三菱電機は、2025年度を最終年度とした中期経営計画を発表。2025年度に売上高5兆円、営業利益率10%、ROE10%、キャッシュジェネレーション(調整後営業キャッシュフロー)では5年間で3兆4,000億円を目指す。

三菱電機の杉山武史社長はこれを、「事業ポートフォリオ戦略の強化、統合ソリューション提供の拡大、経営基盤の強化に加え、脱炭素化の対応を含むサステナビリティへの取り組みなどを織り込んだ中期経営計画を策定した。2025年を見据えた経営目標を設定するとともに、2021年2月1日に、創立100周年を迎えた三菱電機が、この5年間でどう変わろうとしているかを示すものになる」と位置づけた。

  • 三菱電機 執行役社長の杉山武史氏

    三菱電機 執行役社長の杉山武史氏

4分類の事業、「まんべんなく」ではなく「はっきりメリハリ」

新たな中期経営計画では、同社事業を、収益性と成長性をもとに、重点成長事業、レジリエント事業、育成事業/新規事業、価値再獲得事業の4つの象限に分類し、強弱をつけて経営資源を投入する考えを示した。

「まんべんなく成長していくというよりも、メリハリをはっきりさせた事業オペレーションをしていくものになる」(三菱電機の杉山社長)というのが、今回の中期経営計画の基本姿勢だ。

  • 事業を4つに分類し、強弱をつけて経営資源を投資する

重点成長事業は、今後も成長していく市場において、グローバルトップとなるポテンシャルを有し、社会課題解決に貢献するイノベーション事業であり、三菱電機の成長ドライバーになると定義した。

「重点成長事業は、2025年度の財務目標を達成する上で、全社を牽引するものになる。集中的な成長投資を行い、売上げ規模や収益性を向上させる」という。

重点成長事業の売上高は2兆6,000億円(2020年度実績は1兆8,000億円)、5年間の年平均成長率は8%。営業利益率は13%(同6%強)を目指す。

レジリエント事業は、安定的な需要を有し、市況変動時においても、弾力性を持った経営に貢献する事業群とする。

「重点成長事業とレジリエント事業が両輪となって、成長を続けながら、景気変動への業績への影響を最小限に抑える」とした。

レジリエント事業では、効率的な投資による収益力の最大化により、売上高1兆円(2020年度実績は9,000億円)、営業利益率9%(同9%強)を目指す。

育成事業および新規事業は、現在の規模は小さいが、次の重点成長事業になる可能性を持った事業と位置づけ、「データ連携、データ活用型ソリューション事業の拡大、既存事業の事業モデル変革、次世代事業の創出が含まれる」とした。

価値再獲得事業は、開発や製造の価値が、現時点では十分に認められていない事業とし、「三菱電機が提供する価値を顧客に認めてもらうべく、事業モデル転換を行い、将来的にレジリエント事業に区分できるように進めていく。ただし一定期間を経て、収益性の改善が見られない事業については、課題事業に位置づけ、売却や撤退も検討する。それによって生まれたヒト、モノ、カネといったリソースは、重点成長事業に投入し、業績の伸張につなげる」と述べた。

価値再獲得事業のなかには、社会インフラを担っている事業もあるという。「結果として収益性を伴わなかったのは、事業に込めた機能や価値が、必ずしも顧客や社会に評価してもらえなかったことでもある。それに対してはチャレンジをしたいが、うまく回らないということであれば、課題事業に位置づけることもある。年度ごとの業績をみながらオペレーションをしていく」とした。

課題事業については、一定の利益水準や、ほかの事業へのシナジーといった社内基準から評価していくという。

グローバルトップを狙え社会課題に貢献できる「重点成長事業」

重点成長事業に定めたのは、FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADASと、これらの事業を支えるパワーデバイスの5つとなる。

「選定の考え方は、グローバルに高い伸びが見込める事業であり、グローバルトップを狙える強いコアコンポーネントを持ち、それにより、事業拡大が見込まれ、その結果として、社会課題解決に大きく貢献できるものであること」とし、FA制御システムは、リーディングカンバニーとして世界のモノづくりを支え、空調冷熱システムは省エネ性能の向上によって、社会の脱炭素化に貢献しながら、快適な暮らしを実現。ビルシステムは、ビルや地域のスマート化により、世界の国々で住みよい街づくりに貢献し、電動化は環境負荷を下げ、ADASは交通事故ゼロ社会を支える。そして、パワーデバイスは三菱電機の様々なソリューションのキーデバイスとして、脱炭素社会の実現に貢献する事業とした。

  • FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADASと、これらの事業を支えるパワーデバイスの5つが重点成長事業

FA制御システムは、2020年度には2,650億円だった売上高を、2025年度には3,500億円以上に拡大することを目指す。また、空調冷熱システムは8,100億円から1兆1,000億円以上に、ビルシステムは5,000億円から6,500億円以上に、電動化/ADASは1,000億円から3,000億円以上に、パワーデバイスは1,500億円から2,400億円以上に、それぞれ拡大させる計画を打ち出した。

