パナソニックのシェーバー事業が創業70周年を迎えるとともに、グローバル累計出荷台数が2億4000万台を突破した。それにあわせて、シェーバー事業の基幹工場である彦根工場の様子を公開した。
パナソニック くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の南波嘉行事業部長は、「パナソックのシェーバーは、70年間に渡り、生活者のライフスタイルや、価値観の変化に寄り添い、独自の技術によって、お悩み解決やお役立ちをしてきた。70周年を機に、グローバル市場でのビジネスを拡大し、2030年度までに、海外事業の販売金額を2倍に高める」とする一方、「日本におけるパームインシェーバーの販売金額を2027年度には50%にまで高めていく」という新たな目標を打ち出した。
なお、説明会の冒頭、南波事業部長は、5月21日に発表したメンズシェーバーに同梱しているUSBケーブルに関するリコールについて陳謝。「関係する皆様にご心配、ご迷惑をおかけしている。責任を持ってしっかり対応していく」と述べた。
70年の研鑽、パナソニックのシェーバー事業
パナソニックのシェーバー事業は、創業者である松下幸之助氏が、1954年のアメリカ視察で入手した電気カミソリをヒントに、松下電工(当時)で研究開発を開始。戦前から培ってきたバイブレーターや小型モーターといった自社技術を生かして、1955年に32mm往復刃、電磁振動式を採用した「MS10」を発売したのが最初だ。
当時は、安全カミソリが主流の時代であったが、電気カミソリという新たな提案が支持され、高価な商品ではあったが、発売から1年9カ月で約15万台を販売するヒット商品になったという。
それ以降、パナソニックでは、「シェービング行動の研究」、「剃り性能の研究」、「アイデンティティを物語るデザイン研究」、「顧客満足度の追求」を、開発の基本方針に据えて商品化を推進してきた。
また、日本でのモノづくりにこだわり、ステンレス刃物鋼や完全防水機能など、世界初となる技術を次々に採用してきた。とくに、多枚数システムを実現したチタンコーティング刃などの刃物技術と、優れたシェービング体験を支えるリニアモーターの2つをコア技術とし、従来にはなかったシェーバーを創出。お風呂剃り、自宅以外での身だしなみ、スキンケアなど、新たなシェービングスタイルを提案してきた。
2023年に発売した「ラムダッシュ パームインシェーバー」は、高機能小型シェーバーの新たなトレンドを創出。面倒だった髭剃りを、楽しい体験へと転換する提案を行い、2024年には、国内電気シェーバー市場において、ナンバーワンシェアを獲得している。
パナソニックの南波事業部長は、「2023年に、初めて高機能タイプの小型シェーバーのパームインを発売し、新たなシェービングスタイルを先駆けて提案してきた。未来の定番づくりを目指し、デザイン起点、技術起点が開発を行った」とし、「当初は、パームインシェーバーが、既存の6枚刃や5枚刃といった高機能モデルの存在を否定することになるのではないかという危惧が社内にもあった。だが、新たな提案をしなくては、新たなライフスタイルや価値観を持つお客様にはお役立ちができないと考え、パームインシェーバーの発売を決定した。これまでに培った技術と、生活者研究に向き合う商品づくりのノウハウを生かし、パナソニックにしかできない日本の強みを生かしたモノづくりにチャレンジした」と振り返る。
パナソニックのビューティ・パーソナルケア事業部では、「ひとりひとりが輝く美しさと健やかさを」提供することをミッションに掲げており、他社にない強みとして、「愛される商品企画」、「コア技術」、「モノづくりの思想」の3点をあげている。
南波事業部長は、「トレンドの変化が激しく、参入障壁が低い市場で戦ってきたことで、鍛え抜かれた顧客インサイトを深堀りする力に加えて、デザインなどによって、愛さる商品企画をしてきたことが強みである。また、ナノイーやリニアモーター、鍛造加工刃など、他社にないコア技術と、それらを実現する彦根工場を中心とした『五設一体』、『掘り抜き井戸』、『強み伝い』によるモノづくりのマインドも、シェーバー事業の成長を支えてきた」と胸を張る。
この3つの言葉は、松下電工時代から継承してきたもので、「五設一体」は、商品設計や工法設計、設備設計、金型設計、工程管理設計といった5つの部門が、同時に商品開発を始めることで、スピーディーで合理的なモノづくりを実現する考え方であり、「掘り抜き井戸」は、水が湧き出るまでは決してあきらめずに穴を掘り、水脈に到達するまであきらめない精神を指し、事業や商品を徹底的に深掘りするという考え方だ。そして、「強み伝い」は、掘り抜いた実績を財産として、それを新たな商品に波及させ、新たな飛躍や成長につなげていく考え方である。
