先週の金曜日、郵便受けに「A Holiday of Play」という見慣れないカタログが入っていた。Amazon初の印刷物の商品カタログ、ホリデーシーズン向けおもちゃカタログだ。最初はAmazonからと気づかず、こういうカタログはすぐにゴミ箱行きにしてしまうことが多いのだが、デザインが良く、しっかりとした作りだったので、つい手に取ってしまった。

ホリデーシーズンのおもちゃカタログというと、米国に住んでいる人ならToys "R" Usのカタログを思い浮かべる。11月初旬ぐらいに送られてきて、子ども達が食い入るようにチェックして赤丸を付けておく。しかし、今年Toys "R" Usのカタログは送られてこない。同社が破綻してしまったからだ。そのおもちゃカタログという文化の穴をしっかりと (ちゃっかりと?)Amazonが埋めた。

A Holiday of Playは、最初のページが子ども達が欲しいおもちゃを書き込むウィッシュリストになっていて、また子どもが好きなおもちゃに目印として付けられる「Nice」「WOW!」といったシールも用意されている。

  • クリスマスツリーの形をしたウィッシュリストと、子どもからのメッセージになるシール

カタログに掲載されている商品には価格が記載されていない。製品名と対象年齢、商品識別コードが書かれているのみだ。Amazonの価格は常に変化しており、購入するユーザーによっても、Primeメンバーであったり、住んでいる地域などによって異なるからだろう。Amazonアプリと連動するようになっていて、製品名や商品識別コードで検索したり、各ページのQRコード (SmileCode)をスキャン、または商品をイメージ検索することでAmazonの商品ページにアクセスできる。

各ページにびっしりと商品を並べていたToys "R" Usのカタログに比べると、Amazonのカタログは1ページに5~10点ぐらいと少なめ、全部で500点ぐらいだ。Amazonの膨大な商品群の中から、一部の商品だけを選ぶことについては様々な議論になっている。Amazonが広告事業にも力を入れていることから有料掲載説もあるが、Amazonで価格を調べた製品はいずれもレビュー平均のポイントが高かった。レビューと売れ行き、ブランド力、トレンドなどを総合的に判断して、オススメできる商品が選ばれているように思う。Amazonは、今年「Amazon 4-Star Store」というレビュー平均が4つ星以上の商品を集めたリアル店舗をいくつかオープンさせたが、A Holiday of Playの商品選びもそれに近い。Toys "R" Usのカタログだとカタログで興味が持てないおもちゃのページは飛ばし読みだったが、Amazonのカタログだと「この商品がなぜ選ばれている?」と思って、ついAmazonアプリで調べてしまう。

米国において印刷カタログは10年前から量が半減した。カタログは衰退しているマーケティング手法である。カタログを武器にしていたSearsやToys "R" UsはAmazonに市場を奪われた。だが、カタログに全く効果がないかというと、Anthropologie、Brookstone、Crate & Barrel、IKEA、Patagonia、Wayfairなどは今もカタログを大きな売り上げにつなげている。よくデザイン・編集された紙のカタログは眺めていて楽しいし、その時にどんな商品があるのか、Webサイトよりもよく把握できる。Amazonを自由にブラウジングするには早すぎる子どもには特に最適で、ウチの子はAmazonのカタログを何度も繰り返し読み込んでいる。

  • 読みやすいデザイン・装丁、コンビニ「Amazon Go」やリアル書店「Amazon Books」もそうだが、ユーザーの体験の満足度を優先、その上で売り上げを最大限化する。

小売り側から見たカタログの課題は、カタログを見て商品に興味を持ってもらった人に購入してもらうことだろう。IKEAのように自社製品のみを販売しているのならともかく、Toys "R" Usのような小売りの場合、カタログで見つけた商品の購入をAmazonに奪われる可能性がある。実際、そんな消費者が少なくなかったからToys "R" Usは破綻した。だからといって、今でも多くの人達に好まれている紙のカタログをあきらめるのは早計だ。

ここ数年のToys "R" Usはリアル店舗の強みを発揮していたとは言いがたかった。近所のToys "R" Usに行ってみるとカタログに掲載されている商品がなかったり、人気商品だとホリデーシーズン向け商品が入荷してすぐに争奪戦が始まってすぐに売り切れになっていまう。昔は店に小まめに電話して在庫状況を確認したり、仕事の帰りなどに寄っていたが、今はオンラインショップで探せる。オンラインショップの方がはるかに簡単に在庫を探して、さらに価格も比較できるのだから、オンラインショップに客が流れてしまうのは当然だ。

でも、クリスマス直前になったら配送に任せず確実に手に入れたいという人が増える。もしカタログの強力なメーリングリストを持つリアル店舗型の小売りが、購入までを含めてネット時代に適した買い物体験をデザインしていたら、例えばカタログとWebサイトが連動して、在庫がある近くの店を確認できたり、オンラインで購入した商品を最寄りのストア受け取れるように指定できるように対策を講じていたら、Amazonにしてみたら脅威になったと思う。それをやらなかったのがToys "R" UsやSearsの敗因である。

Amazonのカタログは眺めていて楽しいだけではなく、カタログに掲載されている商品は在庫に余裕があり、スマートフォンを使って簡単に購入を済ませられる。子どもに気づかれないように自宅配送を避けたければ、近所のAmazonロッカーやWhole Foodsで受け取れるように指定可能だ。カタログを眺めるところから購入、受け取りまで全てが快適な体験になるようにデザインされているから、このカタログで見つけた商品をわざわざTargetやWal-Martにいって購入する人は少ないだろう。カタログを武器にしていた小売り大手を潰したAmazonが、紙のカタログの有効性を証明しているのだから皮肉なことである。