「経験と勘」から「データ分析」へ、SUPER GTで舵を切ったトヨタ

[2016/11/25 12:28]徳原大 ブックマーク ブックマーク

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SUPER GTの第8戦が11月13日、栃木県のツインリンクもてぎで開催された。最終戦は、DENSO LOBELCO SARD RC Fの39号車が優勝し、1位~5位までをレクサス勢が上位独占した。年間のチームランキングでも、3位のNISMOを除く1~6位にLEXUS勢が入り、3シーズン目を迎えたRC Fベースのマシンが花開いた年となった。

そのレクサス勢のベース車を開発している会社がトヨタ テクノクラフトのTRD(Toyota Racing Development)だ。開発から製造、メンテナンスまで一手に引き受けているが、日産自動車におけるNISMOとは異なり、チーム運営はそれぞれ別の会社となる。例えば、後述するKDDIがスポンサーの「au TOM’S RC F」は、トムスがチーム運営を行っている。

チーム運営こそバラバラだが、ベース車の開発を行うTRDとしては、レースで得られるデータ、知見を集約し、車の改良に活かしたいところ。そこでTRDは、今年度よりクラウド基盤を構築し、多岐にわたるデータの集約、ビッグデータ利活用の試みを始めた。

“勘”を”データ分析”に

「以前からデータ分析をやっていなかったわけではありません。ですが、以前よりもっと高度な形で情報を分析していこうという機運が高まり、まずは基盤作りに着手しました。情報ソースはいくらでもありますから、これを集約しないとなと。車両から送られてくるさまざまなセンサーデータ、サーキットから得られるデータ、GTA(レース運営母体)のタイムのデータ、担当者の目視情報、ドライバーの無線通信の会話ログ、天気、路面温度、気圧と色々あります」

こう話すのは、トヨタ テクノクラフトのTRD開発部 MS車両開発室 第1シャシグループ グループ長の清水 信太郎氏。清水氏によると、これまでのデータ分析はリアルタイムにデータを確認できるタイム情報や気温などの分析と、レース終了後に得られる車両のセンシングデータを持ち帰って分析で、管理が別々になっていたそうだ。

トヨタ テクノクラフト TRD開発部 MS車両開発室 第1シャシグループ グループ長 清水 信太郎氏

前者で言えば、監督らがモニタ越しにタイムデータと気温、路面温度、レース状況などから、「あのチームの車のタイムが早くなってきたからピットインはまだ」「ウォームアップがまだ済んでいない」といった見極めを経験と勘で分析していた。

「数値化できる道具が揃っている今、経験に頼っていた分析を根拠に基づくことで正確性や幅が広がるという判断です。もちろん、テクニカルに分析できるのであれば継承・共有が円滑になるという視点も重要視しています」(清水氏)

データは逐次モニタに表示され、監督らが分析に活用する

先に触れたKDDIは、このデータをアップロードする通信環境の整備を担った。KDDIと言えばモバイル通信網……と言いたいところだが、現場からさまざまなデータをクラウド基盤にアップロードするために、広帯域で安定した通信環境が期待できる有線回線を引いているそうだ。ただ、末端経路はコードの取り回しが足かせになることから、業務用Wi-Fiアクセスポイントを設置し、混線による速度低下を回避するために5GHz帯で運用している。

「今までの情報共有環境がしっかりとしていなかったことから、ネットワーク環境作りはKDDIさんにある程度任せています。SUPER GTでは全国のサーキットを回るんですが、場所によってはどこかの部屋からLANケーブルを引っ張ってこないといけないところもある。KDDIの技術スタッフの方が都度で環境を確認して、通信環境を整備していただいています」(清水氏)

AWSによるデータ管理からSAPの分析基盤へ

では、実際にどのようにデータ分析を行ったのか。同社はサイトフォーディーにデータ可視化の相談を行い、当初はAWSによるデータ管理を始めたそうだ。

「シーズン当初はあくまでトライアル。TRDスタッフだけがデータ管理を行い、レクサス勢のタイムデータのグラフ化・分析などを行っていました。例えば『ブリヂストンタイヤを履いているレクサスはこういう傾向が出ているね』といったものです。ただ、シーズン後半にシステムを機能強化のためにSAPに切り替えたんです。また、情報共有のために各チームスタッフにもデータを開放したところ、つぶさにデータを見るようになりましたね」(清水氏)

現在は、GTAが提供するタイムデータなどは直接クラウドへ、現地で計測している温度や気圧などは手入力でクラウドへアップロードしている(※直接アップロードするインタフェースは開発中)。データの相関分析については、「車」という精密機械が多種多様な部品から構成されているように、環境が部品に与える影響も多岐にわたる。

例えば、普段生活する上であまり意識することのない路面温度はタイヤ選定に大きな影響を与えるし、気温や気圧もエンジン特性に関係する。

「夏場のレースでは、天気が悪いと30度程度、快晴時には50度まで上がる時もあります。これが1回のレースで20度も変化するとなれば、選ぶタイヤのゴムの種類によって勝敗、タイムが大きく変わるんです。これに加えてサーキット環境も大きな要素です。アスファルトであればタイヤが食いつくグリップ性を発揮しますが、コンクリートのような表面がすべすべしたコースでは、柔らかいゴムを履かせなければスリップしてしまいます。だから、タイヤメーカーさんは路面を専用スキャナで測って解析されていたりしますね」(清水氏)

これに加えてレース展開、”あや”も加味した上で戦略を立てなければ行けないのだから、余計に多角的な情報分析基盤が必要となる。

「タイムデータにしても、区間データが重要だったりするんです。このエンジンであれば直線に入った時にこのタイムで、日産がここは早く、うちは遅いとれば、戦略が変わりますよね。持ち帰って後からの分析になっていたものが、リアルタイム分析が可能となれば、その場で戦術に反映できる、そんなことを期待しているんです」(清水氏)

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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