ダイレクトマーケティングやワントゥワンマーケティングという言葉が叫ばれて久しいが、実践できているという企業はそう多くないだろう。KDDIは、2015年4月に立ち上げたCX推進部による「お客さま体験価値向上プロジェクト」という取り組みを進めており、3846万人という豊富な顧客基盤を抱えながらも、ユーザー1人1人へのアプローチを続けている。

「Xperia好き」を「auのXperia好き」に

その1つが「Xperia オーナーズパーティ」だ。2015年10月より始まったこの取り組みは、今回取材した石川県・金沢で4回目(そのほかに東京・名古屋・大阪・高松)。初回はソニー本社にあるショールームで行われたが、その好評ぶりから2回目は東京・名古屋・大阪、3回目は福岡・札幌・広島・仙台・東京と地方へと場を広げている。

このパーティの醍醐味は、Xperiaユーザーと開発者が直接対話できる機会設定にある。

「元々、ソニー担当者との飲み会で出た話だったんです。ソニー本社のショールームを見た時、とても感動して『この感動をユーザーに届けたい』と思いました。ただ、初回の開催時に『この場所に感動してもらえるかな』と想定していたら、いらっしゃったお客さんが一番感動していたポイントは『開発者との懇親会』でした。

当時は立食形式だったんですが、2時間もの間、開発者とユーザーさんが、食事に手を付けることなく、ひたすら話し込んでいてイベントが終わりました。この状況を見て『目からウロコ』という言葉が見に染みました(笑)。本当に熱心にXperiaを使っているユーザーからすれば、開発者がどういう思いでXperiaを作っているのか知れる機会。この2時間で、『これなんだ』と思いました」(KDDI コンシューママーケティング本部 コンシューママーケティング1部長 渡辺 和幸氏)

金沢のイベントではソニーモバイルのエンジニア10名が来場し、ファンとの交流を行った。元々Xperiaユーザーを対象としたイベントのため、いわゆる濃い「ソニーファン」が、最新の「Xperia XZ」の開発裏話を聞き、歓声を上げていた

初回のイベントへの応募は1万人を超え、4回目でも7700名の応募、当選確率は3%(競争倍率32倍)という狭き門。東名阪と石川県、香川県のイベントながら、17都道府県から応募があり、年齢層も18歳~60歳と幅広い。

「Xperiaは日本全国にファンがいる。今回のイベントでKDDIの全支社を回りましたが、とにかくどこの場所でもユーザーさんの熱量はすごい。最初は技術解説のプレゼンテーションをメインにしていたのですが、前述の通り『開発者との対話』がお客さまにとっての最大の関心事。今回は初めて、開発者懇親会を軸に据えました。ソニーからも『エンジニアが直接お客さまとやり取りできて喜んでいる』という声をいただいています」(渡辺氏)

ただ、Xperiaと言えばNTTドコモの「Xperia X10」が国内で初めて登場した端末であり、Xperia Z3からはソフトバンクでの取り扱いもスタートした。先日発売されたばかりのXperia XZも3キャリア横並びであり、「auのXperia」が際立つ要素はあまりない。「オーナーズパーティでアンケートを取っていますが、Xperiaユーザーを対象としたイベントですので、『Xperiaが好き』という回答が100%なんです。でも、『auが好き』という回答はそれほどまで伸びない」(渡辺氏)

そうした状況で重要視するのが、冒頭でも触れたダイレクトマーケティングの実践だ。ユーザーと直接コミュニケーションする機会を持つことで、CX(Customer Experience、顧客体験)の向上を図り、直接ソーシャルメディアに投稿させることで拡散を狙う。

「参加者はこの金沢で言えば40名とかなり小規模ですが、募集段階で(5会場合計)1万弱の応募があり『こういうイベントがある』といった拡散も見込める。イベント内でハッシュタグを利用してTwitterやFacebook、Instagramなどへの投稿を行っていただくのもあわせると、数十万人へのリーチがあると試算しています」(渡辺氏)

フォトグラファーの東真子氏が来場し、Xperiaでの写真の撮り方を指南。会場で撮影のコツを教え、そのままソーシャル拡散を狙う

イベントの反応は満足度が99%(過去イベント合計)とすこぶる良く、イベント後のアンケート調査では「auが好き」という回答も100%近くまで跳ね上がるそうだ。「楽しめる機会をセットしてくれたau」という感情が重要で、その印象がユーザーの好意的な投稿に繋がり「好印象の波及効果が生まれていると手応えを得ています」(渡辺氏)。この波及効果を精査すると「費用対効果でも、イベント開催は十分に成功している」(渡辺氏)。