楽天は2021年3月12日、日本郵政グループと資本・業務提携に合意したことを発表しました。物流だけでなく、携帯電話事業などでも連携を加速する一方、日本郵政が楽天に8.32%を出資するとしています。2020年12月に物流分野ですでに提携関係にある両社ですが、より強化して資本業務提携にいたったのには、楽天モバイルが大きく関連している可能性が高そうです。

物流分野での提携から短期間のうちに資本提携へ

携帯電話事業「楽天モバイル」が大きな注目を集めるEコマース大手の楽天ですが、2021年3月12日、同社を巡って非常に大きな動きがありました。それは、日本郵政と資本・業務提携するというものです。

この提携によって、日本郵政は楽天に対し約1500億円を出資して8.32%の株式を保有するとのこと。楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏の親族や、資産管理会社に続く大株主となることから、楽天としてはかなり大きな出資を受け入れたといえるでしょう。

  • 楽天は、2021年3月12日に日本郵政と共同記者会見を実施。楽天が日本郵政から約1500億円の出資を受け入れ、連携を強化するとしている

両社の発表内容によりますと、日本郵政が全国に持つ2万4000の郵便局と、それを主体にした物流ネットワーク、そして楽天が持つ1億以上の会員基盤を連携し、シナジーの最大化を図るとしています。そして両社は、大きく3つの分野で提携するとしています。

1つは物流の分野で、共同で物流拠点や配送システムを構築したり、双方が持つデータを活用した物流のデジタル化を促進したりするとしています。2つ目は、日本郵政のデジタル化の推進で、デジタルに強い楽天から日本郵政に人材を派遣することで、日本郵政の業務のデジタル化を推し進め、新たな価値創造を進めるとしています。

そして3つ目は、楽天モバイルでの連携です。すでに両社は、郵便局に楽天モバイルの基地局を400以上設置しているとしていますが、それに加えて郵便局内に楽天モバイルの申し込みカウンターを設置したり、郵便局の配達網を活用したマーケティングの支援を進めたりしていくとしています。

  • 日本郵政は、楽天モバイルの事業でも郵便局内に申し込みカウンターを設置したり、マーケティング活動を支援したりするなど、販売面を中心に連携を図るとしている

このほかにも両社は、金融やEコマースといった分野でも連携を図っていくとしていますが、ここで気になるのは、実は両社は2020年12月24日、すでに物流分野での提携を発表していること。にもかかわらず、それから約3カ月という非常に短い期間のうちに、なぜ楽天に資本を入れての提携強化に至ったのでしょうか。

短期間での大規模投資が必要になった楽天モバイル

そこに影響しているのは、やはり楽天モバイルではないかと筆者は推測します。楽天は、携帯電話事業を除くとコロナ禍でも業績が非常に好調で、それだけであればこれだけ大きな規模の資本を受け入れる必要性が薄いからです。

しかしながら楽天は現在、楽天モバイルへの先行投資が続いているため、ここ最近は大幅な赤字が続いている状況です。にもかかわらず楽天モバイルは、競争力強化のため基地局整備計画を5年前倒しし、2021年夏に人口カバー率96%を達成するとしているほか、利用者の増加を受けて通信品質を向上するため、基地局の設置を当初の計画より増やし、設備投資額がもともと計画していた6000億円から30~40%増えるとしています。

  • 楽天モバイルは、利用者の増加にともなって通信品質向上を図るため、基地局の整備を当初の計画より拡大するとしており、もともとの予定である6000億円から30~40%ほど投資額が増えるとのこと

しかも楽天モバイルは、インフラ整備だけでなく安定したサービスを提供できる体制がなかなか整わず、トラブルを起こすケースが現在も続いています。実際、2021年3月10日には、同社のコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」で個人情報や通信の秘密が漏洩し、総務省から行政指導を受けているのです。

インフラ整備に加えて内部体制の強化を進めるには、短期間のうちにより大規模な投資が必要になるため、楽天の経営が当面厳しい状況が続くことは確実でしょう。それに加えて楽天モバイルは、低価格の料金プランが携帯大手3社から相次いで投入されるのに対抗するべく、1GB以下であれば月額0円で利用できる新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を打ち出し、携帯電話事業単体では大きな収益が見込めない可能性が出てきています。

  • 楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VIは、月あたりの通信量が1GBまでの場合は月額料金が0円となる。楽天の他のサービスと連携して売上を伸ばす方針だが、裏を返せば通信事業での収益化がかなり厳しくなったともいえる

楽天モバイル自体での大きな売上が見込めないなか、短期間で急増する設備投資に対応するには、大幅な資金調達が必要と楽天は判断し、日本郵政からの資本を受け入れる判断に至ったといえそうです。日本郵政としても、ゆうちょ銀行が2020年にスマートフォン決済サービスへの不正送金問題が発覚して大きな社会問題となるなど、デジタル化への対応に不足している部分が少なからずあることから、デジタルに強い楽天との連携強化にメリットを感じ出資にいたったといえるでしょう。

ちなみに楽天は同日、日本郵政だけでなく中国テンセントの子会社やウォルマートからも資金調達をしており、合計で約2423億円を調達しているとのこと。これによって、資金繰りにある程度の目途を付けた楽天ですが、これで楽天モバイルの事業が軌道に乗り、携帯大手3社に対抗できる“構え”が整うのか、あるいはさらなる投資が必要になってくるのかという点は、楽天の将来をも大きく左右する可能性があるだけに、今後大きな関心を呼ぶところでしょう。