携帯電話のネットワークを運用・監視するオペレーション施設は、携帯各社の要と言うべき存在だ。実はそのオペレーション施設で、いま急速に進んでいるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)である。ネットワークのオペレーションをDXすることで、一体何が変わるのだろうか。

高度化が進むネットワーク運用に不可欠となったDX

全国津々浦々に張り巡らされた携帯電話のネットワーク。そのネットワークの機器の動作状況を確認し、機器が故障したり、災害が発生したりした時などにさまざまな指示や対応をするのがオペレーション施設である。オペレーション施設でネットワークを24時間、365日運用監視しているからこそ、我々が携帯電話のネットワークを毎日安心して使えているのだ。

それだけオペレーション施設はそれだけ重要な存在であることから、いくつかの携帯電話会社は非常時に備えて複数のオペレーション施設を用意している。実際NTTドコモは東京都品川区と大阪府大阪市に、KDDIも東京都多摩市と大阪府大阪市にオペレーション施設を設置。普段は東西それぞれの地域のネットワークを運用しているが、非常時で一方が使えなくなった時は、もう一方で全国のネットワークを運用できるようにしている。

  • ネットワーク運用を自動化、携帯電話のオペレーション施設で進むDXとは

    東京・品川にあるNTTドコモのオペレーション施設。多数のモニターに全国の機器の運用状況が表示され、障害の発生などを確認している

そうした携帯各社のオペレーション施設において、ここ最近急速に進んでいるのがいわゆる「DX」である。元々コンピューターを使って監視しているオペレーション施設に、なぜDXが必要なのかという疑問を抱く人もいるかもしれないが、実は携帯電話のネットワークは意外と人の手に依存している部分が多いのだ。

実際、オペレーション施設でネットワークの動作状況を監視しているのは人であるし、障害が起きた時などに実際の対処をするのも人である。ちなみにNTTドコモの場合、ネットワークが120万もの装置から構成されており、それら装置から発生するアラームは年間で300万件に及ぶという。

  • NTTドコモのネットワークは120万もの装置から成り立っており、それら装置から発生するアラームは年間で300万件に達するとのこと

もちろん各種後も、さまざまな技術を用いて障害などに対処しやすい環境を整えてきてはいる。ただ現状でもそれだけ多くの機器を運用する必要があるのに加え、5Gではより高い周波数帯を用いるためさらなる基地局数の増加が見込まれるほか、仮想化・オープン化など新しい技術の導入で機器が一層複雑化していくことが考えられる。

それゆえ人の手を主体とした運用を続けていてはいずれ限界がきてしまうことから、携帯各社は人の手によらないネットワーク施設の運用、より具体的には自動化を推し進めている訳だ。もちろん基地局が破損するなど現場での対応が必要なものは自動化が難しいだろうが、オペレーション施設の中ででできる対処はなるべく自動化していこうというのが各社の考えのようだ。

経験と勘をシステム化して障害対応を自動化

実際KDDIは、2021年に東京都多摩市に「KDDIネットワークセンター」を開設した際、ネットワーク運用の自動化システムを導入している。これは従来個々の担当者がノウハウを蓄積していた障害時の対応の仕方などを全て可視化し、自動的に対処できるようにした自社開発のシステムとなる。

ちなみにKDDIによると、個々の担当者が持つ業務は2,000に及んだそうで、その自動化のためには4万ものシステム要件を定義する必要があったとのこと。だがそうした苦労の結果、自動化システムが導入されたことで復旧作業もワンタッチでできるようになり、復旧に要する時間も40%削減できたという。

  • KDDIは個々の担当者が抱えていた“匠の技”約2000業務を聞き出して可視化、それを4万のシステム要件に定義して運用自動化システムを開発したとのこと

NTTドコモも同様に、ネットワーク拠点の監視やさまざまな措置をする業務を自動化する「ゼロタッチオペレーション」(ZTO)を推し進めており、2022年3月時点で8万を超える業務フローの自動化を実現してきたとのこと。さらに今後は、2022年度内にアクセス装置や、国際ネットワーク監視のZTOを完了させるとともに、中長期的にはAI技術の活用などで人による判断を必要とする部分も自動化、オペレーション施設の監視システムを全てZTO化したいとしている。

  • NTTドコモは2022年度中にアクセス装置などのZTOを推し進めるとともに、中長期的には人による判断もAI技術の活用で自動化していく方針を示している

また自動化に加えもう1つ、DXによる業務効率化を推し進める上で重要になっているのが監視業務のリモート化である。現在はオペレーション施設に多くのモニターやコンピューターを設置し、そこで多くの従業員が集まって監視業務をしているのだが、施設自体に多くの人が集まれない事態に陥ることは、コロナ禍で証明されてしまっている。

そうしたことから携帯各社はオペレーション施設の業務をリモートでできるようにするシステムの導入も積極的に進めているようだ。オペレーション施設での業務やそこで扱う情報はネットワークの根幹となる非常に重要なものなので、通常のリモートワーク以上に高度なセキュリティが求められるなど難しい条件もあるため現在できる業務にはまだ限りがあるようだが、それでもNTTドコモの場合、現状でも各オペレーション施設で4割程がリモートワークとなっているなど、着実に監視業務のリモート化は進みつつあるという。

  • KDDIはリモートで監視できる体制の整備も進めており、現在は一部業務にとどまるが、将来的には全面的にリモート監視できる体制を整えたいとしている

携帯電話のネットワーク運用は普段我々の目には見えてこない部分だが、非常に重要なものであることに間違いない。今後一層複雑化が進むであろうネットワークを安定的に運用していく上でもDXによる業務効率化は重要であるし、そのための取り組みにはより関心が寄せられるべきだろうと筆者は考える。