低価格サービスとして人気の「ワイモバイル」は、同じく低価格でサービスを提供するMVNOと比較されることが多いが、実はソフトバンクが、「ソフトバンク」ブランドとは別のブランドで提供する、サブブランドの1つである。なぜ大手キャリアはメインのブランドとは別に、低価格のサブブランドを用意する必要があるのだろうか。
ワイモバイルのメリットはソフトバンク直営だからこそ
大手キャリアのサービスより安価な料金で利用できる、“格安”のモバイル通信サービスが人気だ。そうした格安系サービスの中でも、最も高い人気を誇っているのがワイモバイルである。
ワイモバイルはソフトバンクのネットワークを用いた通信サービスを提供しており、大手キャリアの半額近い料金でサービスを利用できるなど料金の安さが特徴の1つとなっている。だが単に安いだけでなく、多くの格安な通信サービスと比べ、昼や通勤時間帯に通信速度が落ちにくく、しかも「iPhone SE」や「iPhone 6s」など、型落ちながらもiPhoneの新品を正規に取り扱っている。
加えて、ヤフーのプレミアム会員相当のサービスが無料で利用できるなどサービス面も充実しているし、全国に独自のショップ「ワイモバイルショップ」を構え、スマートフォンの購入や通信サービスの契約、各種サポートを店舗で受けることも可能。料金が安いながらも、大手キャリアに匹敵するサービスを提供しているのだ。
もちろん、単に料金の安さだけを比較するならば、ワイモバイルより安価なサービスは多数存在する。だがそうした多くのサービスはインターネット上での販売やサポートが中心で、サービスの充実度が低い。ワイモバイルは大手キャリアと、より格安なサービスとの中間というべきポジションを得て、人気を獲得しているのだ。
なぜ、ワイモバイルが低価格ながらも充実したサービスを提供できるのか。その理由は、一言で説明するならば、ワイモバイルがソフトバンクの一部だからである。低価格なモバイル通信サービスを提供する会社の多くは、大手キャリアからネットワークを借りてサービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)だが、ワイモバイルはあくまでソフトバンクの一部であり、ソフトバンクが「ソフトバンク」ブランドとは別に展開する、俗に“サブブランド”と呼ばれる存在なのだ。
サブブランドであるワイモバイルは、ソフトバンクの充実したネットワークや、豊富な資金、アップルやグーグル、ヤフーといった国内外のIT大手企業とのコネクションなどを存分に活用できる。それがMVNOよりも優位性のあるサービスを提供できる大きな要因となっているわけだ。
実は世界的に見られるサブブランド
ワイモバイルと同様に、大手キャリアの実質的なサブブランドと言われているのがUQコミュニケーションズである。同社はKDDIの傘下企業で、「WiMAX 2+」方式を用いた広帯域移動無線アクセスシステムのインフラを自社で敷設し、「UQ WiMAX」としてWi-Fiルーターを主体にサービスを提供している企業だ。
だが同社は2015年にKDDIの傘下企業と合併し、KDDI(au)のMVNOとして低価格の通信サービス「UQ mobile」にも力を入れるようになった。そしてこのUQ mobileが、2016年頃からテレビCMを連日放映して急速に知名度を高めるとともに、独自ショップ「UQスポット」の拡大を急速に進めたり、iPhoneの新品を正規に取り扱ったりするなど、ワイモバイルに匹敵する、他のMVNOには真似ができないサービスを提供して契約獲得を急拡大しているのだ。
そうしたことからUQ mobileは、最近では実質的なKDDIのサブブランドとして認識されるようになってきた。ただしワイモバイルとは異なり、UQ mobileを展開しているのはあくまでKDDIのMVNOという立ち位置であることに変わりはない。そうしたことから、同じくKDDIのMVNOとしてサービスを提供している他のMVNOからは、UQ mobileの優遇ぶりを批判する声も上がっているようだ。
実は大手キャリアが、メインブランドとは別にサブブランドやMVNOなどを展開するケースは、世界的にも見られるものだ。例えば米国では、AT&Tは「クリケット・ワイヤレス」、ソフトバンクグループ傘下のスプリントは「ヴァージン・モバイル」や「ブースト・モバイル」といったように、プリペイド方式の低価格な通信サービスを、別ブランドや傘下企業で展開するケースいくつか見られる。
しかしなぜ、大手キャリアは1つのブランドの中で低価格のサービスを提供するのではなく、低価格のサービスを別のブランドに分けて提供する必要があるのだろうか。その理由は、メインブランドの価値と収益を守りつつ、ユーザー獲得の幅を広げるためである。
仮にもし、ソフトバンクが同じブランドの中でワイモバイルと同じ料金のサービスを展開したら、ユーザーの多くが安いサービスを選択するようになり、収益を大きく落としてしまいかねないだろう。そうした事態を引き起こすことなく、MVNOに対抗して低価格を求めるユーザーも獲得するには、低価格のサブブランドが必要なわけだ。
もっとも、全てのキャリアがサブブランド展開に前向きというわけではない。実際NTTドコモは、国内のMVNOの大半にネットワークを貸し出して収入を得ていることもあり、MVNOの対抗となるサブブランド展開をする考えはないとしている。サブブランド展開の有無には、低価格サービスを巡る大手キャリアのポジションが大きく影響していることが、理解できるのではないだろうか。