日本マイクロソフトが、年末商戦に向けて、Windows 11の販売本格化の狼煙(のろし)をあげた。

  • Windows 11が新展開する国内プロモーションの成否、普及の鍵は年末商戦か

    10月5日から提供がはじまった「Windows 11」

Windows 11は、10月5日から提供を開始し、これまでにテレビCMや屋外広告、オンラインを通じた広告展開、主要販売店に設置した「Windowsエリア」におけるWindows 11搭載パソコンの一斉展示などに取り組んできたが、11月18日には、日本マイクロソフトが、リリース後初めてWindows 11に関する記者会見を実施。Dynabook、デル・テクノロジーズ、日本HP、富士通クライアントコンピューティング、NECレノボ・ジャパングループとともに、Windows 11を搭載した最新製品の紹介や、年末商戦向けキャンペーン施策などについて説明。いよいよ業界全体が足並みを揃えて、販売促進に取り組むことになる。

日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏に、コンシューマ市場におけるWindows 11の今後の取り組みについて聞いた。

  • 日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏

Windows 11の登場、静かな立ち上がりにも見えたが

日本マイクロソフトによると、国内では、すでに100モデル以上のWindows 11搭載パソコンが発売されているという。

11月18日に行われた日本マイクロソフト初のWindows 11に関する記者会見では、Dynabook、デル・テクノロジーズ、日本HP、富士通クライアントコンピューティング、NECレノボ・ジャパングループの各社幹部が参加して、それぞれWindows 11を搭載したパソコンの特徴について説明。さらに、各社の年末商戦向けのキャンペーンの内容についても説明する一方、日本マイクロソフトも、Windows 11搭載のSurfaceの特徴や、日本マイクロソフト独自のキャンペーンについても説明した。かつては、PCメーカー各社に配慮して、こうした場ではSurfaceについての説明は行わないこともあったが、今回はSurfaceについてもしっかりと説明し、総力戦としての姿勢を示してみせた。

  • 国内主要各社のWindows 11搭載パソコン

実は、Windows 11のキャンペーンに投下する費用は、これまでのWindows の発売時に比べて、決して過去最大という規模ではない。

Windows 11が公式リリースされた10月5日には、Windows 11搭載パソコンの会見を行ったのは富士通クライアントコンピューティングだけであり、日本マイクロソフトが中心となった会見や、イベントは行われなかった。

グローバルで見ても、ドバイで大きなタワーへのプロジェクションマッピングを実施するといったプロモーションなどは行われたが、リリース日だけの状況を見れば、これまでのローンチに比べて地味なものだったといえる。

2006年に発売したWindows Vistaから、Windowsのマーケティングに携わっている竹内執行役員は、「Windowsのマーケティング予算としては過去最大規模ではなくても、近年、稀にみる投資額であることは間違いない。そして、普及に向けた意気込みは過去最高である」としながら、「マーケティング費用の使い方が過去とは違う。以前は、テレビCMなどで、ドカンと大きな広告費用を投下することがあったり、大規模なイベントを開催し、人を集めて盛り上げたりといったこともあったが、いまは、コロナ禍であり、しっかりと情報を届けていくことが大切な時代。そこに、オンラインを活用していきたいと考えている。正しい情報を、正しく人に伝えることに力を注ぐマーケティングを心掛けている」とする。

日本では、リリースから5週間後となる11月18日に、初めてWindows 11に関する会見を行った。これも、これまでのWindowsと比べると異例のことだった。

竹内執行役員は、「10月5日は、しっかりローンチしたことを、オンラインなどを通じて告知したり、テレビ広告を行ったりした。賑やかにやるよりは、Windows 11の魅力やPCメーカー各社から発売されている新たなデバイスを、しっかりと理解してもらうところに注力した。リリースから5週間後の11月18日に会見を行ったのは、Windows 11搭載デバイスがPCメーカー各社から出てくるタイミングであり、年末商戦に突入するというタイミングにあわせて、マーケティングを強化したいという狙いがあった。テレビ広告も、11月22日から再び実施している」とする。

