東京・原宿の「Seiko Seed」で開催されている展覧会「からくりの森2024」。2024年で第3回を数えるこのイベントは、セイコーウオッチのデザイナーのほか3組のアーティストを迎え、機械式時計の魅力を伝える作品の数々を展示している。

ここでは、展示作品の見どころをアーティストの解説と一部動画を交えて紹介。来場前の予備知識とすることで、作品をより深く味わえるだろう。

  • 会期:2024年10月11日~12月8日 11時~20時(会期中は無休、入場は19時45分まで)
  • 入場料:無料
  • 会場:Seiko Seed(東京都渋谷区神宮前1-14-30 WITH HARAJUKU 1F)
  • 特設サイト:https://www.seiko-seed.com/karakurinomori2024/

機械式時計をヒントに「時」の表現を探る

さっそく「からくりの森2024」の展示作をご覧いただこう。なお、参加アーティストの方々は、セイコーにて機械式時計の分解を体験してから制作にのぞんでいる。彼らの世界観やスキルに加え、この体験で得られた知識や手触り、そしてインスピレーションが各作品の源(みなもと)となっているのだ。

  • 「からくりの森2024」に参加されているアーティストの方々

「浮動するオブジェクトで時を形にする」小松宏誠氏

■『森のリズム』
森を構成する木々の木っ端、枝葉などを機械式時計のムーブメントを構成するパーツに見立て、ゴム紐に接続、各ゴム紐の先端(天井側)はそれぞれ小さなモーターにつながっている。

  • 作者の小松宏誠氏。2006年に東京藝術大学大学院課程を終了、2022年武蔵野美術大学建築学科特任准教授に着任

  • 一番奥が「森のリズム」。かなり大きなサイズのインスタレーションだ

モーターは1分に1秒だけゴム紐を横方向に数秒巻き上げて停止。ゴム紐は逆回転してほどけていく。まるで機械式時計のゼンマイのように。ちなみに、モーターはコンピューターが制御している。

小松氏「吊り下げられた木々はそれぞれ形や大きさ、重さが異なります。その影響で、それぞれ回転の速度や姿勢が違ってくる。1分間という決められた時間という森の中、さまざまな動きとリズムが生まれる。これは、機械式時計のムーブメントが多様なパーツの形や動きで1秒、1分、1時間という時間を紡いでいるのに似ていると思うんです」

  • 木々や枝葉は、実施に岩手県雫石にあるセイコーの工場裏の森で採取したもの

  • 作品を下から見上げたところ。この天井の裏側にびっしりとモーターが隠れている。ゴム紐がまるで雨のように見えるのも面白い

■『ばねの羽根』
2つの羽根が釣り合うモビール。その基部の送風機が送る風によって、羽根はユニークな動きとともに回転を続けている。

  • 「ばねの羽根」は2つで1対のモビール。これに下から風を送ってやると、絶妙なバランスで回り出す

小松氏「機械式時計の動力源、動力ぜんまい。そのしなやかな円形のばねを少しねじって、かざぐるまの羽根を作りました。外部からわずかな力を加えることで、ばねが回転して新たな動きを生み出す機械式時計の仕組みと感動を表現しています」

  • 作品名『ばねの羽根』の所以(ゆえん)たる形状。子どものころ遊んだスプリングの玩具がジャムるとこんな形になりましたね

「文学的世界観が魅力」アーティスト集団siro

■『時の囁き』
動き続ける機械式時計のムーブメントを投影機が拡大して映し出す。その傍(かたわ)らには、時計や時間に関する詩が浮かぶ。

  • 構造はシンプルだが、作品には個性があふれている

滑るように滑らかなテンプの動きと、秒を刻むがんぎ車。無機質でありながらその時間的郷愁を誘う動作は、いつまでも見ていられる。

  • 雰囲気たっぷりの投影映像。詩も渡辺氏の手による

  • ムーブメントに光を当て、その姿をレンズ経由で左側の壁に映し出している。録画された映像でなく、物の姿をリアルタイムで投影しているところが新しい

siro 渡辺氏「レンズにもこだわっていて、昔、私が初めて買った一眼レフレンズ(50mm/f2)を使ってみました。フイルム時代の古いものですが、このおかげで、像が非常に鮮明になりました。しかも、鮮明でありながら幻想的。この不思議な世界にひたってください」

