NTT東日本グループは、2023年1月24日、「地域ミライ共創フォーラム2024」を、東京都調布市のNTT中央研修センタで開催した。
NTT東日本の澁谷直樹社長は、「地域循環型社会の共創~ICTとデジタルで実現する新しいミライのカタチ~」と題した基調講演のなかで、「NTT東日本は、通信事業者に留まらず、何の会社なのかと言われるほど事業を広げている」と前置きし、「NTT東日本は、地域のミライを支えるソーシャルイノベーション企業を目指している。明確なのは、地域の方々と、地域の課題解決や価値創造に取り組む企業であるという点だ」と述べ、遠隔通信やクラウドなどの最先端の技術を活用することで、未来の教育や医療の実現に貢献しているほか、無人ロボットやドローンを組み合わせて、地域の買い物、防災に取り組んだり、再生エネルギーと地域の交通を組み合わせて、観光を豊かにする未来の街づくりに挑んだりといった事例を紹介。さらに、ローカル5GやIoTセンシングなどを活用しながら、林業や農業、産業の物流などのDX化にも取り組んでいることを示した。
日本は急激な人口減少問題がある。1904年には4780万人だった人口は、2008年に1億2808万人とピークに達したが、その後は減少を続け、予測では2100年には約4959万人と、200年前と同等水準になる。
澁谷社長は、「労働人口が減りながら、介護や年金が必要となる高齢層が増え、日本には痛みを伴う時期がやってくる。その痛みのピークが、2040年~2050年だと言われている。1950年には12.1人で1人の高齢者を支えてきたものが、2050年には1.4人で1人の高齢者を支える時代が訪れる。ここをどう乗り越えるかが重要になる」と指摘した。
また、「かつては大都市が豊かになることで地方を支えてきた。しかし、大都市でも人口減少が始まる。それぞれの地域が自律する社会を作らなくてはならない」とも語った。
企業や行政、地域が力をあわせること、地球環境を保護しながら、地域の発展や企業の成長を進め、地域循環型社会を目指す必要があることを提言。そこに、地域密着企業であるNTT東日本が、地域課題の解決、価値創造に取り組んでいる理由があると語った。
地域密着型の取り組みを、大都市と地方にわけて説明する。
大都市では、壁面の緑化、オフィスビルのエネルギー負荷の削減、熱を街で再利用し、空調効率を高めるといった都市としてのサステナビリティを目指す必要があるとする一方、地方では、海が近い、山林に囲まれているというそれぞれの地域の特徴を生かしたり、風力発電や地熱発電に適していたり、風土や民芸、祭りといった特産を生かしたりといった形で循環型社会を目指していくことが重要であるとした。また、大都市でも、地方でも課題となる人手不足については、デジタルやロボットで補完し、地域ならではの特色がある価値創造を目指していくべきであると述べた。
澁谷社長は、「人材を起点に、地域の自然、特性に応じた再生エネルギー、データを活用して、一次産業を効率的に再生するという新たな社会に挑戦したい」とする。
NTT東日本では、遠隔技術を活用した医療や教育、災害復旧やインフラ維持を行う「安心・安全に暮らせる地域のミライ」、自動運転や店舗の無人化、農業や工場の人手不足の解消による「人手に頼らない効率的な地域のミライ」、農業の担い手育成や遠隔農業指導、陸上養殖の実現や遊休施設の活用などの「一次産業が発展する地域のミライ」、祭りのデジタルアーカイブや地域酢酸品の新たなブランド化、リモートワークを活用した地域への移住などによる「賑わいがあふれる地域のミライ」の4点から、社会の課題解決と価値創造に取り組んでいることを示す。それらの事例についても紹介した。
ひとつめは、青森ねぶたの魅力を国内外に発信する取り組みだ。
2022年に3年ぶりのねぶた祭が開催されたのに合わせ、NTT東日本では、ICTを活用し、3D映像でねぶた祭をライブ配信し、4Kカメラでアーカイブ映像を記録したという。ねぶた祭り以外にも、これまでに25種類の祭りをアーカイブ化しており、世界に配信することで、地域への関心を高め、リアルの観光にも効果が生まれると語る。
2つめは、農業の6次産業化である。