オンライン販促を重視、一方で日本独自のテレビCM、狙いは学生

日本マイクロソフトでは、Windows 11のマーケティング施策において、新たな取り組みをいくつか開始している。

ひとつはオンラインの徹底的な活用だ。

竹内執行役員は、「コロナ禍において、社会のコミュニケーションの中心は、オンラインへと移行している。オンラインによって、全国にリーチしやすい環境が整ったともいえる。店舗を持つ販売店でも、オンラインによる接客に力を入れている。オンラインを活用することで、店舗に来られない人を含めて、より多くの人にWindowsの魅力を伝えたい」と語る。

Windows 11のマーケティング費用の投下において、オンラインは重要なポイントだとする。

「オンラインは価値を伝えやすいメディアであり、それを様々な方法で活用したい」。

特筆できるのが、ビックカメラと先行的にスタートしていた「オンライン接客」の取り組みだ。

オンライン接客は、日本マイクロソフト社内にあるスタジオから、オンラインを通じて、専任担当者がリアルタイムに接客する仕組みで、「利用者からは、5点満点中4.9点という高い評価を得ている」という。

オンライン接客では、これまではSurfaceシリーズだけを対象にしていたが、今後はPCメーカー各社の協力を得て、スタジオ内の展示機種を拡大。これらの製品にも接客対象を広げていく。さらに、ケーズデンキをはじめとして、オンライン接客が行える店舗も拡大していく考えだ。「ビックカメラでも、コジマの店舗がある地方都市からのアクセスも多い。地方に情報を届け、購入してもらうという点でもメリットがある」とする。

その一方で屋外広告の展開も強化するという。ここには、学生層への訴求という狙いも含まれている。

「高校生が、パソコン購入の際になにを参考にするのかといった調査を行ったところ、屋外広告の比率がかなり高いことがわかった。高校生などは電車を使って通学していることが多く、その際に、屋外広告を目にしていることがわかった」という。もちろん、この効果はビジネスマンにも同様のものが期待できる。

「屋外広告とテレビCMで認知度を高め、オンラインでしっかりと理解をしてもらうという仕組みを考えている」とする。

もちろん、これまで同様に、量販店店頭での訴求にも力を注いでいる。

その中心となるのが、Windowsエリアである。

Windowsエリアは、量販店の店頭において、最新のWindows搭載パソコンを展示しているコーナーで、主要量販店を中心に全国67店舗を展開している。

10月5日以降、PCメーカー各社が投入したWindows 11搭載パソコンに展示内容を一新。最新デバイスを比較しながら、自分に最適なパソコンを検討できるほか、トレーニングに合格したWindows 11認定販売員が常駐し、丁寧に対応する体制を敷いている点も特徴だ。Windows 11認定販売員は、すでに全国で3,500人以上が認定されているという。

「店頭でも、最新デバイスと最新OSについて、安心して、相談してもらえる環境が整っている」と語る。

  • 量販店の店頭コーナーを刷新し、認定販売員が対応することで安心して製品選びができるようにした

実は、日本でのプロモーションは、グローバルでも特別なものになっている。

「Windows 11については、世界同一でのマーケティング活動を行っている。だが、日本は唯一、学生向けに、独自のテレビCMを放映するという、異なるクリエイティブが許されている」とする。

現在、日本マイクロソフトが行っているWindows 11のテレビCMは、学生を対象にしたものであり、「日本では、未来を担う学生に、最新のWindowsで、明るく、楽しく、自分らしい世界を作ってほしいというコンセプトで大規模な広告展開を行っている。学生が最新のWindowsデバイスを手に入れて、より多くのことを達成することを期待している」と語る。

