コンコルディア大学ニューヨーク校シールメモリアル図書館の館員Rebecca Fitzgerald氏の「Using Netflix at an Academic Library」(大学図書館におけるNetflixの活用)という記事がちょっとした議論を巻き起こしている。

Netflixは映画/TV番組の宅配DVDレンタルサービスおよびストリーミングサービスだ。一般的なサービスは月額16.99ドル(約1,500円)。同時に借りられるDVDが最大3枚までという制限があるだけで、ひと月に何枚でもレンタルできる。注文はオンライン、DVDの受け渡しは郵送なので自宅から離れずにDVDを借りられ、また返却期日がなく、返し忘れて遅延料を請求される心配もない。このDVDレンタルに加えて、ストリーミング対象タイトルをパソコンやゲームコンソール、専用ボックスなどを使って無料で視聴できる。

シールメモリアル図書館は昨年の秋学期にNetflixの最上位サービスを契約し、レンタルしたDVDやストリーミングサービスをニューメディア・コースの教材や資料に利用し始めた。月額47.99ドル(約4,100円)で最大8枚のDVDを同時に借りられ、無料ストリーミングは無制限というサービスだ。同図書館は限られた予算の中で常に新作が増え続けていくニューメディア・コース向け資料の確保に四苦八苦していた。Netflixならば、契約したその日から10万タイトル以上を抱えているも同然になり、新作タイトルが常に追加される。同サービスの利用は、同図書館に約3,000ドル(約25万5,000円)の節約をもたらしたという。DVDレンタルは注文してから送られてくるのを2、3日待つ必要があるものの、ストリーミングサービスはすぐに視聴できる。パソコンのほか、図書館の視聴覚室にRokuプレイヤーを接続したTVを用意した。

Netflixはエンターテインメント作品だけではなくPBSのプログラムも充実しており、今年の春学期にはNetflixのアカウントを2つに増やしてニューメディア・コース以外にもNetflix経由の映像資料提供を拡大した。そうして浮いた予算はNetflixにはない貴重な資料の取得に充て、これまで手が出せなかった高価な教育用フィルムを初めて購入できたそうだ。

Netflixの宅配DVDの封筒。見終わったら同じ封筒に入れて返却する。送料を支払う必要はない

NetflixのストリーミングサービスをTVで視聴可能にするRokuプレイヤー。ほかにもテレビ(Vizio、LG)、Blu-rayプレイヤー(LG、Samsung)、PS3、Wii、Xbox 360、Apple TVなどが同サービスをサポートしている

Fitzgerald氏は堂々と図書館でのNetflix活用を披露し、景気低迷期の予算削減に苦しむ他の図書館に対し「価値のあるオプションとしてNetflixを検討してほしい」と述べている。でも、これって著作権侵害に相当するのではないだろうか? ……というのが議論の発端だ。

見て見ぬふりするNetflixのしなやかさ

Netflixは使用規約でサービス利用を「個人および非商用利用のみ」に制限している。大学図書館を利用する教育者や学生は、この原則に当てはまるという声もあるが、Netflixのライセンスで共有の範囲は「契約者の責任下にある世帯メンバーで、契約者が管理しNetflixのサービスへのアクセスに利用しているパソコンもしくはNetflix対応デバイスのユーザー」と定められている。またフェアユースと見なせるのではないかという議論もあるが、コンコルディア大学では教材として一部を利用するだけではなく、学生がエンターテインメントタイトル全体を鑑賞できる。こうした利用が広まれば、消費者が金銭を支払ってDVDを購入またはレンタルする意欲を削いでしまう。作品の市場価値に与える影響が大きいという点でフェアユースとは考えにくい。LibraryLaw BlogにおいてPeter Hirtle氏が指摘しているように、コンコルディア大学シールメモリアル図書館の使い方はNetflixのユーザーライセンス違反になるという見方が優勢だ。

実はNetflixのサービスを契約している大学図書館はコンコルディア大学だけではなく、図書館関係者のフォーラムでは去年の後半から、この問題(可能性?)が議論になっていた。なんとワシントン大学のような予算が潤沢にありそうな大学までNerflixを活用していた。

こうした利用をNetflix側は把握していたと思うが、これまで公に言及はしてこなかった。ところがFitzgerald氏の記事をきっかけに騒ぎが拡大し始めたことで、コメントせざるをえない状況に置かれている。Netflixとしてはコンコルディア大学のようなサービス利用を良しとせず、図書館員に対してサービスライセンスに従うことを求めている。一方で図書館の存在価値を認めて、現時点では大学図書館に対してサービスライセンスを強制する意志はないとしている。

図書館員であるFitzgerald氏が、コンコルディア大学でのNetflix活用にまったく問題がないと信じていたとは考えにくい。ライセンス違反の可能性が高い活用法を、あえてさらけ出したのは議論を引き出すのを狙っていたと考えるのが自然だ。反対意見も多いものの、コンコルディア大学のような予算に苦労している図書館での活用は一定の理解を得られ、逆にワシントン大学の図書館には批判の目が向けられて、同大学のWebサイトからNetflixサービスに関する記述が数日前に削除された。

もしNetflixがDVD作品の著作権保護を最優先していれば、サービスライセンス厳守を強制しただろう。コンコルディア大学が損害賠償を求められてもおかしくはないし、少なくとも同大学のアカウントは規約違反で削除になっていたと思う。その上で映画協会やTVネットワークとの間で教育機関向けのレンタルサービスが検討されたとして、果たしてシールメモリアル図書館が利用できるようなパッケージが実現するかは疑問だ。Netflixは図書館の存続を重んじて見て見ぬふりを続け、その間にユーザーの議論が熟成していった。結果、シールメモリアル図書館のような大学図書館が必要とする教育機関向けのサービスを映画産業・TV産業が受け入れざるを得ないような状況になりつつある。

DVDレンタル時代の象徴、Blockbusterがついに破綻

「ユーザーにとっての便利なサービス」、これを常に考えてきたからNetflixは急成長を実現したのだと思う。

今月最初の回で取り上げた米DVDレンタル最大手Blockbusterの破綻が9月23日(米国時間)に発表された。週末に大きく報じられたので、ご存じの方も多いと思う。90年代から続いてきたDVDレンタルの象徴的な企業の破綻はショックが大きかったようで、米メディアの反応にはネット配信に対するネガティブな論調も目立つ。オンラインレンタルやストリーミングが店舗型のDVDレンタルに並ぶほどの規模に成長していない現状ではDVD市場の縮小につながると、オンライン配信は悪者扱いだ。ただ、そうしたメディアの反応とは裏腹に、ユーザーの多くはBlockbusterは潰れるべくして潰れたと思っている。Netflixユーザーなら、なおさらだ。

Blockbuster破綻の最大の理由は、同社がユーザーを見てこなかったからだ。ユーザーの声に耳をかたむけ、ユーザーを中心にテクノロジを以て業界に新たなソリューションを持ち込む会社(Netflix)の登場に色あせてしまった。ユーザーにサービスを押しつけるBlockbusterのやり方では、今回のFitzgerald氏のような声は永遠に公の議論の対象にはならない。ユーザーの声をすくい上げ、時にユーザーの盾にもなるネット企業のしなやかさの価値を見誤ったのがBlockbusterの敗因である。