スマートフォンだけでなく、ノートパソコンにも搭載する機種が増えてきた、4G・5Gなどのモバイル通信機能。最近では、低価格が売りのChromebookでもモバイル通信機能を標準搭載する機種が登場しました。インターネット接続が前提となる部分も多いChrome OSだけに、その相性は悪くないのですが、実際の普及に向けては課題も多いようにも感じます。

Chromebookにもモバイル通信搭載機種が登場

ここ最近、スマートフォンだけでなくパソコンにもモバイル通信機能が搭載されるケースが増えています。その一例として挙げられるのが、レノボ・グループの日本法人であるレノボ・ジャパンが2022年4月12日に発表したビジネスノートパソコン「ThinkPad」シリーズの新機種です。

同社が発表した22機種は、すべてがモバイル通信機能内蔵可能となっています。なかには「ThinkPad X13s Gen 1」のように、5GとeSIM、そしてスマートフォンでも対応機種がまだ少ないミリ波にも対応するなど、非常に充実した通信機能を搭載できるモデルも提供されています。

  • 2022年4月12日に発表された日本向けのThinkPad新機種は、22モデルすべてがオプションによりモバイル通信機能が内蔵できる

ですがレノボ・グループは、ビジネス向け以外でもモバイル通信の対応を積極的に進めているようです。実際、レノボ・ジャパンは、4Gの通信機能を搭載した「Lenovo 300e Chroomebook Gen 3」をソフトバンクが独占販売すると2022年4月14日に発表しています。

これはその名前の通り、OSにグーグルの「Chrome OS」を搭載したいわゆる「Chromebook」の一種。すでに文教市場向けに投入されているものですが、学校で配布されたパソコンを自宅に持ち帰ることができないケースが多いことを受け、家庭でも同じ環境を利用できるChromebookを販売するに至ったようです。

  • レノボ・ジャパンとソフトバンクは共同で、「Lenovo 300e Chroomebook Gen 3」の4G対応モデルをソフトバンクが独占販売すると発表した

ノートパソコンにモバイル通信機能の搭載が進んでいる理由としては、おもにコロナ禍で急速に進んだリモート需要に対応する狙いが大きいでしょう。外出先での利用だけでなく、自宅に通信環境がない人がリモートで仕事をしたり、学習したりするうえでは、通信機能があらかじめ搭載されていることのメリットが非常に大きいのです。

とりわけ、グーグルのサービスを主体に利用する設計となっており、オンラインでの利用が前提の部分も多いChromebookの場合、ネットワーク接続に手間がかかることは使い勝手を大きく落とすことにもつながります。それだけに、モバイル通信モジュールが標準搭載され、すぐ通信が利用できることの意味合いは、WindowsやMacより大きいといえるでしょう。

モバイル通信との相性は高いが、価格面で大きな課題が

そこで実際に、先のLenovo 300e Chroomebook Gen 3の4G対応モデルをお借りし、その使い勝手を確認してみました。Chromebookでは主流の低価格モデルがベースとなっているため、ディスプレイサイズは11.6インチながら解像度がHDで、重量も1.34kgと、筆者が普段使用している軽量のノートパソコンと比べると見劣りする部分はあります。しかし、価格が57,600円と圧倒的に安いことを考えれば、妥当だともいえます。

  • Lenovo 300e Chroomebook Gen 3は低価格ということもあって、ディスプレイサイズは11.6インチだがベゼルも厚く、重量も1.34kgとモバイルノートパソコンとして見るとやや重めだ

一方で、重要なポイントなるのがモバイル通信機能の標準搭載です。ソフトバンクが独占販売するモデルということもあり、専用のSIMが挿入されていれば簡単な初期設定をするだけで、あとは電源を入れればすぐインターネットに接続できるようになっています。Wi-Fiスポットを探したり、スマートフォンのテザリング機能の設定をしたりするなどの手間がなく、電源を入れたらいつでもどこでも通信が利用できる手軽さはやはり魅力です。

  • 取材先で実際に使ってみたところ。電源を入れてすぐインターネットに接続できるので、ChromeやGmailなどグーグルの各種サービスを素早く利用できるのはメリットだ

しかも、Chromebookはすぐ電源が入るスピード感が特徴であるのに加え、先にも触れた通りインターネットに接続していないと快適に利用できない部分も多くあります。それだけに、モバイル通信が標準搭載されていることの意味合いはいっそう大きいと認識させられたのは確かです。

  • 画面左下にはLTEマークのアンテナが立っており、モバイル通信を使っていることが分かる

ただ、モバイル通信機能を搭載したChromebookを広く普及させるにあたっては、課題も少なからずあるように感じています。最大の課題はやはり、通信モジュールを搭載すると本体価格が上がってしまうことです。

先にも触れた通り、ソフトバンクにおけるモバイル通信機能が付いたLenovo 300e Chroomebook Gen 3の価格は57,600円ですが、同機種に近い機能・性能を備え、なおかつモバイル通信機能を搭載していないChromebookは3万円前後で購入できるものも少なくありません。Chromebookはとりわけ低価格であることが求められるだけに、通信モジュール搭載時のコストをより引き下げていかなければ普及は難しいと感じます。

料金面でも課題があります。ソフトバンクの場合、Chromebookなどデータ通信専用機器に向けた料金プランの充実度が比較的高く、スマートフォンのデータ通信量を、月額1,078円追加して2台目以降の機器で利用する「データシェアプラン」や、単体でも利用できる「データ通信専用3GBプラン」(月額1,408円)、「データ通信専用50GBプラン」(月額5,280円)も用意しているのですが、他社は決して充実しているとは言えない状況にあります。

  • Chromebookなどで利用するソフトバンクのデータ通信専用プランは比較的充実しているが、他社はその限りではない

それはやはり、携帯電話市場におけるスマートフォンの存在感が非常に大きいがために、スマートフォン主体の料金設計から抜け出せないことが影響しているといえます。実際NTTドコモの場合、パソコンなどに向けて提供されているのは、ソフトバンクのデータシェアプランと同様の「5Gデータプラス」(月額1,100円)ぐらい。KDDIのauブランドには、パソコンでの利用に適した現実的なプランがないように感じます。

5G時代には、スマートフォン以外の多様な機器でモバイル回線の利用が広がるとみられています。それだけに、多様な機器で快適にモバイル通信を利用してもらううえでも、スマートフォンとは違った料金やサービスの仕組みが求められます。