年末商戦に向けて、各社のプロモーションも足並みが揃ってきた。Dynabookでは、Windows 11を搭載した同社製品を購入すると、抽選で1,010人に最大10万円分のQUOカードが当たる「Windows 11を使うならdynabookキャンペーン」を実施。デル・テクノロジーズでは、即納モデルを特別価格で購入できるキャンペーンや、量販店、ECサイト、直販サイトといった、どんなところでデルのパソコンを購入しても、抽選対象としてプレゼントが当たるキャンペーンを予定しており、その詳細は12月9日に公開する。日本HPでは、購入者を対象に、PhotshopやIllustratorなどを含んだAdobe creative cloudを1カ月無料で利用できるキャンペーンを実施。富士通クライアントコンピューティングは、トリプルアシストキャンペーンを実施して、パソコン乗り換えなんでも相談窓口の開設や、パソコンあんしん乗り換えキットの配布、FMVユーザー向けに3カ月無料のクラウドバックアップサービスを提供する予定だ。そして、NECレノボ・ジャパングループでは、若年層をターゲットとした各種プロモーション活動を行う考えを示している。

  • dynabookのWindows 11キャンペーン

  • デルのWindows 11キャンペーン。詳細は12月9日に公開予定だ

  • HPのWindows 11キャンペーンはクリエイター向けが充実

  • 富士通のWindows 11キャンペーン

  • NECとレノボは若年層をターゲットとした各種プロモーション活動を行う考え

OSの新機能より、「楽しさ、わかりやすさ」を訴求した

ただ、日本マイクロソフトでは、Windows 11の機能を前面に打ち出すといった、これまで訴求方法の見直しを図っている点も見逃せない。

日本マイクロソフトの竹内執行役員は、「量販店などからは、Windows 11は、いったいなにが変わったのかという問い合わせが多い」と前置きしながら、「OSに大きな変革を求めている時代は終わったと考えている。これまでは、新しいWindowsは、こんなに変わったという点や、ここがすごいという点にフォーカスしたマーケティングを行ってきた。だが、Windows 11では、OSは主役ではなく、OSの上で動くアプリケーションが主役であることや、ユーザーがやりたいことに集中できるためのプラットフォームとしての役割が重要なOSである。Windows 11の目玉の機能はなにかという質問に対しては、心穏やかにパソコンに向き合えるUIであったり、アイコンの色や起動したときの音など、細かいところに配慮した部分が特徴であり、まさに『神は細部に宿る』というOSである。やりたいことに集中できるOSを作ることに最も力を入れて説明をしている。Windows 11がアプリケーションを邪魔しないこと、操作を邪魔しないことが大きな進化である」とする。

Windows 11では、シンプルなデザインに生まれ変わったこと、落ち着いて作業ができるUIを新たにデザインしたこと、ゲームをプレイする環境を最適化したこと、複数のアプリを操作する場合にも最適な配置を行ってくれるレイアウト機能などを特徴にあげている。

「Windows 11は、日々利用しているPCを、より簡単に、よりわかりやすく、より楽しく使ってもらえるように進化している」と竹内執行役員は語る。

このメッセージは、プロモーションという点では迫力に欠けるものになる。だが、日本マイクロソフトでは、これをしっかりと訴求していくことを、Windows 11におけるブロモーションの肝に据えている。難しい訴求方法が求められるなかで、どんなプロモーションの成果を出すことができるかも注目点である。

ターゲット層を3つに分けたプロモーションを展開

Windows 11の普及においては、3つのユーザーターゲットがある。

ひとつは、一定のスペックを満たしているWindows 10ユーザーが、Windows 11へとアップグレードするユーザーだ。これらのユーザーは、無償でのアップグレードが可能であり、現在、国内で利用されているパソコンの約半分がこの対象になると見られている。

これらのユーザーに対しては、Windows Updateなどを通じて、それぞれにとって適切な時期でのアップグレードを呼び掛けることになる。

2つめは、Windows 10以前のOSが動作しているパソコンユーザーの買い替えだ。

ここで日本マイクロソフトが訴求しているのが、日本固有の「モダンPC」による提案だ。

モダンPCは、個人ユーザーがWindowsを最大限に楽しむことができる機能を搭載したパソコンで、現在、販売されている2台に1台以上がモダンPCだという。

「タッチやペンを使って、より多くのことができるデバイスがモダンPC。このパソコンを購入してもらえれば、Windows 11の最新機能を活用してもらえる」とする。

11月18日に行われた記者会見では、あまりモダンPCという言葉を使わなかったが、「以前のようにモダンPCと言わなくても、それを理解してもらえる状況になってきた」と、竹内執行役員は説明する。だが、今後もモダンPCを訴求していくのであれば、Windows 11をしっかりと結びつけたプロモーションが必要だといえそうだ。

