私の夫は突然「明日飲み会になった」と言うタイプである。
夫のために前日から備えていることなど何もなく、当日の夕飯を作る前であればいつ突然飲み会になっても構わないのだが、頻繁に会社の飲み会があるのは若手にとっては嫌なことだろう。
ただ、その場に若手がいるとは誰も言っていない、現在の田舎の会社は吉本興業と同じ構造をしており、40代後半の夫がその場の最若手という可能性は十分にある。
実際夫の口からは「年上の後輩」という、ときめきがないという意味で「年下の彼氏」の対義語みたいな言葉が頻出している。
だが、調査によると、今の若者は比較的飲み会に好意的で、むしろ中高年の方が否定的らしい。
一体何者によるどこでの調査なのか。
どうせ「飲み会を好きと言わないと出られない部屋」とか、日本が性交しないと出られない部屋で培ってきたテクノロジーを流用した部屋に若人を監禁しただけだろう、 と中高年は疑っているが、飲み会の雰囲気も変容しており、昔ほど若者にとって嫌なものではなくなっているのかもしれない。
むしろ、若者のころ飲み会で嫌な思いをした世代が、今中高年となり、若者に嫌な思いをさせてはならぬという緊迫感の中、手酌した鏡月をカブトムシみたいに舐めているのであれば中高年の方が飲み会に消極的なのはわかる。
しかし、空気の刷新というのは全国一律で一気に行われるわけではない、未だにFAXが実用されている職場があるように、コンプライアンス意識が遅れている会社もまだ多いだろう。
私が前にいた会社も、お茶くみは完全に女の仕事で、男子便所すら女性社員が毎日掃除をさせられていた。これがいつの昭和の話かというと、平成末期ぐらいの話なのだ、若手社員が行きたがらない古き悪き飲み会もまだ残っているはずである。
だが、どれだけ飲み会の雰囲気が浄化され、肯定的な人間が増えたとしても「幹事」となれば、話は別だろう。
幹事とは、飲み会を取りまとめ、取り仕切る存在である、人数確認から店の予約、さらに会計業務まで行わなければならない。
今は予約アプリなどがあるためまだマシかもしれないが、昔は参加人数に変動が起こる度に店に電話を入れたり、現地でも本来なら入らない場所に他とは違う色の椅子をねじ込む調整に追われたりと、とにかく過酷な立場なのだ。
そして過酷な業務にも関わらず「幹事手当」がつくことはほぼない。
「いい経験」という「夢」を抑えてやりがい搾取で出てきそうな言葉ナンバーワンぐらいしか得る物がなく、飲み会に肯定的な人間でも、自分が幹事になってまでやりたいかと言われればノーだろう。
そんな「幹事」に対する認識を完全に見誤った広告が炎上した。
「忘年会の幹事はズルい」広告が全然ウケずに炎上
「忘年会、幹事だけポイント貯まるのずるくない!?」
これがその広告に記載されていたキャッチコピーである。
会費制の飲み会の場合、幹事が会費を徴収し、それをまとめて一括支払いする、よってポイントを取得するのは幹事のみであり、飲み会の規模が大きいほど総取りできるポイントは大きくなる。
だがこれに対し、忘年会を前にした現幹事、そして幹事OBが「ズルいと思うなら今すぐ代わってやる」「じゃあ何すか、個別会計でレジ前に壁作れば満足すか」と激怒、幹事業務の大変さを何もわかっていない幹事エアプ広告として炎上、すぐに撤去されることとなった。
確かに「いい経験」に比べれば「ポイント」は欲しい、だが幹事業務が数千ポイントで相殺できるかというと微妙であり、それを「ズルい」とまで言われたらやってられないに決まっている。
だが「ポイント総取り」に対し、世間も思うところが全くないわけではなく、幹事でもないのに会計になって突然「ここは一旦私がクレカで全て払わせていただきますが、かまいませんね!」と名乗りを上げだす、ポイントシーフ目撃談情報も相次いだ。
だが、少なくとも幹事がポイントを貰うことに関しては「そのぐらいくれてやれよ」という意見が多数だったようである。
ただ、飲み会の雰囲気が一律ではないのと同じで「幹事の過酷度」も同じでない、楽な幹事も存在するかもしれないし、逆に100万ポイント以下ではやりたくない幹事も存在するだろう。
個人的には「文化」が強い会社の幹事は大変そうだと思う。
先日、凍狂で出版社の担当と打ち合わせをしたところ、大荷物で現れ「社員旅行の熱海から直行で来た」と、強いことを言っていた。
都会の大企業がまだ社員旅行をやっていることに驚きだが、その社員旅行では文化として、皆が自分のおすすめの本を持ち寄り「プレゼント交換会」が催されるという。
新入社員に芸をさせたり女性社員にコンパニオンをやらせたりするのはパワハラやセクハラに当たるかもしれないが「みんなでプレゼント交換会」は「面倒だからやめよう」以外の異議が唱えづらく、やめさせるのも難しい。
その社員旅行では他にも数々の「強い」としか言いようがない文化が行われるようであり、その文化が滞りなく進むよう取り仕切る役は、カードが一瞬で黒くなるレベルでなければやりたくない。
だが担当は「これからまた別の打ち合わせだ」と言って荷物を抱えたまま去って行った。
職場も飲み会も昔に比べると優しくなっているはずだ。
しかし未だに、強い文化と、そこを生き抜ける強い奴でのみ構成されている企業も少なからず存在するようである。
