オーダースーツと聞いて何をイメージするだろうか。「自分の体型にフィットするスーツ」「仕事で相手に好印象を与えられる」などのポジティブなイメージがある一方で、「なんとなく敷居が高い」「既成のスーツより価格が高そう」「時間もかかるし作るのが大変そう」といったネガティブなイメージを抱いている人も少なくないはずだ。

そうしたネガティブなイメージを払拭したビジネスウェアのオーダーサービスで注目されているのがFABRIC TOKYOである。「敷居が高い」のではなく「もっと気軽に」、「価格が高そう」ではなく「適正な価格で」、「時間がかかりそう」ではなく「いつでも買える」――そんなオーダーメイドスーツを提供している。

FABRIC TOKYOがコロナ禍でビジネスを軌道にのせた戦略とは

コロナ禍でアパレル小売業が苦戦を強いられる中、成長を続ける株式会社FABRIC TOKYO。7月16日に開催された「TECH+ EXPO 2021 Summer for データ活用 イノベーションのベースを創る」にFABRIC TOKYO 取締役執行役員COO 三嶋 憲一郎 氏 が登壇。同社に成長をもたらした「リテール・デジタルトランスフォーメーション」のポイントについて解説した。

三嶋憲一郎氏

FABRIC TOKYO 取締役執行役員COO 三嶋憲一郎氏

FABRIC TOKYOのマーケティングコンセプトとなるのが「スマート・オーダー」である。ユーザは自身のサイズをリアルストアで計測し、クラウドに登録する。すると登録したデータをもとに、いつでもどこからでもオーダースーツが注文できるようになるというわけだ。

同社はスーツやシャツ以外にジャケットやチノパンなどのカジュアルアイテムも手がけており、一度登録すればさまざまなアイテムがオーダーメイドで手に入るようになるのがメリットといえる。

同社のビジネスモデルは従来のアパレル企業とは多くの点で異なっている。たとえば従来のアパレル企業は売上が店舗数に比例しており、収益性を高めるには大型店舗などの目立つ店舗が多数必要だった。

一方でFABRIC TOKYOは集客から注文、アフターフォローまでのほとんどをオンラインで完結でき、ユーザーリテンションも高いため、一定の店舗数で高い売上成長が期待できる。また、店舗機能も採寸に特化できるため、独自の店舗設計が可能になり、在庫をあまり持たなくていいというメリットもある。結果として、高いリピート率を背景に収益性の向上を図れるのだ。一般的に小売業における営業利益率は10%あれば高いといわれるが、同社の営業利益率は10%を優に上回る数値を達成しているという。

コロナ禍もあり、小売業全体が苦境に立たされる中、同社はどのようにして成長を続けてきたのだろうか。

三嶋氏は「コロナ禍で浮き彫りになったのは、人々の嗜好、価値観、ライフスタイルが多様化していること。時代の変化を常にキャッチアップし、従来の既成概念や組織の力学を捨てて、すべてを顧客視点で考える必要がある」と指摘。そのためには「WHO(顧客ニーズ)とWHAT(提供価値)を見直し、顧客と自社の事業の関係性を作らなければならない」とした上で、「その前提があることで、はじめて双方にとって必要なデジタル施策が洗い出されるのです」と述べた。

また、「どんな顧客にどんな社会価値を届けたいのか」という「ビジョン」も重要であるとし、「ビジョンのアップデートを怠ってきたことも、小売業が苦境を脱しきれない要因のひとつ」だと分析した。

では、FABRIC TOKYOは何をおこなってきたのか。

同社が目指しているのは「リテール・デジタルトランスフォーメーション」だ。リテール・デジタルトランスフォーメーションとは、ITに関わるHOW(手段)だけの話ではなく、WHY(ビジョン)にはじまり、WHO(顧客ニーズ)やWHAT(提供価値)を含めた総合的な変革である。

そして、リテール・デジタルトランスフォーメーションを達成するために同社がとったビジネスモデルこそが「D2C」なのだ。

D2Cとは「Direct to Consumer」であり、企業がECサイトなどを通して顧客に直販をおこなうビジネスモデルのことである。ただし、オンラインに売り場を構えただけでは成功には近づけない。オンラインならではのテクノロジーを駆使し、データを活用して顧客との接点を維持する必要があるのだ。その意味で、FABRIC TOKYOのようなD2Cスタートアップ企業は「モノ売りの皮をかぶったテックカンパニーである」ともいえる。

D2Cを語る際によく聞かれるのが、UX(経験)やLTV(生涯価値)、Customer Success(成功)といったキーワードである。

三嶋氏はまず、「UX」について次のように説明する。

「世の中は贅沢になりました。多様で豊かな時代になり、価値観もさまざまです。そうした中で、”モノからコトへ”という変化が起きており、コストやサービスによる差別化だけでなく、良質な体験による差別化が重要になっています」(三嶋 氏)

良質な体験とは、「ユーザが本当はそうしたかったけれども、そうしたいと言えなかったこと。無意識のうちにあきらめていたこと。そんなエクスペリエンスを目の前に差し出してあげること」であるという。

さらに、D2Cはその体験を一歩進めて、「変身」の要素を加えることが重要だと三嶋氏は話す。

この流れをFABRIC TOKYOに当てはめると、次のようになる。

FABRIC TOKYOの顧客が同社のサービスを最初に受ける動機は、主に「利便性」だ。冒頭でも述べたように、オーダーメイドスーツはネガティブなイメージがあり、FABRIC TOKYOはそんなイメージを払拭するサービスを提供している。だから、顧客はまずFABRIC TOKYOのそうしたイメージに惹かれて同社のサービスを受けるのである。