いきなり本題、今回は「QuickTime」について。旧Mac OS時代から"継ぎ足し"で現在に至るマルチメディア実装だが、Snow Leopardで「QuickTime X」にリニューアルされた。その変化のキモを、噛み砕いて解説してみよう。

Snow Leopardで一新された「QuickTime Player」。その変化はプレイヤー部分に留まらない

QuickTimeは「X」でココが変わった

「QuickTime」というタームは、3つの側面を有している。「X」の紹介を始める前に、この部分の整理から始めてみよう。

3つの側面のうちの1つが「マルチメディアAPI」。各種静止画像や動画 / 音楽を再生するためのライブラリであり、他のアプリケーションのマルチメディア機能支える基盤としての役割だ。もう1つは「コーデック集」。多様なフォーマットをサポートすることで、OSにおけるマルチメディア基盤技術としての価値を高めているといえる。

そしてもう1つが「マルチメディアプレイヤー」。こちらはQuickTime Player.appとして提供される一種のGUIフロントエンドだが、エンドユーザが直接 (QuickTimeの技術であることを知ったうえで) 触れる存在として、言及しないわけにはいかない。Snow Leopardで投入された「X」は、この3つの側面すべてにおいて変化しているからだ。

その変化とは、Snow Leopardの目玉である64bit化であり、連綿と引き継がれたコードの書き直しであり、利用頻度が低下した過去のコーデックの廃棄だ。いずれもエンドユーザにわかりやすい形での変化ではないものの、OS Xのマルチメディア機能の屋台骨たるQuickTimeを強化している。QuickTime PlayerのUIの変化は、その一部に過ぎないのだ。

Xと7の補完関係

QuickTime Xでサポートされなくなった動画フォーマットをQuickTime Playerで開くと、QuickTime 7のインストールを促すメッセージが表示される

QuickTime Xは、QuickTime 7と補完関係にある。QuickTime 7のときに導入された「QTKit」 (Cocoa / Objective-CからQuickTimeを制御するためのフレームワーク) 経由で利用されることに変化はないが、Snow LeopardではQuickTime Xに優先してアクセスし、機能に不足があればQuickTime 7を呼び出す機構が用意された。QuickTime Xでサポートが打ち切られたQuickTime VRなどのファイルを再生しようとすると、QuickTime Player 7のインストールを促すダイアログが表示される原因はここにある。

Snow LeopardにおけるQTKitとQuickTime X / 7の関係

ただし、警告を行うのは新QuickTime Playerに限った話らしく、その他のアプリケーションではシームレスに切り替わる。たとえば、QuickTimeファイル (.mov) をプレビューするための QuickLookプラグイン(/System/Library/Frameworks
/QuickLook.framework/Versions/A/Resources/Generators/Movie.qlgenerator
) は、QTKitを利用しているが、QuickTime.frameworkが存在するときはQuickTime VRファイルをプレビューできる。しかしQuickTime.frameworkを適当な名前にリネームして無効化すると、それ以降はプレビューできなくなってしまう。

/System/Library/Frameworks
/QuickTime.framework を無効にすると、QuickTime VRファイルはQuickLookでプレビューできなくなる

そのとき、H.264ムービーなどQuickTime Xだけで対応できるファイルは支障なくQuickLookでプレビューできる。新QuickTime Playerなど、直接 QuickTime.framework にリンクしない (QTKitベースの) アプリケーションも同様だ。QuickTime Xを前面に出しつつ古いコーデックのサポート終了を進めようとする、Appleの配慮と考えていいだろう。

なお、SafariのQuickTimeプラグインはバージョン7.6.3であり、QuickTime.frameworkを直接リンクしている、現在では推奨されていない形式のプログラムだ。QuickTimeをサポートするサードパーティー製品の多くはこのタイプで、QuickTime VRなど「X」ではサポートされないファイルもQuickTime 7を追加インストールすることなく再生できるが、それはあくまでQuickTime 7のランタイム (QuickTime.framework) が提供する機能、ということを理解しておきたい。

使えるTIPS

折角なのでdefaultsコマンドで使えそうなオプションを……ということで、stringsコマンドで新QuickTime Playerのバイナリを探し回ること数十分。強くプッシュできるものは見つからず、リリースから約3週間が経過したこともあり、めぼしいものはすでにネット上で公開されている始末。

それでもあえて紹介するとすれば、以下に示すオプションだろう。このコマンドラインを実行すれば、以降QuickTime Playerでファイルを開くと、ボタンをクリックしなくても自動的に再生が始まるようになる。その手があったか、と思わず膝を打ちたくなる実用性が高いTIPSだ。

$ defaults write com.apple.QuickTimePlayerX MGPlayMovieOnOpen -bool YES

※無効にする場合
$ defaults delete com.apple.QuickTimePlayerX MGPlayMovieOnOpen

こちらはまだ知られていないと思うのだが……QuickTime Playerのアバウト画面を表示し、15秒ほど待機してほしい。アイコンパレードならぬ、QuickTimeに関連する"パテントパレード"を鑑賞できるのだ。実用性はともかく、しばし鑑賞のほどを。

「QuickTime Playerについて」画面を表示して約15秒待つと……