FedExがAmazon.comとの米国内サービスの契約を更新しないと発表した。2013年からAmazonは独自の配送網を拡充させており、Eコマースからインフラであるクラウド事業を成長させたように、物流でFedExやUPSに競合する存在になる可能性が指摘されている。契約終了はAmazonとFedExの対立の表面化というわけだ。しかし、これはそんな限られたパイを争う小競り合いではない。状況はむしろ逆で、AmazonにはAmazonで独自の配送システムの構築をがんばってもらい、FedExはFedExたちで増加するオンラインショッピングの小荷物に対応する態勢を整えていかないと、遠くない将来に宅配サービスは増加する荷物に押しつぶされてしまう。だから、FedExの発表をきっかけに「フィジカル・インターネット (physical internet)」の構築にもスポットライトが当たり始めている。

  • 週3日の配達を来年1月から週7日に、背景にはオンラインショッピングの増加

    週3日の配達を来年1月から週7日に、背景にはオンラインショッピングの増加

リアル店舗で買い物する人が減り、閉鎖モールが増加、実店舗ではお客さんが手に取れるサンプルだけを置いて購入はオンラインというスタイルのショップも増えている。FedExはオンラインショッピングの増加で小サイズの荷物の配送数が2026年までに倍増すると予測している。買い物のオンラインへのシフトは"待ったなし"という状況だ。対策の1つとして、FedExは現在の週6日の配達を来年1月から週7日に増やす計画を5月末に発表した。もちろん今のまま、毎日配達に切り替えるならブラック化でしかない。そうではなく、小荷物が常に動き続ける効率的なシステムを確立しようとしている。Amazonとの契約を更新しないのも、自身の配送システムをコントロールするための戦略的な決断である。こうした動きはFedExだけではなく、UPSもオンラインショッピングの増加への対応を進めている。

  • FedExが開発する配達ロボット「FedEx SameDay Bot」

しかし、それらだけで対応できるだろうか? ここ数年の米国のホリデーシーズンにおける配送サービスの不安定さを思い出すと、それが年中続くような将来に不安を覚える。そこでフィジカル・インターネットの必要性を訴える声が上がり始めた。荷物を動かしているのはFedExやUPS、Amazonだけではない。他にもDHLやXPO Logisticsといった物流企業がいくつもあり、さらに中小の運送会社を含めると、そのシェアはかなり大きなものになる。そうした企業や会社も巻き込んだ物流産業のディスラプト (破壊)と再構築で、リアルからオンラインへの大きなシフトを成し遂げようとしている。

フィジカルインターネットというのは、情報へのアクセスやコミュニケーションを変えたインターネットの原理、メソッドや技術を、物理的な"もの"に適用すること。概念的な言葉であり、物流だけではなく、いくつかの分野でフィジカル・インターネットの適用が議論になっている。

例えば、サンフランシスコから東京にネットを通じて10MBの写真を送ると、画像はパケットに分割され、パケットごとに最も効率的に送れるルートを通って送信される。そして東京で再構築されて写真になる。インターネットでは、それがシームレスに行われている。

今の米国の長距離トラックは10MBの画像をまとめて送っているようなもので、色々と非効率である。例えば、荷物を積まずに走る「dead heading」と呼ばれるトラックが全体の20%も存在する。荷台を満たさない状態で走るから、必要以上に大きなトレーラーがハイウェイを走ることになる。

物流におけるフィジカル・インターネットのシンプルな例を紹介すると、短距離、中長距離、長距離、米国を走るトラック/トレーラーのネットワークを構築、積載状況の情報を共有し、空いているスペースに荷物を入れて常に満載で走らせるようにする。荷物のサイズがまちまちだと空きスペースができるので、40フィートのコンテナを基本に、コンテナを隅まで埋められるボックスを規格化し、同じ大きなのコンテナとボックスを使用する。大量の荷物の運送も、それらをまとめて運べる空きを探すのではなく。画像をパケット分割するようにボックス単位で、早く送れるスペースがあればそこに入れてどんどん送り出す。

40フィートのコンテナは重量が約40,000ポンド、体積が約2,300平方フィートまで積載できる。ポップコーンの場合、2,300平方フィートを埋めても11,000ポンドの重さしかない。薄板鋼板の場合は逆に、200平方フィート程度で積載可能重量の上限に達してしまう。そこでポップコーンを積んだトラックの小さな余りを鋼板で埋めるというような組み合わせにすると効率性が向上する。

もう少し踏み込んだ適用例だと、トラック運転手の労働環境改革である。今日の長距離ドライバーは、1日に11時間も運転し、数日をかけて大陸を大移動することも珍しくない。行きの荷物はあっても、帰りにも上手い具合に荷物を運べるとは限らずdead headingが起こってしまう。また、長距離移動の往復となると数週間も自宅に戻れず、トラックとホテルで暮らすことになる。そのストレスは大きく、多くの長距離運転手が生活を変えるために転職を選んでいる。

そこでトラック運転手が1日で往復できるぐらいの間隔でハブを設けた輸送ネットワークを構築する。1人の運転手が長距離を走るのではなく、自宅近くのハブから5時間ぐらい走って別のハブにコンテナを運ぶ。そこから別のコンテナを載せて戻るので、運転手は自宅を離れた生活を送らずに済む。運転手が運んだコンテナは別のトラックが別のハブへと輸送する。ハブで何度もコンテナを載せかえるのは非効率的に思えるかもしれないが、荷物を載せたまま休憩所やモーテルの駐車場に長くとどまるようなことにはならない。コンテナは昼も夜も継続的にハブからハブへと移動し続けるため、長距離でも今より効率的に輸送できる。

今はまだ輸送のフィジカルインターネットは概念であり、形になるとしても、初期のインターネットがそうであったように、ネットワークが広がる可能性を実感できるだけになる可能性が高いし、そこから開花できずに終わってしまうかもしれない。でも、例えば、先週に行われたAppleの開発者カンファレンス「WWDC 2019」はセッションがライブキャストされて、誰でもリアルタイムで視聴できた。もしインターネットが無かったら、サンノゼまで旅行して参加する以外にWWDCをリアルに体験することはできなかった。インターネットを流れるデータのように、クモの巣のようにリンクした配送ネットワークをボックスがシームレスに行き来する未来がどのようなものになるのか、想像してみる価値はある。