三菱電機の杉山社長は計画の背景を、「2020年度を最終年度とした中期経営計画で掲げた売上高5兆円、営業利益率8%の目標には到達しなかった。未達要因を事業ごとと、全社規模でレビューした。従来は8つの成長牽引事業があり、それらで売上高の80%を占めていた。そこに成長投資をすることがこれまでの方向性だったが、結果としてうまく伸びきれなかった。その要因のひとつが、8つの成長牽引事業のなかでも、成長性が高いもの、低いものがあったという点。今回の中期経営計画では、三菱電機が取り組む多くの事業を、成長性という点でどう分類するか、成長性が高い事業のなかで、グローバルトップとして戦っていける力があるものはなにか、事業の成果として、社会課題解決につながるものはなにかという点で精査し、より重点的にリソース配分をしていくことになる。それが5つの重点成長事業になる」と説明する。

さらに、資源投入の重点配分については、2020年度までの中期経営計画に比べて、8,000億円増となる2兆8,000億円の資源を投入し、そのうち、重点成長事業に約60%を配分。「伸ばすべき事業を確実に伸ばす。さらにM&Aを含む戦略投資枠として、5,000億円を用意し、2025年に向けて事業の推移や市場の動向を見極めながら、必要な措置を講じる」とした。

  • 新たな中期経営計画では予算配分を見直すとともに、額も2.8兆円へと増やした

また、ROICを拠点、事業ごとにブレークダウンして、事業における投下資本とリターンを細かく確認し、市場の推移を確実に察知することで、「伸びが鈍化した事業に投資を続けたリ、投資が必要な事業への手当てが不十分にならないようにする」と述べた。

社内DX、情報セキュリティ、経済安全保障、研究開発でも強化計画

また、社内のDXおよび情報セキュリティの強化として、2,000億円を盛り込んでいる。

業務DXの推進に向けては、2021年4月に、プロセス・オペレーション改革本部を新設。事業の枠を超えた業務の全体最適化に向け、通常のIT投資に加えて、1,000億円以上の投資を実施。高いと収益体質に転換するという。

情報セキュリティ投資については、過去に発生した不正アクセス事案を踏まえ、情報セキュリティ基盤強化に向けた活動を推進し、高度化、巧妙化する攻撃パターンへの対策を強化する考えを示した。

  • 国内企業をターゲットとした重大な不正アクセス被害を度々目にするようになった近年、情報セキュリティの強化は急務。過去に発生してしまった事案も踏まえて取り組む

グローバル対応では、各国の環境規制や情報規制、政策、地政学的背景を踏まえて、地域に最適な戦略の立案を推進するとともに、グローバル人材の最適な配置を実施。海外発のビジネスモデルの立ち上げを強化し、各地域での社会課題解決に向け、現地主導でのマーケティング、PoC、事業化を推進するという。ここでは、中国におけるE-JIT(Environment & Energy Just In Time)ソリューションの展開、米国でのグローバルなコーポレートベンチャリング活動のモデルケース化、欧州では、DGDRやRDDSといったモビリティ分野におけるビジネスモデルの検討を推進する。

さらに、あらゆる変化に柔軟に対応可能なサプライチェーンの構築や、経済安全保障の観点から、リスクを統合的に制御する経済安全保障統括室の設置も行う。

また、最適なグループ運営体制の強化では、それぞれのバリューチェーンにおける関係会社の機能強化、役割分担の見直しを行い、全体最適化や事業シナジーの最大化を目指す姿勢を打ち出し、設計分野では、重点成長事業の強化や、統合ソリューションの拡大に対応したソフトウェア設計会社の体制整備および開発力強化を進め、物流分野ではグローバル物流企業との戦略的パートナーシップも視野に入れたロジスティクス体制の整備に加えて、先進プラットフォーム導入による物流環境変化への迅速な対応と効率化を図る。保守・サービスや社内業務支援でも最適化を図る。

研究開発戦略では、収益向上の原動力となるコア技術の強化、事業を支える土台となる基盤技術の継続的な深化、次なる成長の源泉となる新技術の探索および創出の3点をバランスよく推進。オープンイノベーションの積極活用により、社会課題の早期解決を目指し、事業化の付加価値向上と、事業化のスピードアップを図るという。

  • コア技術の強化、基盤技術の継続的な深化、新技術の探索・創出の3点をバランスよく推進する

さらに、知的財産および標準化戦略として、「今後は、ますます重要になるAIやソリューション関連の知的財産権の取得強化を進めるとともに、当社の技術資産を起点に、さらなる社外連携の強化につなげる。所有する知的財産を分類し、ライセンス対象となる特許を抽出。それらを積極的にライセンス展開することで、オープンイノベーションの機会を創出していくほか、ミッシングパーツを明確化することで、ライセンスインや共同開発による技術補完で事業拡大を図る。そして、事業戦略、研究開発戦略、知財/標準化戦略を整合させた三位一体の経営を推進する」などと述べた。

