グーグルが提供するスマートフォンやタブレット向けのOS「Android」は、誰でも自由に利用できるオープンソースの形で提供されており、無償でスマートフォンに搭載することも可能だ。では一体、どうやってグーグルはAndroidで収入を得ているのだろうか。

Androidの基礎部分はオープンソースで無料

スマートフォンに搭載されているOSといえば、今やアップルの「iOS」と、グーグルの「Android」の2つに集約されているといっても過言ではないだろう。しかもiOSは、iPhoneやiPadなどアップルが提供するデバイスにしか搭載されていないことから、それ以外のメーカーが搭載しているOSは、Androidということになる。

それゆえAndroidは、世界的にも非常に高いシェアを獲得している。いくつかの調査会社が公表するスマートフォンOSの市場シェアを見ると、Androidが市場の6~8割と、過半数以上を占め圧倒的なトップシェアを獲得していることが分かる。iPhoneが圧倒的な人気を誇る日本では考えられないかもしれないが、世界的に見ればAndroidユーザーの方が圧倒的に多いのだ。

アップル製以外の大半のスマートフォンに搭載されているAndroidは、世界的に最も普及しているスマートフォン用OSだ

なぜAndroidがそれだけ高いシェアを獲得できたのだろうか。その大きな理由の1つとして挙げられるのが、OS自体のライセンス料が無料だったことだ。例えばマイクロソフトの「Windows」などは、パソコンメーカーがマイクロソフトに1台当たりのライセンス料を支払うことで、Windowsを搭載できる権利を得ている。だがAndroidの基礎部分となるAOSP(Android Open Source Project)は提供開始当初より、現在に至るまでオープンソースで提供されており、誰でも無償で利用できるのだ。

Androidの基礎部分となる、AOSPのWebサイト。AOSP自体はオープンソースであり、無償での利用が可能だ

AOSPをスマートフォンに搭載してもメーカーはライセンス料を支払う必要がないため、Androidは多くのスマートフォンメーカーの支持を得て急成長。後に登場した「Windows 10 Mobile」や「Firefox OS」などAndroidに対抗する勢力を寄せ付けることなく、スマートフォン向けOSとして高いシェアを獲得するに至ったのである。

しかしOSの基礎部分のライセンス料が無料となると、グーグルはAndroidで収入を得られず、提供するメリットがないようにも思える。では一体、グーグルはどうやってAndroidから収入を得ているのかというと、そのヒントは「GMS」にある。

グーグルはアプリのライセンスで収入を得ている

GMSとはGoogle Mobile Servieの略で、Androidスマートフォンに搭載されているGoogle検索やGmail、Googleマップ、そしてGoogle Playストアなどのアプリ群を指す。つまり現在我々が「Android」と呼んでいるものは、実はAOSPとGMSの組み合わせによって成り立っているのだ。

グーグルが提供するアプリ群を利用する、GMSのWebサイト。我々がAndroidと呼んでいるものは、実はAOSPとGMSの組み合わせなのだ

そしてAOSPは確かにオープンソースで無料なのだが、GMSは有償で提供されている。それゆえメーカーが、グーグルのアプリが利用できる一般的なAndroidスマートフォンを提供するためには、GMSのライセンス料を支払う必要がある。故にグーグルは、アプリのライセンスで収入を得ているのである。

確かに基礎部分となるAOSPを無料にするという判断は、確かに自社のOSをより多くのメーカーに採用してもらい、いち早くエコシステムを構築する上で非常に大きな意味を持ったが、一歩間違えれば自社の収入源を断たれ、損にもなりかねない選択だ。しかしながらグーグルは自社のアプリやサービスがスマートフォンの利用に欠かせないものになり、有料でも必要と考えるメーカーが多いと判断したからこそ、こうした戦略を取ったといえるだろう。

だがもちろんそうした戦略の隙を突き、グーグルにお金を払わずAndroidを活用しようという動きはいくつか見られる。要するにAOSPだけを用い、GMSは使わず必要なアプリは自社で揃えることで、グーグルを利することなくAndroidのエコシステムだけを活用しようというデバイスが、市場にはいくつか存在しているのだ。

その代表例といえるのが、アマゾン・ドット・コムのタブレット「Kindle Fire」シリーズである。同シリーズに搭載されている「Fire OS」は、実はAOSPをベースに開発されており、Androidのアプリが動作するのだが、独自のインターフェースを採用し、なおかつアプリマーケットも独自のものを搭載するなど、GMSを使うことなく独自の環境を構築しているのである。

Kindle Fireシリーズに搭載されている「Fire OS」は、実はAOSPをベースに開発されており、Androidアプリが動作する

もう1つ、代表的な事例となるのが中国で販売されているスマートフォンだ。中国ではそもそもグーグルのサービスが利用できないため、GMSを採用するメリットがない。そこでスマートフォンメーカーは中国独自の環境に対応するため、AOSPをベースに開発した独自のOSを搭載し、中国で人気のアプリをプリインストールするなど、中国独自の環境を提供しているわけだ。

そうしたデバイスが今後、どこまで存在感を高めるかは分からないが、少なくとも現在のところ、AOSPとGMSの両方を搭載したAndroidデバイスが、世界市場を席捲しているのは事実。スマートフォンが売れればグーグルの売上が伸びるというサイクルは、今後も変わらないといえそうだ。