「来世に期待!」

これは今世を諦めた俺たちの口癖だが、うっかりサディズムが強い人の前でこれを言うと純粋な疑問として「なんで来世の方が今よりマシだと思っちゃってんの?」と言われてしまう。

本物というのは常に無垢なのだ。

確かにこれだけ生物がいるのだから、今よりいい人生どころか人間になれるかどうかさえ疑問である。

もし今世で積んだ徳により来世が決まるとしたら、私は「ワキガのワキ毛」あたりが妥当だろう。それも、やっと抜け落ちられたと思ったら、また同じワキから生えてくるというループものになるに決まっている。

手塚治虫御大が存命なら「火の鳥〜ワキ毛編〜」として世に出されていただろう、壮大な輪廻転生と因果応報の物語だ。

つまり、来世に期待できない奴ほど来世に期待しているという状態だ。

今世はダメ、かと言って来世にも期待できないなら、もはや今世の間に新しい人生を始めるしかない。

方法としては「トラックに轢かれる」のが世界的に最も有名で、これで次目を覚ました時には異世界に転生しているはずである。ただこの方法には「成功率が極めて低い」という欠点がある。

ここ近年、異世界転生者が激増したため、一見するとトラックに轢かれれば百発百中悪役令嬢に転生できるように見えるが、あれは運よく転生できたものだけが物語になっているだけであり、悪役令嬢1人につき1万人ぐらい「トラックに轢かれて死んだ」で終わった物語があるのだ。

転生できるのは結局選ばれし者たちだけなので、やはりワキ毛勢には難しい。

業界大注目の「メタバース」とは

しかし、テクノロジーの進化により、今世の間に異世界で暮らすことも夢ではなくなっている。

「メタバース」という言葉をご存知だろうか。まず「オメガバース」に字面が似ていることで界隈がざわついていると思うが、残念ながら無関係だし、オメガバースについてここで説明することもできないので、あとのことはピクシブ百科事典に任せた。

メタバースとは「利用者の分身(アバター)が集まる三次元仮想空間」のことである。

メタバースへの参加方法は、「トラックとの相撲や何らかの薬の大量摂取、あとは運」ではなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)ゴーグルを使用すれば来世ワキ毛勢でも参加することができる。

VRといえば結局AV業界でしか流行ってないイメージだったが、そんなこともなく現在もVRそしてメタバースには高い関心が寄せられており、アメリカの家電IT見本市「CES」でメタバースに関する新商品が発表されたという。

3Dプリンターという例もあるので必ずしも業界がプッシュしている商品がメジャーになるとは限らないのだが、チャットやネトゲーなど現実以外の世界で無双できるツールにはには軒並み廃になって見せてきた我々である。

メタバースが一般化すれば、来世に期待勢を中心にハマるものが続出、社会問題になり、小中学校で禁止になる、というお馴染みの一連の動作ぐらいは起こりそうな気がする。

メタバースは陰キャにとって福音か否か

  • 来世まで待たなくても「無双」の機会が狙えそうな、そうでもないような…

    来世まで待たなくても「無双」の機会が狙えそうな、そうでもないような…

ただメタバースの目指すところは、非現実の世界ではなく「もう一つの現実」であり、メタバース内でリアルな買い物やビジネス、学習などを可能にすることが目標らしい。

確かに、メタバース内に学校を作り、生徒のアバターたちが登校し授業を受けることもできるし、メタバース内で運動会や修学旅行をするのも可能かもしれない。

リモートの普及により、家にいながら授業を受けることは現在でも不可能ではないが、「家にいながら学校生活」は無理である。

しかしメタバースが実現すれば、さまざまな事情で登校ができない人や、私のように宗教上の理由で外に出たくない人間でも、学校生活を送れるようになるかもしれないのだ。

だが、メタバースがあまりにも現実的過ぎると、結局現実と同じ格差ができてしまい、俺たちは「惨めさ二倍さらにドン」になってしまい、結局モンスターを狩ったり銃で撃ち合ったりするタイプの仮想現実に行ってしまいそうな気もする。

しかし、クラスの陰キャがピクシブでは神、ということもある。現実ではスクールカースト最底辺の人間が、メタバースの世界ではカリスマと呼ばれるかもしれないのだ。

現在YouTubeでの成功者は、現実世界でも成功者と言ってもいい。同様にメタバース内での成功は現実での成功と同じになるのではないかと思う、つまり成功のチャンスが増えるということだ。

逆にいえば来世に期待勢も、まだ自分が成功できる世界を見つけてないだけ、なのかもしれない。

もはや自分が輝けない世界で努力するより、自分が輝ける世界を見つけ出す努力をした方が早い時代である、俺たちの異世界転生はまだ始まったばかりだ。