日本マイクロソフトは6月14日、NPO法人CANVASおよび認定NPO法人育て上げネットと連携し、コンピュータサイエンス教育施策「Microsoft YouthSpark:Programming for all~全ての子ども・若者に~」を7月1日から1年間展開すると発表した。

育て上げネット 理事長 工藤啓氏(左)、日本マイクロソフト 代表執行役 会長 樋口泰行氏(中央)、CANVAS 理事長 石戸奈々子氏(右)

「IT技術の進化に伴い、ソフトウェアの付加価値がどんどん大きくなる今、それを生み出す開発者の価値が高まっています」と語るのは、日本マイクロソフト 代表執行役 会長の樋口泰行氏だ。

世界でもIT教育への注力が始まっており、米国政府は2016年1月30日、コンピュータサイエンス教育を支援する政策を発表。日本でも2016年4月19日、産業競争力会議において、2020年までにプログラミング教育を小中学校の必修科目にするという提言が行われた。

それらに先駆けるようなかたちで、2015年9月16日、米Microsoft CEO サティア・ナデラ氏は、「世界のコンピュータサイエンス教育の普及活動に今後3年間で7,500万ドルの投資を行う」と発表している。

その一環として同社は、2016年4月20日、世界55カ国で100以上のNPO団体とのパートナーシップを発表し、日本においては、CANVASおよび育て上げネットの2団体と連携するに至った。

プログラミング”で”学ぶ - CANVASが考えるIT教育のあり方

CANVASは、2002年11月に設立されたNPO法人。子どもたちの”創造的な学びの場”を創出すべく、産官学連携で活動を行っており、設立当初からプログラミング教育にも注力してきたという。

同団体で理事長を務める石戸奈々子氏は、「子どもたちへのプログラミング教育には14年前から取り組んできましたが、ここ数年で急激な盛り上がりを感じています」と語る。CANVASが毎年開催する、新テクノロジーを活用した学びの場を紹介するワークショップは、開始当初は500人規模だったものが、今では2日間で10万人を動員する規模に成長した。「初等教育からプログラミング教育を必修化する動きが出てきたことで、保護者の関心も高まっている感がある」(石戸氏)という。

「CANVASではプログラマーを育成したいわけではありません。プログラミング”を”学ぶのではなく、プログラミング”で”学ぶことを目指しています。論理的に物事を考える力や、協働して問題解決していく力を育んでいきたいと思っています」(石戸氏)

パートナーシップに基づき、CANVASは6歳~18歳までの遠隔地在住者・女性・障がい者へのプログラミング学習普及に向けた取り組みを行い、1年間で200人の指導者育成と、育成した指導者による指導を含む約100回の授業・ワークショップ実施を目指す。

石戸氏は、「積極的にアクセシビリティに取り組み、プログラミング学習に関する知見も豊富なマイクロソフトと連携することで、新たな事業モデルを作っていきたいと考えています」と意気込みを見せた。

単独の企業・団体ではできないことを - 育て上げネットの想い

一方、育て上げネットは、2004年5月に設立。「若者と社会をつなぐ」をミッションに掲げ、若者支援、教育支援、学習支援、保護者支援などの事業を行っている。同団体の理事長 工藤啓氏は、「どのように次世代を育成していくかが我々の課題です」と語る。

社会環境と産業構造が激しく移り変わり、企業が求める人材要件も変化する今、ITスキルは「あったらいい」から、「ないとダメ」なものになりつつある。就労支援においても、そうした変化に対応していかなければならないが、単独の企業/団体では限界があるのが実情だ。

「1つのNPO団体、1つの企業で頑張るのではなく、エコシステム・コレクティブインパクトという考え方で展開していきたいと考えています」(工藤氏)

育て上げネットでは、今回の施策において「若者UPプロジェクト」に参画する全国のNPO法人41団体と協働し、3,000人の子ども・若者にプログラミングを学ぶ機会を提供する。2010年1月にスタートした同プロジェクトは、マイクロソフトと連携し、社会的・経済的に困難を抱える子ども・若者(原則15歳~39歳)に基本的なITスキルの習得機会を提供することを目的に行われている。「7年目のチャレンジはプログラミング」(工藤氏)だとしており、就労支援とITスキル講習の組み合わせによって、終了後3か月以内に参加者の30%以上が進路を決定できることを目指す。

両団体の協力機関として、マイクロソフトはパートナー企業とも連携し、講師育成や技術ノウハウの提供、社員プロボノの実施、就労体験のサポートを行う。具体的には、ICT環境の整備に7,000万円を投資するほか、トレーナー250名の育成、若者1万人の就労支援、セミナーの開催などを予定している。

「今、新しい時代のスキルを身に付けた人材が不足しています。”一億総活躍社会”に向け、1人でも多くの若者の社会参画を目指していきたいと思います」(樋口氏)