  • 投影機を逆方向から。このレンズが本文中にある渡辺氏のもの

科学と哲学でアートを生みだすスペシャリスト集団、SPLINE DESIGN HUB + siro

■『時の足音』
大きな時計を思わせるサークル型のオブジェ。中心には時計の針を思わせるアームが設置され、先端の脚がレールの上をゆっくりと飛び跳ねるように伝っていく。その姿は、まるで月面上で重力が小さいことを視覚的に証明したアポロ11号のクルーのようだ。

  • 作品を制作したSPLINE DESIGN HUB + siroの面々。それぞれが異なる専門分野を持ち、「ロボティクスによる美しい動き」を追求

  • 作品全景。これも大きな作品だ。見る者をワクワクさせる

  • 一歩の飛距離と時間はランダム。「時間は一定でも平等でもない」ことを表している

SPLINE DESIGN HUB + siro「時間の流れは誰にも平等と思われがちですが、実はそうではありません。重力や自転速度の違いが(厳密には)時間の長さに影響します(※)。また、人は感情によっても時間の感覚を左右されます。同じ1時間でも楽しいときは短く、辛いときは長く感じますよね。その感覚を作品の要素として取り込むため、アームの回転とジャンプの高さをランダムになるようコンピューターで制御しています」

  • ジャンプ時の上死点はランダムに決定される

  • 踏み切り直後のしなやかなフォルム

  • そして膝を柔らかく曲げて着地

※地球上でも、極付近は赤道付近よりも地球の中心に近く、重力がわずかに強い。相対性理論によれば、重力が強い場所では(観測者から見て)時間が遅く進む。ただし、その影響はナノ秒/年程度。

作者:セイコーウオッチ

■『回遊する時』
機械式ムーブメントの分針用の軸に、アクリルの車輪を設置。一見すると動いていないようで、実はゆっくりと円の縁に沿って移動したり、アクリル板の上でちょっとだけ進む方向を変えたりする。

  • 円周に沿って進むもの、自由に動くもの。そこに意思や個性(のようなもの)を感じる

セイコーウオッチ「腕時計にあし(足)を付けて、手首から解放してあげたら、どんな動きをするだろう。普段の真面目さ、堅実さを忘れて、のんびりと休日の散歩。そんなイメージです」

  • ムーブメントの針軸に車輪を付けるという発想があっただろうか?

セイコーウオッチ「また、私たちの日常を支えてくれているちいさな機械に秘められた力、その可能性なども感じていただけるといれしいですね」

その動きをわかりやすく確認できるよう、展示スペースには動きを撮影したタムラプス動画が用意されている。こちらもぜひ、ご覧いただきたい。

『時の鼓動』
フロアライトのようなガラス球の中に浮かぶのは、ムーブメントのシルエット。よく見ると回転する歯車が見えたり隠れたり……。

  • 見方によっては衛星のような天体にも見える

  • ムーブメントのシルエットが浮かぶ

一方、透明なガラスの球体にもムーブメントがセットされており、こちらは球の穴に耳を近づけると、普段はほとんど聴こえないムーブメントの駆動音がガラス内に反響して大きくなり、かすかにだが聞こえてくるようになる。

  • 潜水士のヘルメットにも、イカ釣り漁船の電球にも見える

  • ミニマルにして未来的なデザイン!

  • チッチッチッチッというムーブメントの息遣いは、言い換えれば時の鼓動だ

セイコーウオッチ「ガラスの球体でムーブメントを覆い、柔らかな光や影の揺らぎ、歯車の音で時の流れを表現しました。機械式時計の多彩な魅力に、ぜひ触れてください」

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一部動画も掲載したが、作品の魅力はとても伝えきれない。実物の美しさ、動きの面白さは、ぜひ会場でご確認を。

  • 会場には、今回の作品にも多く使われている機械式ムーブメント「キャリバー4R」も展示中

  • キャリバー4R57を採用した「セイコー プレザージュ カクテルタイム」。最大巻上時の持続時間は約41時間。プレザージュシリーズの試着も可能

芸術の秋。あなたも『からくりの森』で、時計や時間に思いを馳せる、そんな哲学的なひとときを過ごしてみては?