日立ジョンソンコントロールズ空調は、2022年11月末から、ルームエアコン「白くまくん プレミアムXシリーズ」の新製品として、11機種を発売する。
白くまくんは、約5年間に渡って、凍結洗浄の機能を強化することで、エアコン内部を徹底的に清潔にし、それによって室内の空気をきれいにするという提案が特徴だったが、新製品では部屋の浮遊カビを従来以上にパワフルに抑制する「Premium プラズマ空清」を新たに搭載。さらにオプションで「プラス換気ユニット」を新たに用意し、有効換気量 47m 3/hという建築基準法に準拠した本格的な換気機能を実現した。これらによって、きれいな空気を排出しながら、さらに部屋の空気質を直接的に浄化したり、換気したりできるようにしている。一方で、これまで好評だった「くらしカメラAI」の搭載を見送った点も大きな変化だ。今年の白くまくんは、いつもの白くまくんとは違う。1952年の同社第1号ルームエアコンの発売から70年を迎えた節目に、なにが起こったのか。
日立のルームエアコンの歴史は1952年に、日本初のウインドウ型ルームエアコンを発売したのが始まりだ。
これが同社第1号のルームエアコンであるが、ウインドウ型といっても重量は100kgに達し、京都の都ホテルに納入されたことからもわかるように、業務用途からのスタートとなっている。
1954年には、一時エアコンの生産を停止したこともあったが、1958年には生産を再開。1959年には白くまマークをパネル部に採用し、それ以降、日立のエアコンは白くまがシンボルマークとなっている。また、ルームクーラーという名称をつけたのは日立が初めてだった。
1961年には、日本初となるヒーター付ヒートポンプ式冷房暖房兼用ルームエアコンを発売。1967年には世界初のドライ機能を搭載。1977年には世界初のIC制御ルームエアコン、1978年には日本初のマイコン搭載エアコンを発売。睡眠後も一晩中、室内の快適性を自動コントロールする「コンピューターおやすみ回路」も搭載した。このように日立のエアコンは、世界初、日本初を相次いで実現してきた経緯がある。
さらに省エネ化でも日立は市場をリード。1975年にはスリットフィンの採用によって、熱交換性能を一気に40%も向上させたほか、1992年にはスクロール圧縮機をパッケージエアコンに世界で初めて採用。1997年には、世界初のPAM制御の採用によって、ハイパワーと省エネを両立させている。
そして、清潔性にも先進的に取り組んできた。2007年にはステンレスで、エアコン内部を徹底除菌する「ステンレス・クリーン 白くまくん」を投入。2017年には、熱交換器の汚れを凍結して剥がす「凍結洗浄」を搭載。「清潔エアコンは日立!」をキャッチフレーズに市場で存在感を発揮してきた。
日立ジョンソンコントロールズ空調 ヴァイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネージャーの泉田金太郎氏は、「これまではエアコンの内部をきれいにし、きれいなエコンからきれいな空気が出るという提案であったが、2022年の白くまくんでは、エアコンの外もしっかりときれいにすることをアピールしたい」と語り、「空気の汚れも、部屋の隅の隠れたカビにも、1年中まるごと対策できるのは日立だけである。最高傑作に近いものが完成した」と自信をみせる。
2022年の「白くまくん プレミアムXシリーズ」の特徴は、大きく2点ある。
ひとつは、「Premium プラズマ空清」である。
従来のエアコン吹き出し口からイオンを放出する電極に加えて、新たにエアコン吸い込み口に、1つのプラズマ電極あたり1万5,000本のブラシを持った4つの電極からプラズマイオンをワイドに放出するプラズマイオン発生器を搭載。放出したイオンが空気中の汚れを捕まえ、集塵フィルターの役割も果たす熱交換器が汚れを捕集し、浮遊カビや菌、ウイルスを約2倍のスピードで抑制する。
「プラズマイオン発生器は、熱交換器全体の約半分を占める幅330mmの大きさを持ち、これを室内機の前面中央部に配置している」という。
また、捕集した汚れは「凍結洗浄」で自動洗浄し、一年中、屋外に排出する。また、再熱方式の除湿によって、部屋の湿度をスピーディーに下げることができるため、風が届かない場所の湿度も下げることが可能で、隠れている付着カビも抑制するという。ここでは、冷房、暖房の違いによって、最適な除湿運転制御を行えるようにしたのも新たな特徴だ。冷房では設定温度到達後、再熱方式の除湿冷房運転に自動で切り替え、室温を変えずに、カビ抑制ができる湿度に移行。暖房は、暖房運転や同時利用されている加湿器の運転が停止すると、湿度を自動で判定し、除湿運転でカビを抑制するという。
「コロナ禍の長期化により、空気や部屋の清潔意識が高まっている。外出を控えて、長時間部屋にいる人が増えたり、帰宅時には必ずうがい、手洗いをする人も60%にも達している。また、エアコンに関して気になっていることでは、空気の清潔、部屋の清潔、室内機の汚れに対する関心が高まってきている。カビを捕まえ、カビの繁殖を抑える機能をセットにした空清エアコンを実現することで、こうしたニーズに対応した」と述べ、「これらの動作はワンボタンで行える。空清清浄とカビ抑制を自動で行うことができるのは、日立が実現した国内唯一の機能である」とする。
もうひとつが、オプションで用意した「プラス換気ユニット」である。業界ナンバーワンの有効換気量を実現するという同ユニットは、エアコン室内機本体の左右どちらかに設置することで、建築基準法にも準拠した有効換気量 47m3/hを実現。14畳の部屋であれば、部屋全体分の空気を約70分で排出する。