「ビューティ・パーソナルケア事業部が持つ、これらのモノづくりの思想が、シェーバー事業を成長させてきた」と断言する。
また、パナソニックシェーバーのモノづくりの強みを、「パナソニックが、こだわって磨き上げ続けてきた『変わらないこと』と、社会の変化にあわせて『変えていくこと』の掛け合わせにある」と、南波事業部長は語る。
変わらないこととは、他社にはできない2つのコア技術を指している。
「内作金型による精密鍛造刃の実現とともに、30°鋭角内刃を利用した5枚刃、6枚刃の複数刃シェーバーを作り上げる製法を持つこと、高速化と小型化を両立したリニアモーターを持つこと。この2つの技術が差別化となっている。新たなパームインシェーバーも、リニアモーターの小型化技術があったからこそ、実現できたものである」とする。
一方で、変えていくこととして、3つのポイントから説明する。
ひとつめは、品質の確保である。ここでは、5枚刃、6枚刃への進化に伴い、品質評価の方法を変えることで、より高い品質の維持に取り組んでいることを指す。具体的には、シェーバーヘッドのサスペンションの進化や防水化に対応するために、フロート寿命試験、スイング寿命試験、流水試験を実施。、さらに、パームインシェーバーでは、使用時の衝撃を想定した転倒試験を新たに実施している。「機種の特徴に応じて、適切な品質評価を徹底している」という。
2つめは、生産工程におけるAIの活用や自動化の推進である。
従来は、人による目視で行っていた外刃の品質検査にAIを活用。2023年から導入した全自動ディープラーニング画像検査装置は、検査効率を50%向上させることにつながっている。また、2025年9月からは、自動物流システムを導入し、在庫保管面積を33%削減できると見込んでいる。在庫能力を拡大することで、刃の生産能力を約10%増強することにもつながるという。「生産現場において、AIを活用した匠の技術の継承と、効率化を実現する最新化への取り組みを進めている」と述べた。
そして、3つめが、サステナブルなモノづくりによる社会や環境への貢献だ。
パームインシェーバーでは、海洋ミネラルを配合した三井化学のNAGORIを筐体に採用。「感性価値とサステナブルを両立している」という。
また、ステンレス板を常温で曲げ加工するなど、シェーバー外刃の生産工法を変更することで、加熱電力や刃の製造工程を削減し、CO2排出量の削減にもつなげているという。
国内の電気シェーバー市場は、2023年度を底に回復傾向にある。販売金額では2025年には、過去最高を更新する見通しであり、パナソニックのシェーバーも、2024年の販売金額では前年比35%増という高い成長を遂げている。パームインシェーバーや5枚刃、6枚刃の高価格帯モデルが好調に推移しているのが理由だ。
「なかでも、パームインシェーバーは、従来の形状にとらわれないデザインが、所有欲を刺激しており、SNSで自分を発信する時代において、見せたくなるというニーズに合致している。また、ライフスタイルの変化とともに、移動中や外出先でも、身だしなみを整えたいというニーズがあり、モビリティツールのひとつとして、需要が拡大している。さらに、これまでの男性中心の需要から、女性や若者層を取り込み、プレゼント需要やT字カミソリ派からの転向など、新たな需要を生み出している」という。
パナソニックの南波事業部長は、新たな事業目標として、「日本におけるパームインシェーバーの販売金額を、2027年度には50%にまで高める」と発表した。
現時点で、パームインシェーバーの販売金額比率は約30%であり、これをさらに引き上げる。
「シェーバーの概念を変えていきたい。これから10年後に、子供がシェーバーの絵を描いたときに、既存のシェーバーの形ではなく、パームインシェーバーを描くという状況を当たり前にしたい」と意気込みをみせた。
一方、今後の取り組みとして、グローバル展開の強化をあげた。
男性用および女性用のシェーバーや脱毛器を含むBody Shaversのグローバル市場は、右肩上がりで規模が拡大しており、2027年には約1兆7000億円の市場になることが想定されている。
南波事業部長は、「日本国内で取り組んできたパームインシェーバーによる新たな挑戦をフックに、グローバルのお客様へのお役立ちをしていきたい」とする。
パナソニックでは、グローバルにおいて、地域ごとに生活者研究を実施し、異なるニーズの変化を、発見し、先取りすることを目指すという。
