1台のスマートフォンにインストールされているアプリは36個、1日平均6個のアプリが利用されている。それが日本の環境だ。一方でお隣の韓国は、53個のアプリをインストールし、1日に11個のアプリを利用している。どの国も同じスマートフォンを利用しながらも、このように少しずつ傾向が異なっている。そんな調査をGoogleが行っている。

TNS協力のもと、Googleは日本や韓国、中国、インド、東南アジア諸国の計10カ国、およそ1万名のiPhone、Androidユーザーを対象に、モバイルアプリの利用実態調査を行った。前述の通り、日本は平均して36個のアプリがインストールされており、2015年の32個から伸びている。

ただ日本はインストール数こそ5位だが、平均アプリ利用数は6個の10位(つまり最下位)となっている。こうした状況を含めて「日本の他国との違いが際立っている」とGoogle Asia Pacific アジア太平洋地域マーケットインサイト シニアリサーチマネージャーの柿原 正郎氏は話す。

Google Asia Pacific アジア太平洋地域マーケットインサイト シニアリサーチマネージャー 柿原 正郎氏

日本の他国との違いは、例えばアプリのカテゴリの違いだ。毎日利用するアプリのカテゴリで、4カ国の1日における平均利用率1位が「SNS」、もう4カ国が「メッセージング/コミュニケーション」だった。日本と韓国は「検索」が1位で、2位も仲良く「ニュース・天気」、3位は韓国が「ゲーム」、日本が「メッセージング/コミュニケーション」だった。SNSとコミュニケーションが1位だった国は、2位がそれぞれ入れ替わる形の結果であり、日本と韓国の違いが浮き彫りになる。

また、面白いのが「1日あたりの利用時間」のカテゴリ順位で、日本を除く9カ国がメッセージングor SNSであるのに対し、日本はゲームとなっていた。なお、日本においてはメッセージングが3位にすら入らず、「音楽・オーディオ」が3位となっている。

日本は「iモード文化」で他国との違い生まれる

この結果を見て柿原氏は、「日本や韓国は、”スマホ前”からモバイル環境で情報を取得することに慣れていることが、こうした違いになった」と解説する。iモードが登場して15年以上がたち、そのエコシステムを模倣したとされるiOSやAndroidスマートフォンが情報化社会の中心になった状況は、以前からの「ICT体験」が文化として定着している以上、日本や韓国ではやることが変わらないという話だ。

「モバイルデバイスで情報を調べ、ゲーム、マップを使う。ユーザーのビヘイビアが、初期のモバイルから完全に根付いている。もう一つ細かい点で言えば、日本はそうした環境から、モバイルWebサイトの発展・普及も早く、小さいディスプレイでどう情報を収集するか、そしてサプライサイド(サイトオーナー)としても『どうやっていい情報を載せるか』を考えていた。これが検索利用率の高さにつながっている」(柿原氏)

一方で、この環境にはオポチュニティもあれば、リスクもある。日本におけるスマートフォンの普及率は7割程度で、9割を超えるシンガポールや韓国、そしてPCよりも普及率の高い東南アジア諸国の状況を踏まえると「今までの(モバイルWeb、アプリの)成功体験に引きずられて、スマホアプリのトレンドに乗れない、通用しない恐れがある」と柿原氏は指摘する。

「オポチュニティ」で言えば日本は「携帯キャリア決済」がフィーチャーフォン時代から整備されており、クレジットカードが持たない若年層などでも有料アプリへの課金体験が可能となっていた。

「音楽やニュースサイト、ゲームなど、情報・データに対する課金をフィーチャーフォンの時代から行っていたため、相対的にコンテンツ産業への寄与が大きくなる。日本がスマホゲームで一日の長があるのは、この仕組みのおかげ」(柿原氏)

ではリスクとは何か。

「他国のスマホ普及率が9割というのは、残りの1割が『ラガード(旧態依然な人)』である以上、ほぼ”行き渡った”と言える数字です。つまりイノベーター理論で言うアーリーアダプタからレイトマジョリティまで、すべてがスマホへ移行している。一方で日本は2~3割が依然としてスマホに移行せず、彼らの取り込みをこれから行う必要がある。

彼らに向けたアプリ開発を考えると『周りが使っているから仕方なく……』という考えの人が入ってくるわけですから、”今までの成功体験”が通用しませんし、他国でも同じようなアプリを提供しようとすれば、日本と同じ戦略では通用しない可能性がある」(柿原氏)

この発言は重い。「機能オリエンテッド」な形でスマートフォンが、そしてアプリマーケットが広がってきたものの、これから来る残りの2~3割は、その目新しい機能をまるで求めていない。ヘビーユーザーばかりに目を向けがちだが、せっかくの「残り3割」を見過ごすことになれば、それもまた考えもの、ということだ。

「シンガポールや韓国は3年前に6割まで普及し現在に至った。彼らの体験から学ぶとすれば『どう(アプリに)親しんでもらえるか』『生活する上で、自然に使ってもらえるアプリ体験は何か』ということ。日本のスマホユーザーのアプリの利用頻度が低いゆえんも、このあたりにあると見ています」(柿原氏)