プラス換気ユニットは、単独運転とエアコンとの連動運転が可能で、連動運転では、人の活動量に応じて換気量を自動的に調節する。さらに、「Premium プラズマ空清」と一緒に使用することで、部屋の空気をさらにクリーンにでき、料理のにおいが気になるときや、花粉や排気ガスの侵入、防犯やプライバシー観点で窓を開けたくないといった窓開け換気の悩みも解決できる。換気ホースは、エアコンの配管を利用するため工事も簡単だという。本体とプラス換気ユニットを組み合わせた横幅は約951mmになる。ちなみに、従来製品には利用することはできない。
「部屋の換気を行っている人は31%に達しているが、窓開け換気には様々な悩みがある。人感センサーで人の活動量に合わせて換気風量を自動調整したり、静かに過ごしているときは自動で換気量を抑え、静音運転を行うなど、生活シーンに配慮した運転も可能になっている。今回のプラス換気ユニットは、日立としての新たな提案になる」と位置づけた。
オプションとした背景には、24時間換気システムを導入している家庭が増加していることも考慮。プラス換気ユニットの添付率は5割程度が見込まれそうだ。
さらに、室内熱交換器を高温加熱で汚れを剥がして洗い流す「凍結洗浄 除菌ヒートプラス」や、室外熱の交換器を自動で掃除する「凍結洗浄」、エアコン内部の風の通り道を清潔にする「銅合金ウイルス抑制」、掃除ができなかったファンも自動で掃除する「ファンお掃除ロボ」、一年中、内部を見張ってエアコンをカビから守る「カビバスター」、冷房シーズン前に、内部を自動で掃除し、故障部分を診断する「プレシーズンお手入れ」といった従来からの機能も搭載している。
一方で、2022年の白くまくんの新製品では、9年間にわたって搭載されてきたカメラ機能がなくなった。
くらしカメラは、2013年に初めて搭載。人の数や位置、動きに加えて、間取りや日が差し込んでいるエリアをすばやくキャッチして、温度や風向、風量をコントロールして、快適な室内と節電運転を両立した。その後、2つのカメラでより細かく見る「くらしカメラツイン」、画像カメラと温度カメラに加えて、ソファやテーブルなどの位置や形状を見る「ものカメラ」を採用した「くらしカメラ3D」、床の種類まで判別する「お部屋カメラ」を加えた「くらしカメラ4」、在室者一人ひとりを識別して見守る「くらしカメラAI」へと、年々進化してきた。
「カメラ機能の継続については社内でも多くの議論があり、販売店からも残念がる声があった。もともとカメラ機能の搭載は、東日本大震災後の節電意識の高まりなどにより、より効率的な節電効果を実現するという狙いもあった。だが、昨今では清潔意識が高まり、そのための機能を強化することを優先した」という。
室内機の内部レイアウトを見ても、カメラが配置されていた部分に大型のプラズマイオン発生器を搭載したことからも、その狙いがわかる。
カメラがなくなったため、人の人数などは把握できないが、人感センサーと日射センサーを搭載しており、人の動きの認識と、それをもとにした気流制御などは行えるという。
ここ数年、日立ジョンソンコントロール空調では、「清潔エアコンは日立!」をキーワードに、同社の強みである清潔機能の進化に注力し、そこで他社との差別化を行ってきた。その点でも、カメラ機能を無くしてまで、プラズマイオン発生器を搭載したのは、「清潔エアコンは日立!」という観点からは、正常進化だと捉えることができ、日立の決意だと見ることができる。
ただ、2022年の白くまくんは、それだけがポイントではない。次の進化に向けた新たなスタートだと捉えることもできるからだ。
日立ジョンソンコントロールズ空調 ヴァイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネージャーの泉田金太郎氏は、「コロナ禍以降、人々の価値観が変わり、暮らし方も変化している。また、SDGsや脱炭素化といったサステナブルに対する関心も高まっている」と前置きし、「これからのルームエアコンは、製品単体で快適な空間を提供する製品から、デジタル技術を活用して、生活を支える製品として社会インフラの一部に進化していくことになる」と指摘する。
また、こんなことも語る。
「気候変動により、夏場は異常ともいえる気温にまで上昇し、エアコンが1日でも停止すると、生命にも影響することもある。正しく動作しないと生活の安全を脅しかねない時代が来ている。エアコンは、従来以上に重要な役割を担う製品になっており、社会的な責任が高まっている」とする。
家電のなかでも、エアコンが果たす役割の重要性はこれまで以上に高まっているといえる。
泉田氏は、「2022年の白くまくんでは、空気や環境の質を向上させるソリューションにこだわった。『清潔エアコンは日立!』の基本コンセプトは継続し、空気や環境の質を向上させる社会課題解決型の製品として提供することになる」とし、「さらに今後は、デジタルサービスの提供にも軸足を置いていくことになる」とする。
デジタルサービスの具体的な内容や方向性については、まだ明確に示しておらず、2023年度以降の製品で具体化することになりそうだ。それもエアコンに求められる社会的な責任の実現に呼応したものになるのかもしれない。
70周年の節目を迎えた日立のルームエアコンが、次の一歩に踏み出す姿勢を明らかにしたのが、今年の白くまくんということになりそうだ。