今回の中期経営計画の説明では、「統合ソリューション」への取り組みについても説明した。

三菱電機では、2019年に打ち出した経営戦略において、ライフ、インダストリー、インフラ、モビリティの4つの領域において、グループ内外の力を結集した統合ソリューションを提供する考えを示しており、「三菱電機の統合ソリューションは、強いコアコンポーネントに、長い事業経験で獲得した豊富なフィールドナレッジ、AIやIoTなどを含めた先進的デジタル技術を用いて、さらにその価値を高めるものになる。エッジ側でソリューションを作っていくのが三菱電機の統合ソリューションの特徴になる」とした。

  • 三菱電機の「統合ソリューション」のイメージ

2020年4月には、ビジネスイノベーション本部を設置。統合ソリューションへの取り組みを本格化させている。

三菱電機の杉山社長は、「様々な機器やシステムのデータを連携、分析し、顧客に最適なソリューションを提供するのが三菱電機の統合ソリューションとなる。オープンイノベーションによる顧客との共創や、M&Aなどの積極的な活用により、ソリューション領域を拡大していく」と述べた。

統合ソリューションを支えるキー技術として、同社独自のコンパクトなAI技術である「Maisart」や、統合IoTの「ClariSense」、5Gをはじめとした「通信関連技術」をあげ、これらを幅広い事業で活用。Maisartでは、レーダーで収集したデータをもとに、AIを活用して、津波検出とほぼ同時に、陸地での津波浸水深を高精度に予測し、迅速な避難計画の策定を支援。沿岸地域での防災や減災に貢献できる例を示した。

統合ソリューションでは、2025年度までの売上高で3,000億円の増加をめざす。

  • 統合ソリューションのキー技術として紹介されたAI、IoT、5G

三菱電機の皮籠石 斉CFOは、「重点成長事業、レジリエント事業にも関連してくる部分であり、もっと伸ばしていかなくてはならないと考えている」と述べた。

創業100周年の三菱電機、今こそ次の100年への基礎を築けるか

一方、三菱電機では、創業100周年を迎えたのにあわせて、企業理念体系を改訂。企業理念を、「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」とした。

「従来の企業理念の精神を受け継ぐとともに、これを存在意義と捉え、原動力となる要素をたゆまぬ技術革新と、限りない創造力と定めた。また、7つの行動指針を『私たちの価値観』として見直した。ここでは、新たに人を加えて、信頼、品質、技術、倫理・遵法、人、環境、社会と定めた。さらに、コーポレートステートメントの『Change for the Better』はコミットメントに見直した。全世界12万人のグループ社員全員が深く胸に刻み、思いをひとつにしていく」と述べた。

また、経営方針では、「成長性、収益性、効率性、健全性のバランス経営に加え、すべての活動を通じたサステナビリティの実現に貢献し、経済的価値だけでなく、従来以上に社会的価値の向上に取り組むことで、さらなる企業価値の向上を目指す。社会、顧客、株主、従業員から、信頼と満足を得られるようにしっかりと取り組んでいく」とした。

  • 社会的価値を含む企業価値の向上を目指す

サステナビリティでは、「持続可能な地球環境の実現」、「安心・安全・快適な社会環境の実現」、「あらゆる人の尊重」、「コーポレートガバナンスとコンプライアンスの持続的強化」、「サステナビリティを志向する企業風土づくり」の5つを、優先するマテリアリティとして設定した。

三菱電機では、2019年に、「環境ビジョン2050」を発表し、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量を、2013年度比で80%削減するとしていたが、これを見直し、実質ゼロを目指す目標を新たに打ち出し、その目標達成に向けて、「電力CO2排出係数低減への貢献拡大」、「製品からの排出抑制」、「生産時の排出抑制」、「パワーデバイスの高効率化と市場での普及拡大」の4点に取り組む考えを示した。

  • 「環境ビジョン2050」では温室効果ガス排出量ゼロへ取り組んでいる

なお、会見の冒頭に、杉山社長は、「近年発生した一連の労務問題について、心からお詫びする。また、不正アクセスによる情報漏洩、品質不適切行為でも、社会に多大な迷惑をかけた。厳粛に受け止め、深く反省し、再発防止も含めた諸課題に、グループをあげて取り組んでいく」と陳謝。製品、サービスの品質については、「複数の品質管理上の不適切行為の発生を踏まえ、当社の品質基本理念を再徹底するとともに、関連法規、規格や顧客との契約仕様を確実に満たす品質管理体制を強化する」と述べ、「次の100年も、必要とされる三菱電機であり続けるために努めていく」と語った。