入れながら、迅速かつ柔軟にリソースを調達する。要件・仕様は流動的で、エンドユーザーは最終顧客であり、開発も内製志向となる。

一方、守りのソーシングでは、ビジネス維持のための側方支援をゴールとし、ウォーターフォール型のしっかりした開発手法で、信頼性と効率性を高める。要件・仕様は固定的であり、ビジネス部門をエンドユーザーとして、外部委託を駆使しながら取り組む。

「ソーシングにおいては、インソーシングとアウトソーシングの両面からITを使いこなしていく必要があります。IT部門の多くが守りのソーシングに忙殺される中でも、攻めに転じる取り組みを示し、IT部門の存在感を高めることが大切です」(海老名氏)

海老名氏は、”攻守両立”に向けてクリアしなければならない課題として次の6つを挙げ、それぞれの課題の克服方法について1つずつ解説していった。

  • IT予算の頭打ちと管轄権の拡散
  • 経営層/ビジネス部門が求める期待とのギャップ
  • 攻守両面にわたるIT人材の恒常的な不足
  • 守りのソーシングのライトサイジング
  • 攻めの実現に向けたソーシング戦略の再構築
  • バイモーダル組織の構築

1つ目に挙げられた「IT予算の頭打ちと管轄権の拡散」とは、ビジネス部門が直接IT製品・サービスを購入し始め、今後もその傾向が高まることにどう対応するかという課題だ。 ビジネス部門がITを活用する流れは止めたくないが、「シャドーIT」のようなリスクを抱えることは避けたい。そんなニーズへの答えとなるのは、IT部門への予算管理の集約だ。ビジネス部門主導で製品開発とパートナリングへの関与を強める一方、IT部門がクラウド基盤や、部門横断的に調達するコンポーネントを洗い出して一括調達することで予算(支出)管理するのである。

2つ目の課題は、経営層やビジネス部門がITに対して強く求めるのはITセキュリティやリスク管理であり、その他のことにはほとんど期待していないことに起因する。ガートナーの調査では、経営層によるIT部門への期待を項目ごとに比較すると、重要度と満足度とでギャップが大きい(重要度は高いが満足度は低い)のは、「ITセキュリティ/リスク管理」「ITシステムの安定稼働」「業務改革支援」などだったという。一方、「先進ITの紹介・斡旋」「先進ITを活用した新商品/サービスの創出」は満足度も重要度も低く、ギャップも少なかったとしている。

日本企業の経営層がIT部門に期待すること/出典:ガートナー(2016年6月)

実はこれは、IT部門にとってチャンスとも言える状況だ。海老名氏は、「先進ITを紹介したり、活用の可能性を社内に啓発したりしてIT部門の存在感を高め、今よりも一段上の期待を抱かせることが大切です」とアドバイスした。

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