2027年以降に開通予定のリニア中央新幹線。新駅予定地付近では住宅の建設や再開発が進んでいます。リニアの新駅開業は、周辺エリアのマンション価格にどのような影響を与えるのでしょうか。不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和さんに聞きました。

  • リニアの新駅開業が周辺エリアのマンション価格に与える影響とは?

    画像はイメージ

不動産の資産性は"賃料"がベンチマークになる

私は、不動産の資産性を「土地(街)」「建物」「管理」の3要素に分けて分析しています。どの要素が当該不動産の資産価値に対してインパクトを与えているのかを、明確にできるからです。

そしてベンチマークとしているのが「賃料」です。賃料をもとに資産性を考えると、不動産の"実力"を知ることができるからです。

賃料が上昇傾向にあれば「借りるより、新築物件を購入したほうが得」と考え、物件を購入したいと考える人が増えます。結果として周辺エリアの物件価格も上昇します。

またインフレを想定すると、賃料の相場が上がらなければ投資用物件としての魅力が半減してしまいます。

そうした意味で、自分たちが住む前提で購入する「自己居住用物件」でも、「投資用物件」でも、"賃料"が資産性に大きな影響を及ぼすのです。

  • 渕ノ上さん提供

駅前再開発で必ずしも賃料は上がらない

賃料が重要な指標になることを踏まえて、リニア開通を見据えた再開発が進んでいる「名古屋駅」周辺エリアについて考えてみましょう。2009年以降の区分マンション賃料上昇率は、全国の主要都市が軒並み上昇傾向の中、「名古屋市」に関しては-2.3%と低迷しています。

  • 『区分マンション賃料・エリアレポート_不動産賃料は上昇継続!23区・大阪の動向も解説(2024.3版)』より引用

これは、現状賃料の牽引役となっているファミリータイプレジデンスの賃料が伸び悩んでいることが背景にあります。いくら再開発が進んでも、需要に対してマンション供給が過剰であれば賃料は上がりません。"駅前再開発が行われると当然に賃料が上がる"というロジックはないのが実際です。

新駅開業で「人を集められるか否か」がカギ

駅前の再開発が必ずしも賃料上昇につながらないとなると、エリアのインパクトは「リニア新幹線開通によるアクセス向上」の効果に大きく左右されることになります。

この点について私は、新駅開業により「人を集められるか否か」がエリアの発展を左右すると考えています。

  • オフィスの開業が行われ、通勤想定顧客を集めることにより近隣の街を含めて盛り上がりが期待できる
  • 集客力が著しく強い商業施設の開業により施設で働く人を集められる
  • 居住的資産価値が大きく上昇し近隣に居住すること自体のトレンドが盛り上がる

これらを実現することが、周辺物件の資産価値上昇の条件となるでしょう。

リニア新駅開業で盛り上がる「橋本駅」エリアはどうなる?

  • 橋本駅周辺

これらの前提をもとに、リニア新駅開業で盛り上がる「橋本駅」周辺エリアを例に挙げて考えてみましょう。

  • 鉄道沿線・バス便の居住者、もしくは車で移動する居住者がどれだけ橋本の駅前コアエリアに集まるか、開発計画を照らし合わせながら分析する
  • 橋本駅からの新幹線通勤がどれだけ増えるか分析する

将来的な周辺物件の資産価値を考えるうえでは、上記がポイントとなるでしょう。

エリアのハブとして人を集め続けられる、通勤にリニア新幹線を使用するインセンティブがある、この2点がなければ、橋本エリアの新しいベッドタウンとしての強さは懐疑的にならざるを得ません。

またこのエリアでは、フラッグシップマンションと言える高層マンション「ブランズタワー橋本」の2026年竣工が予定されていますが、ブランズタワー橋本の物件価格とその売れ行きがエリアの物件を引き上げられるかは注目してみていく必要があります。

  • ブランズタワー橋本

ブランズタワー橋本に関しては、建築費高騰等の状況を勘案すると、デベロッパーとしては都内エリア類似価格である70㎡で1億円にトライしたいのが本音でしょう。実際、プレミアム住戸は強気に都内類似の価格をつけていくことが想定されます。

郊外型の都市では駅前のフラッグシップマンションに、エリアのアッパー層(当該エリアで活躍する開業士業・企業経営者とそのご家族など)が集まる傾向があるため、今までの既存物とは異なるレンジで物件価格が動くこともあるからです。

ただし、プレミアム住戸を求める方は賃貸ではなく、購入される傾向が顕著で、物件価格と賃料価格が乖離する可能性が否定できません。

結果として、エリア全体の物件価格の動きとしては、やはり都心部と異なると言わざるを得ないでしょう。

今回は橋本エリアを例に分析を行いましたが、ほかのエリアでも新駅開業と再開発がどのような好影響を及ぼすのか、個別の事象を具体的に見ていく必要があると考えます。

渕ノ上弘和(ふちのうえ・ひろかず)/不動産ナビゲーター

2000年に立教大学法学部法学科卒業後、コンサルタントとしてECサイト運営会社を起業すると同時に不動産コンサルタントとしても業務を開始。区分所有建物の資産価値マネジメントに従事するため、2008年より住友不動産建物サービス株式会社、2013年より株式会社東急コミュニティーにて区分所有建物の共用部分・専有部分のマネジメントに従事した後、不動産の資産性を流通の側面から評価するために、2018年にコンドミニアム・アセットマネジメント株式会社の設立代表に就任。2022年2月より株式会社MFS不動産投資事業部執行役員として不動産投資総合プラットフォームサービス・INVASEの事業責任者に就任。