このコラムは一応「世の中で起こったホットな出来事をノンジャンルでKILL」という体で更新している。

しかし正直なところ、主にネット、さらに言えばツイッター上でだけ盛り上がったことをとりあげていることも多く、それを「世の中」と呼んでいるのが一番ホットな事件だ。

そして、ノンジャンルなのは確かだが、9割は炎上などネガティブニュースばかり取り上げているような気がする。

東で企業アカが燃えたと聞けば走って行って「認識が甘いのではないか」と言い、西でオタクが学級会をしていると聞けば己のお気持ちを長文表明。

そういう人にお前はなるな、ということを伝えたくてやっているとしか思えない。

だが、その方が人々の関心を引くのだから仕方がない。私だって「警察24時」を楽しみにしている人間より、「はじめてのおつかい」を毎回録画している人間の方に狂気を感じる。

だが、今回は珍しく「いのちの輝き氏」以来と言っていい、ネガティブな意味ではなく世の中(主にツイッター)を賑わせた話題を取り上げたいと思う。

その前に、みんな「いのちの輝き氏」のことを覚えているだろうか。忘れているとしたら、今回の件も半年後にはすっかりみんな忘れていると思った方がいいかもしれない。

(一部の)大人が熱中している「PUI PUI モルカー」とは

「PUI PUI モルカー」

これが今、世間という名のツイッターを騒がせている。

「PUI PUIモルカー」は、2021年1月5日より児童向け番組「きんだーてれび」で始まったパペットアニメのことである。

自動車の代わりにモルモットの車「モルカー」が人間の自家用車になっているという設定で、その「モルカー」がカワイイと開始直後からツイッターで話題になっている。

「ツイッターで話題」という時点でお察しと思うが、児童向け番組でありながら「モルカー」に激烈な反応をみせているのは主に大人である。

実際、担当の息子(1歳)にモルカーを見せたところ「悪くはないが、我々幼児が夢中になるほどのものではない」という反応だったらしい。

しかし、子ども向け番組と言えど、幼児に何を見せるかは大人に選別権があり、さらに言えば幼児のおもちゃ代を払うのも大人である。どれだけ子どもウケが良くても、大人に「子どもに見せたくない」、「こいつには1円も払いたくない」と思われたら終わりである。

子どもウケも大事だが、同時に大人ウケも考えないといけないのが、児童向け番組の辛いところだ。

そういった意味では、モルカーは親世代のウケが上々のように見えるが、一説によるとモルカーは同じ親でもインスタをやっているようなタイプにはそんなに刺ささらず、逆にツイッターをやっているがそれはママ友に教えず、ダミーのフェイスブックを教えているようなタイプにはブッ刺さっているらしい。

要約すると「陰キャウケしている」とも言えるが、コンテンツをすぐ「俺たちのもの」にしたがるのが、陰キャの「陰」たる所以である。誰が何を楽しんでも良いのだ。

モルカーは車でありながら生き物であり、個体ごとに個性がある。ちなみにタイトル通り「PU IPUI」というモルカーが発する音は、実際のモルモットの鳴き声を使用しているそうだ。そんなモルカーたちが、さまざまな騒動に巻き込まれながら、それを解決していくといった内容になっている。

モルカーを困らせる人間に憤る人間たち

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そして、モルカーのかわいらしさと同じぐらい話題になっているのが、「人間は愚か」ということだ。

カジュアルに銀行強盗が現れたり、炎天下の車の中におキャット様を放置して食事するなど、意味がわからない上に万死に値する行為をするドライバーがいたりと、愚かな人間の所業にモルカーが巻き込まれる展開が多い。

それでも「人間は愚か」という思考停止な感想は言いたくない、と土俵際で粘っていた人間もいた。しかし、4話に「ゴミをノリノリでポイ捨てしてモルカーに食わせる人間」が現れた瞬間、擁護派も人間の抹殺を決意していた。このポイ捨て野郎を演じていたのは監督自身らしいと話題になっていたが、実は少し面差しの似ている大学時代の同期だったようだ。人間の愚かさを描くのに身内をキャスティングするとは、相当な覚悟があると見える。

このように、モルカーは「人間はクソ」という、ある意味生きて行く上で最も重要な基本知識だけは毎回脳髄に叩きこんでくるので、我が子を強く育てたいという親御さんは見せた方が良いと思う。

「車のトラブルも可愛いモルカーだったら許せちゃう」というコンセプトもあるそうだが、内容を見ると、自動車だろうがモルモットだろうが、問題は常にそれを扱う人間側にあるということを表現したいのかもしれない。

……などと娯楽作品に深い意味を見いだそうとするのは、ただのオタクの悪癖でしかないので、メッセージ性とか考えずに、ただモルカーのかわいらしさを堪能しても何ら問題はない。実際、直近の5話に人間の出番はほぼなく、モルカーのかわいさを楽しめる。

現実のモルモットには臆病な性質があるらしく、作中でも、モルカーが怯えたり泣いたりする描写が多い。カワイイキャラクターやアニメが数多くある中で、モルカーだけが異常に刺さった人は、もしかしたら、泣いたり怯えたりするモルカーをかわいそうと思いながらも、そこが一番ブッ刺さっているのかもしれない。

だとしたら自分も、はじめてのおつかい毎回録画ニキやネキのことをとやかく言えないような気がする。