そして、3つめが、Windowsに新たに触れるユーザーである。

ここで主力になるのが、まずは学生層だろう。

「GIGAスクール構想によって、学校には1人1台のデバイス環境の整備が進み、それに伴い、家庭内でも、小中学生がファーストPCとして新規購入する動きが出ている。実際、量販店店頭では、中学生の親子が、パソコンを購入するといった動きが多く出ている。量販店のWindowsエリアに展示してある最新デバイスを体験してもらったり、オンライン接客で最適なデバイスを選択したもらったりすることで、彼らの未来が明るくなるようなデバイスを購入してもらいたい」と語る。

  • GIGAスクール構想が進んでいることで、学生層への訴求はかなり重要なポイントに

竹内執行役員は、まずは、小中学生、高校生に、Windows 11への理解を高めてもらうことが極めて重要だとする。

「パソコンを買い替える人たちは、選ぶポイントがわかっていたり、自分が必要な機能がなにかといったことがわかっている。だが、初めてパソコンを購入する学生たちはそれがわからない。Windows 11のバリューを伝えるとともに、PCメーカーのパソコンのバリューをわかりやすく紹介し、正しいデバイスを選んでもらうことが大切である。初めて使うパソコンで、タッチが使えない、起動が遅いという体験をしてほしくない」とし、「社会に出たときに、どんな環境で仕事するのかを考えると、早いうちにWindowsを触ってもらったほうが、メリットが大きい。学校ではChromebookを利用していても、社会に出たときのメリットを親御さんにも理解してもらい、家では将来に役立つWindowsデバイスを使ってもらいたい」とする。

日本マイクロソフトでは、年末商戦から、進入学需要がある春商戦まで、学生の新規購入に向けたプロモーションを加速していく考えだ。

「コロナ禍で、多くの人が新たなパソコンを手にしている。小中学生や高校生の家庭での利用をはじめ、家庭の中心や、生活の中心にパソコンがあることを、Windows 11のプロモーションにおいて、改めて訴求していきたい」とする。

一方で、新規需要層という意味では、ゲーミングPCの訴求も、これから加速することになりそうだ。現時点では、まだゲーミングPCに関するプロモーションは本格化していないが、社内では時間を割いて議論をしていることを明かす。「大きな需要があり、大戦略が必要な領域である」と位置づける。日本マイクロソフトが、どのタイミングで、Windows 11とゲーミングPCを組み合わせた本格的なプロモーションを仕掛けることになるのかも楽しみだ。

Windows 11が迎える最初の年末商戦、成果に注目

12月には、いよいよWindows 11にとって、最初の大型商戦となる年末商戦を迎えることになる。

竹内執行役員は、「Windows 11の体験を最大限に生かすことができるのが、Windows 11を搭載した最新デバイスである。PCメーカー各社が切磋琢磨して投入してきたWindows 11に最適化したデバイスを、多くの人に体験し、手に取ってもらいたい。年末商戦では、まずは買い替えを促進していくことになる」とする。

また、「半導体不足や部品価格の高騰などの影響もあるが、想定している出荷台数は提供できている。Surface GOやSurface Pro 8、そしてPCメーカー各社の最新デバイスは、品薄という状況にはなっていない。昨年よりも、多くの人に新たなデバイスを使ってもらえるだろう」とする。

「年末商戦は、アクセル全開で、Windows 11の良さがたくさん詰まったデバイスを購入してもらうための施策を展開したい」とする竹内執行役員。Windows 11の最初の大型商戦での成果がどうなるかに注目したい。