「中国マイディアグループ傘下で再スタートを切ってから約2年半を経過し、2018年から、いよいよ成果が出てきたというのが実感である」--。
東芝ブランドの白物家電事業を行う東芝ライフスタイル(TLSC)が、2018年度の成果と、2019年度以降の事業方針について説明した。同社の小林伸行社長にとっては、2018年4月に社長に就任してから初の方針説明の場となった。その内容は、初の通期黒字化や製品ラインアップの拡充など、統合の成果が生まれていることを示すものであった。
中国マイディア効果が寄与した2018年の成長
同社の2018年度(2018年1月~12月)の売上高は2,620億円。新体制がスタートする以前の2016年度の売上高である約2,400億円からは約220億円、同2017年度からは100億円強の増収となり、2年間で約10%の成長を遂げた。
また、税引前利益は、2016年度および2017年度はいずれも赤字だったが、2018年度はそこから約60億円改善して、「わずかだが、黒字になった」(小林社長)という。
黒字化の要因について、小林社長は、「コスト削減効果が大きかった。また、マイディアグループの調達力が寄与している」とマイディアとの連携効果をあげる一方、「これまでに一時休止していたカテゴリーの製品を強化したり、新たなカテゴリーの商品を投入したことが大きかった」とも説明する。
そこでは、商品力、開発・設計力の強化や、コスト競争力強化、市場・商品ラインアップの拡充がポイントであり、「グループ製造拠点の相互乗り入れによる効率運用、大規模調達力によるコスト競争力強化による効果が出ている」という。
たとえば、冷蔵庫を例にあげると、東芝ライフスタイルが持つ中国の工場の生産性は、2016年に比べて、80%も向上したという。また、400リットルクラスの冷蔵庫では、生産コストを20%も削減できたともいう。
小林社長はこれを、「中国の工場の生産キャパシティは約100万台。だが、統合前は稼働率が半分に留まっていた。現在は、東芝ブランドの冷蔵庫を、マイディアの中国の販売ルートに乗せたり、マイディアブランドの冷蔵庫を生産するといったことで、フル稼働しており、それが生産性を高めることにつながった」と説明する。
今の東芝ライフスタイルの強みとは?
世界第2位の家電メーカーならではの調達力は、とても大きな要素だ。
かつての体制では、中国向けには、年間100万台の冷蔵庫を生産しているにすぎなかった。だが、マイディアグループでは、年間2,500万台の冷蔵庫を中国向けに生産している。これが「圧倒的な調達力が強みになり、冷蔵庫以外の様々な製品で生かされている」という。
そして、新たに12カテゴリーの製品を投入したことが、売上げ拡大に貢献した。
実際に同社はマイディアの生産力、コスト力を活かし、これまでカバーできていなかった日本市場向けの150リットルクラスの小型冷蔵庫、16リットル以下の電子レンジや、単機能の電子レンジ、4.5kgの洗濯機などの製品を矢継ぎ早に追加した。
一方で小林社長は、意識改革、成果主義の徹底も、成長につながるポイントになったと振り返る。
権限を委譲する代わりに、責任を持たせ、利益を配分する成果主義の手法を徹底した。小林社長は「これで、従業員の意識は大きく変化した」とし、これが、「自分たちの会社、あるいは自分たちのブランドを継続し、発展させていくという意識につながった」と話す。さらに、組織体制の効率化、プロセスの見直しによるコスト改善、評価制度の見直しなど、直接的な数字に表れていない部分での改善も進め、これが、「成長を支えるバッググランドになった」とも話す。
小林社長は、この変革を「自分ゴトの会社風土の熟成」と表現した。他人ゴトではなく、自らが率先して取り組み、自立した組織風土に作り替えている。大企業の意識から脱却し、スタートアップ企業のような文化を作ろうとしている。
小林社長は、「事業を継続するためには、すべてのステイクホルダーから、東芝ライフスタイルという会社が必要であると認めてもらわなくては成り立たない。そうしなければ自立ができたとはいえない。その中心にいるのがお客様である。お客様を中心に置き、将来に向けて成長に向けて、自らが投資をしていく。そのためには、利益を自分たちで生み出す必要がある」とし、「まだ少しだけの黒字ではあるが、それが自信につながり、これからやっていけるという確信につながる。私自身もそうだし、従業員もそうである」と、意識改革の重要性を重ねて強調する。
立ち直りつつある状況、残る課題は?
だが、その一方で、「スピードもまだまだ遅く、やらなくてはならないことも多い」と、手綱を締める。
たとえば、モノづくりにおいては次のように語る。
「東芝ブランドの白物家電は、お客様中心のモノづくりがDNAではあるが、ここ数年、それが少し足りなくなっていたという反省があった」
小林社長自身、東芝時代に約30年間に渡り、家電事業一筋で携わってきた経験を持つ。洗濯機以外の家電は、すべて担当したことがあると話す。
そうした経験から見た反省点を解決するため、2018年には社内に企画、デザイン、研究開発を一体化したコンシューマーイノベーションセンター(CIC)を設置した。
「(CICで)横串をさして、先行開発、デザイン力、商品力、そして、マイディアの技術を取り込んだグループ連携によって、総合力を生かせる体制を整えた。多様化している日本の消費者のライフスタイルにあわせた商品、サービスの提案を目指している。そうした製品やサービスを提供することが、大切であると認識しており、それをしっかりと評価していただくことが、今後の成長に直結する」
東芝の白物家電事業が持つDNAをしっかりと復活するため、土台づくりにも余念がないというわけだ。
東芝「白物家電」の2019年、どうやって成長する?
2019年以降の成長戦略も意欲的だ。
今後3年間の売上高の年平均成長率は10%、ROSは3年で5%を達成する目標を掲げた。
ここでは、製品ラインアップの拡大に加えて、継続的な効率化、コスト削減への取り組みを進める一方で、グローバル展開も視野に入れる。小林社長は、「現在の海外売上げ比率は約3割。まずは、4割程度にまで引き上げたい」と、海外事業を成長戦略の軸に据える考えだ。
2019年には、欧州市場に新たに参入し、2020年にはインド市場への参入を目指す。インドでは、電子レンジ、洗濯機、エアコンなどの製品投入を想定しているという。
だが、「白物家電としての東芝ブランドは、これから新たに作り上げていかなくてはならない」というハードルもある。インドや欧州では、東芝ブランドが知られてはいるが、それはテレビやPC(パソコン)によるものだからだ。
小林社長は、「東芝ブランドの白物専業メーカーとして、日本発のブランド戦略をグローバルで展開し、さらに成長し、グローバルで輝く東芝ブランドを作り上げていく」と意気込む。
わずかとはいえ、2018年に黒字化したことは、東芝ライフスタイルの復活という意味では、大きなステップとなった。
「東芝時代から変わらないモノづくりのDNAの向こうに、我々の未来を見たい。スピードをあげて、意識を変えて、環境変化のスピードに置いていかれず、さらに、先回りできるように、変化を続け、事業を発展させたい」
マイディアグループの売上高は、2017年度実績で約4兆1,000億円。そのうちの8割が白物家電事業という内訳だ。
「主力事業が白物家電という会社のなかで事業を進めている。それが、東芝時代とは違う点。成長のチャンスを掴むことができた」
マイディアを後ろ盾に、新たに描かれた東芝「白物家電」の成長戦略。目に見えるかたちで、これをこれから新体制がどう推進していくのかが注目される。