「地域ごとに、シェービングに対するニーズが異なっている。髭の特徴、習慣の違いなどがその背景にある。それらを捉えて、地域ごとに開発で重視するポイントを捉えていく必要がある。欧米を中心にした世界各地域で、約100人を対象に、試作品で髭を剃ってもらい、日本と欧米で異なる髭の特性を知り、生活者のインサイトを追求しているといった活動も行っている」という。
加えて、グローバル展開の強化における切り札として、パームインシェーバーの本格展開にも乗り出す。
パナソニックでは、2024年1月に、米ラスベガスで開催したCES 2024の同社ブースにパームインシェーバーを展示し、Best Awards of CES 2024を受賞。2025年6月には、シェーバー事業の70周年を記念したパームインシェーバーを発売し、「インバウンドユーザーの購入比率が高いという傾向が出ている」という。2025年9月には独ベルリンで開催したIFA 2025のパナソニックブースに、パームインシェーバーを展示してみせた。
「パームンシェーバーが、グローバルのユーザーから評価される兆しを感じている。70周年を機に、パームインシェーバーの海外販売を本格化し、グローバル市場においても、シェーバーを通じて、生活者の美しさと健やかな暮らしを提供していく。海外シェーバー事業では、2030年度までに販売金額を2倍にする」との方針を示した。
公開された彦根工場のシェーバーの生産ライン
パナソニックのシェーバーの生産体制は、日本で上位モデル、中国で普及モデルを生産している。
日本では、滋賀県彦根市の彦根工場で年間180万台のシェーバー本体と、450万枚のシェーバー刃を生産。グローバルマザー工場に位置づけるとともに、開発部門も置き、開発から生産までの一貫体制を敷いている。基幹部品は、すべて内製化しており、金型成形技術を持つのも特徴だ。また、内刃やスレッド刃などの素材材料の厚みがある部品についても内製。1100℃という温度で焼入れ処理を行い、それを高い精度で形状を成形する技術にも優れている。家電製品の工場のなかで、これだけの高温で熱処理を行う工程を持つのは珍しいといえるだろう。
彦根工場は、1962年に操業し、63年の歴史を持つ。敷地面積は、東京ドーム約2個分にあたる8万8990平方メートルで、従業員は705人。シェーバーのほか、プロトリマー、電動歯ブラシ、ナノイーデバイス、水循環用ポンプ、浄水器などの生産も行っている。
現在、ナイノーデバイスの生産を中心とした新棟を建設しており、新棟はシェーバーの生産拡大にも貢献するという。
また、中国では、パナソニック万宝APビューティ・リビング広州(広州工場)で生産。年間270万台の生産規模を持つ。シェーバーの準マザー工場としている。
では、写真を通じて、今回公開された彦根工場のシェーバーの生産ラインの様子を見てみよう。
<動画>手触りと目視で確認する。長年の経験を持った匠だけが行える技術だ
<動画>ロボットアームを使って移載しているところ。袋に入った部品の移載は難しい
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パナソニックコネクトが取り扱う自動倉庫「ラピュタASRS」を導入している。ブロックのように組み合わせが可能な倉庫だ
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従来は平置きしていたものを5階建てで収容。スペースを3分の2に圧縮し、150平方メートルの空きスペースを創出したという
<動画>自動倉庫に収納する様子
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パームインシェーバーの組立ラインの様子。U字構造になっている
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グリップ式シェーバーはI字ラインを採用し23工程だったが、U字ラインのパーインシェーバーは19工程となり、面積は30%削減。15%の生産性向上を図っている
<動画>流水試験の様子。約40年前に防水機能を業界に先駆けて採用。強い水圧を与えても、内部に水が入らないことを確認する
<動画>転倒試験の様子。パームインシェーバーのために追加した新たな試験。左右に移動させながら何度も落下させる
<動画>ヘッド部のスイング寿命試験。リニアメーターがヘッド部に収納できるため自由に動くのが同社製品の特徴。過酷な動きでも壊れないことを確認する




























































