200年という長きにわたり日本の「のど」を守り続けている龍角散。「ゴホンといえば龍角散」というキャッチフレーズでもおなじみの国民的伝統薬メーカーが挑む、伝統の継承と時代に即した革新。頑なでありつつもしなやかな、"龍角散流"の経営ビジョンを同社8代目社長である藤井隆太氏に語っていただいた。

--龍角散の沿革と代表製品を教えてください--

秋田(佐竹)藩の家伝薬として用いられていたのど薬「龍角散」が当社の原点。この「龍角散」を主力ブランドとし、顆粒剤や錠剤・カプセルなど、様々なタイプのOTC医薬品(薬局・ドラッグストア等で販売されている一般医薬品)や食品等、お客様のセルフメディケーション(医師の治療を受けなくとも治療が可能な疾病は、OTC医薬品で対応する医療)をサポートする幅広い製品を開発しています。

--老舗企業として長く存続する秘訣を教えてください--

「老舗」「伝統」というイメージが強い当社ですが、一代たりとも同じことを繰り返している経営者はいません。むしろ時代に即した経営革新を積極的に推し進めており、だからこそ200年という歴史をつないでいるのだと思っています。

とはいえ、常に順風満帆というわけではありません。私が社長として就任した18年前の当社の業績はガタガタで、40億円もの借金を抱えていました。にもかかわらず、社員の危機感が非常に乏しい。老舗だから大丈夫、そう思っていたのでしょう。私はここに大きな問題を感じました。

社長就任当時、初めに手をつけたのが新規顧客の開拓。新たな層の獲得ができていないことが、売上の低迷につながっていると判断したからです。社長自ら積極的に市場調査を行ったり、小売店・卸店を訪問したりして、「本当に市場(消費者)に求められているものが何であるのか」を体得しました。

--経営上における転機をお聞かせください--

平成10年に発売を開始した「嚥下(えんげ)補助ゼリー」は、「ゴックン! (嚥下)」が苦手な要介護者や、シニア層向けに開発したもの。この製品のヒントは、老人介護施設を訪問した時に見出しました。この施設では入居者のご老人の薬を、飲み下すのが大変だからと食事に混ぜて服用させていました。もちろんこれは入居者の方の体調を気遣ってのこと。でも私は「これでいいのか」という違和感を覚えたのです。生きていくことの質"QOL"を考えた時、食事をおいしく食べられない状態をつくってしまってはいけない、そう思いました。そこで開発したのが「嚥下補助ゼリー」。薬が飲みにくいのなら、飲みやすくする手助けをしたい。その思いから生まれた製品です。

また平成20年には、昭和39年から50年近くもご愛顧いただいた、水なしで飲め、のどの炎症を緩和する「クララ」の販売を中止。代わって「龍角散ダイレクト」の販売に切り替えました。それまで50代の方を中心に好評を得ていた「クララ」の販売中止は、社内で大きな波紋を呼びました。でも、新たなユーザー開拓には、時代に合ったブランド戦略が必要。お客様からの信頼の高い「龍角散ブランド」に統一し、さらに服用しやすくすることにより、20代の顧客が大幅に増加しました。

こうした成功事例を積み上げることで、社員たちにも革新的な意識が芽生えたように思います。

--今後龍角散が目指すもの、次なるビジョンをお聞かせください。--

「世のため人のため」になることを大前提に、「この製品で喜んでいただける」と確信できるビジネスをしていきたいと考えています。

また今後は、セルフメディケーションの啓発を一層強化していきたいですね。先進国でありながら、公的医療に頼りすぎている日本。自分の体調を自ら管理する意識を高めさせ、セルフメディケーションを浸透させたいと思います。現在、欧米のOTC医薬品の割合が3~4割であるのに対し、日本はわずか1割以下という状況ですから、欧米と肩を並べるくらいには普及させたいですね。そのためにも、より必要とされる医薬品、喜ばれる医薬品の開発に努めたいと思っています。

--老舗企業を次代へつなぐ「人材育成」の方針を聞かせて下さい。--

自分の「良さ」をしっかり認識してもらいたいと感じています。私はかつてプロのフルート奏者を目指してフランスに留学していましたが、当時の師匠に「何のために演奏するのか?」と聞かれ、ハッとしたことがあります。練習成果をお披露目するのではなく、自分の良さを伝えるために演奏するのだと気づかされたのです。仕事も同じ。やれと言われたからやるのではなく、自分の「良さ」「強み」を理解し、アピールしてもらいたいと思っています。実際当社では、性別や国籍、年齢に関係なく、個性的な人、「この分野では誰にも負けない」というスペシャリストが活躍しています。他の医薬品メーカーを定年退職したベテラン層や、アグレッシブな韓国籍の女性社員等、多様な人材がお互いの持ち味を活かして働いており、今後もより一層発展的な仕事をしてくれると確信しています。

会社概要
社名:株式会社龍角散
設立:昭和3年7月9日(創業 明治4年)
資本金:6,000万円
代表者:代表取締役社長/藤井隆太
事業内容:OTC医薬品、食品、家庭用品の製造・販売
事業所:本社/東京都千代田区東神田2-5-12 龍角散本社ビル