D2C(Direct to Consumer)、サブスクリプション(サブスク)、DX……デジタルにまつわる用語がちまたに溢れかえっている昨今、企業と顧客との関係はこれからどのように変わっていくのだろうか。長年にわたってデジタルマーケティングに取り組んできたシンクロ 代表取締役社長/オイシックス・ラ・大地 執行役員/GROOVE X CMO 西井敏恭氏は、「これらの本質を理解しなければ間違った解釈をしてしまう」と忠告する。

9月16日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「Digital Marketing Days Day1:[BtoC] 新時代におけるコンシューマーとの関係構築」において西井氏は、博報堂買物研究所 所長 山本泰士氏との対談形式で、マーケターとして変えていくべき考え方などについて語った。

山本 泰士氏、西井敏恭氏

(写真左)博報堂買物研究所 所長 山本泰士氏、(写真右)シンクロ 代表取締役社長/オイシックス・ラ・大地 執行役員/GROOVE X CMO 西井敏恭氏

なぜ今、サブスク/D2Cがトレンドなのか?

2014年頃に米国から流行が始まったD2C。メーカー直販という側面だけみ見れば、昔からよくあるビジネスモデルだ。サブスクも月額課金型のサービスだと捉えると、新聞やケーブルテレビなどで採用されている古くからある形態と言える。なぜこのタイミングで従来とは異なる言葉が使われ始め、昨今のトレンドになっているのか。西井氏によると、こうした現状を理解するために重要となるのがマーケティングであるという。

モノ売りが中心だった従来のマーケティングでは、市場調査からスタートし、商品開発、認知/販促/セールスを経て、カスタマーサポートへ、という流れで取り組むことが一般的であった。しかし、こうしたマーケティング業務の一部の機能がWebへと置き換わり、さらにスマートフォンの普及によって「デジタルマーケティング」という言葉が登場した。

従来のマーケティングと比べて、アプリなどを活用して顧客情報に容易にアクセスできるようになった点がデジタルマーケティングの特徴の1つだ。これにより、マーケティングの考え方が「商品をどう売るか」という視点から、「顧客の状態を知る」という視点へと変わってきている。

西井氏はこうした昨今のマーケティング業界の潮流を踏まえた上で、「ビジネスモデルではなく、マーケティングの手法やあり方が変わってきているということがサブスクやD2Cの本質」であると主張する。

西井氏の主張は、動画配信サービス「Netflix」など初月無料のサブスクサービスを例に考えると理解しやすい。従来のマーケティングでは、顧客が製品購入に至るまでの過程を重視していたが、サブスクやD2Cサービスではどちらかと言うと、契約後の継続的なマーケティングのほうに軸足を置いている。サービスや製品を継続的に顧客に使ってもらうことがビジネスにとって重要であり、そのためにデジタルの活用が必須となる。それこそが、サブスクやD2Cサービス、そしてデジタルマーケティングの本質というわけだ。

西井氏が関わるオイシックスでも、有機野菜などの食品定期宅配サービスにおいて、顧客のアプリ利用状況を基に、どの時間帯にどの売場を見て購入に至ったのか、どういうユーザーがサービスを使い続け、どういうユーザーが解約したのかを日々分析/理解していくことで、サービス改善や新製品開発などにつなげている。サブスクサービスは一般的に毎月安定的に売上が入るというメリットが挙げられがちだが、西井氏は「そうではない」ときっぱり否定。自身の経験を踏まえて、「毎月続けてもらうこと自体が大変」とそのマーケティングの難しさを指摘する。