農業の6次産業化とは、農産物などの生産物がもともと持っている価値をさらに高め、農林漁業者の所得を向上していく取り組みを指す。
たとえば、NTT東日本では、2022年8月から、東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォームを開始。専門家がスマートグラスなどのICTを駆使し、遠隔地から生産者を支援する仕組みを構築。産地形成と広域連携の促進により、東北地域のタマネギ生産面積の拡大や生産量増加を図っているという。
すでにNTT東日本グループの約100人の社員が農業専門で業務にあたっており、全国で約50のプロジェクトを推進中だという。
「NTT東日本は、農業で儲けるのではなく、農業のノウハウをJA全農や農研機構とともに磨き、たくさんの人たちに農業分野に参入してもらえるようにし、6次産業化によって、農業そのものの産業規模を拡大することを目指している」という。
3つめが、地域循環型社会への挑戦である。
伊香保温泉で知られる群馬県渋川市は林業が盛んな地域でもある。NTT東日本のと連携によって、木質チップによるバイオマス発電で発生した熱を、しいたけづくりやドライフードづくりに活用したり、テスラのバッテリーに活用したりといったことを行っているという。地域に眠る未活用資源に着目し、地域に対する長期的コミットメントと、地域還元の取り組みによって、新たな循環型経済を創出し、持続可能な社会を実現。同時にシニアの新たな雇用にもつながるという期待もあるという。
「地域循環型社会を支えるために最先端テクノロジーについては、信頼して任せてほしい。NTT研究所では、次世代コミュニケーション基盤のIOWNや、生成AIのtsuzumiなど、世界最先端の研究を行っている。導入するにはハードルが高い技術でも、NTT東日本の社員が現地に行くことで、困りごとを一緒になって解決するために、これらの最先端テクノロジーが活用できるように支援をしていく」としながらも、「だが、テクノロジーですべてが解決できるとは思っていない。テクノロジーはあくまでも裏方である。ベースとなるのは土地の特産品、祭り、民芸品などの価値をあげる、人による取り組みである。NTT東日本は、フィールドでの実践と、長期的に地域に向き合うことに本気になって取り組んでいる」とする。
日本では、99.8%のカバレッジを誇る世界最高水準の光ファイバー網による最先端の情報スーパーハイウェイが実現されており、さらに、NTTグループが中心となって推進するIOWNによって、通信ネットワークは大きく進化することになる。そこに、NTT東日本の地域密着企業としての特徴を発揮することで、日本全体が最新テクノロジーのメリットを享受できるという構図だ。
澁谷社長は、「NTT東日本グループには、地域を支える1万1000人の通信エンジニアと5000人のデジタル人材、そして、デジタルを活用して地域密着で街づくりを支援する3000人の地域コンサルタント、400人の街づくりコンサルタントが在籍している。この体制をフルに活用しながら、地域循環型社会くりに貢献したい」と述べる。
また、「NTT法の話もあるが、法律がどうであれ、半官半民で、ユニバーサルサービスを維持しつづけ、地域に向き合い続ける会社であることに変わりはない。社員もその仕事をすることに、憧れを持って入社している。地域密着やフィールドでの実践といった泥臭い部分を持ち味としながら、『未来は、誰かの幸せを思う人たちが集まり、力を合わせて行動することで実現する』という共感型の姿勢で、新たなミライの仕組みを作り上げていきたい。一緒に様々な取り組みに挑戦したい。今回のイベントを通じて、地域活性化と未来社会へのイマジネーションをインスパイアしたい」などと述べた。
NTT東日本では、クラウドやSI、アグリ(農業)などの非回線ビジネスを、成長戦略分野に位置づけ、2025年度には、この分野の売上比率を50%以上に拡大することで、回線ビジネスに依存しない収益構造に移行する考えを示している。
これまで以上に、地域密着企業になることが、NTT東日本の成長につながるという姿勢が、改めて強調された内容になったといえる。