5月11~13日に開催された「第5回IoT/M2M展 春」。その専門セミナーに、アビームコンサルティング 製造ビジネスユニット 執行役員 プリンシパルの永井善彦氏が登壇し、「今、IoTはどうなっているのか? ~海外・国内におけるIoTビジネスモデル変革の現状と今後の課題~」と題する講演を行った。本レポートでは、その内容をダイジェストでお届けする。
ものづくり志向のドイツと、サービス志向の米国
永井氏は、大手自動車部品会社、外資大手コンサルティング会社などを経て、アビームコンサルティングに入社。製造業の実務に精通し、日本において数多くのサプライチェーンマネジメントを支援するなど、業務改革、経営改革、ビジネスモデル改革の豊富な経験を持つ。講演では、そんな永井氏が現場目線でIoTの最新動向を紹介するとともに、日本が今後実施していくべき取り組みについて解説した。
アビームコンサルティング 製造ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル 永井善彦氏 |
氏はまず、IoTの潮流を示すものとして、米国やドイツをはじめとする海外の動向を挙げた。目立つのは、海外企業によるIoT関連企業の買収だ。なかでも、2014年2月にGoogleが設立わずか4年のNestを3,200億ドルで買収したのは大きな話題になった。最近でも、CiscoによるJasper Technologies、IBMによるWeather Company買収など、大型買収が相次いでいる。
「IoTは米国、ドイツが先行して標準化推進や政府方針を発表し、日本と中国がそれに追従しているかたちです。Industrie 4.0などからもわかるように、ドイツが生産の自動化・標準化志向が強いのに対し、米国はIndustrial Internet Consortium(IIC)による推進など、IT企業によるサービス化志向が強く見られます。一方、日本は技術力は高いものの、オープン性が低い傾向にあります」(永井氏)
IoTの活用事例は、自動車、自動部品、建設機械、農業用機械、電力、医療、小売、流通、住宅、家電など、あらゆる業種に及んでいる。アビームコンサルティングが2015年にIoTの活用度について、企画から製造、流通、販売、アフターサービスに至るバリューチェーンのどこで活用が進んでいるかを調査したところ、製造とアフターサービスの分野での取り組みが特に多かったという。たとえば、自動運転や予知保全、スマートメーター、トレーサビリティなどだ。
永井氏は、「ドイツでは、Industrie 4.0の一環として200以上の応用事例マップが公開されていて、どんな企業がどんな取り組みを行っているかを知ることができます。シーメンス、ボッシュ、SAPといった代表的な企業は、米国のIICにも参加し、連携して取り組みを加速させています」と説明する。
ボッシュのホンブルク工場における取り組みなどは、その良い例だろう。Industrie 4.0では規格として「RAMI4.0(Reference Architecture Model Industrie 4.0)」があり、IICには「IIRA(Industrial Internet Reference Architecture)」がある。ボッシュのホンブルク工場では、このRAMI4.0とIIRAを併用し、生産プロセスと電力消費を可視化するシステム「デジタルツイン(Digital Twin)」システムを導入している。
ほかにも米国では、スタートアップによるインターネットとIoTデバイスを組み合わせたサービス開発が活発に行われている。スマホを自転車の鍵に使ったり、スマート温度計で自宅の省エネを実現したりといったさまざまな事例が存在する。永井氏は「IoTを使った従量制の保険サービスの展開も注目できるポイントです」と語る。
とはいえ、センサを使って工場の稼働状況を把握したり、生産性を向上させたりといった取り組みはかねてより行われてきたものだ。IoTは、それらと一体何が違うのだろうか。
「IoTが従来と異なる点は、扱うデータ量が圧倒的に増え、精度の高い分析が可能になったことや、工場内だけでなく製品を利用する顧客のサービス拡充にまで守備範囲が広がったことです」(永井氏)