影の処理はどうするか
NVIDIAの実装では、デモ自体が限定的なシーンということもあり、影の生成はごく普通のデプスシャドウ技法を採用しているという。そのため、鼻の影が頬に落ちたり、額の出っ張りの影が目のくぼみに落ちたりと言ったセルフシャドウ付きの影表現が実践されている。
この影については、ここまで取り扱ってきた皮下散乱再現とどう組み合わせればいいのか。
実は、これは皮下散乱ブラーの元となるテクスチャレンダリング時に、一緒にこのリアルタイムセルフシャドウを生成してしまっているという。影のエッジは皮下散乱ブラー処理でぼやけるが、これは丁度、影のエッジ付近にも、光が当たっている部分からの皮下散乱した出射光が出ていることの再現になっているのため問題はないし、それどころか物理的にも意味があるのだという。
実際の最先端3Dゲームにおける顔面や人肌の表現はどのレベルなのか?
NVIDIAの「Adrianne」デモや顔面デモはかなりゴージャスな実装となっており、このままゲームに持って行くのは描画負荷的に厳しいだろう。
現行のGPUをターゲットにして3Dゲームに実装するには、皮下散乱ブラーをNVIDIA実装では6回やっているのを半分にしたり、NVIDIA実装ではテクスチャ処理を皮下散乱ブラーの前後に行っているのをどちらか一回にしたり、または大局的な皮下散乱は無視する……などの様々な手抜きをしていく必要があることだろう。
実際に発売がなされたゲームタイトルや、実用化されているゲームエンジンでは独CRYTEKが開発した「CRYSIS」(2007年)が、かなり先進的なスキンシェーダを実用化していることで注目を集めた。CRYETKはNVIDIAとの結びつきも強いのでNVIDIAの今回の方法に近いアプローチも応用されていると見られる。
また、顔面の場合は、肌の質感の表現だけでなく、表情表現のリアリティ向上も重大なテーマとなってきている。
この分野については、人間の表情を実際に取り込んで3Dモデルに適用する顔モーションをキャプチャーして利用するものと、解剖学や精神医学の理論をベースに表情を人工的に合成して3Dモデルに適用する2つのアプローチがある。リアリティ面では前者が優位で、後者はアニメーション開発コストの節約に優位……というのが現在の認識だが、後者の進化は著しく、リアリティの面でモーションキャプチャー式に肉迫するところまで来ている。
AVID社から登場した人工表情合成の開発ソフトウェア「FACE ROBOT」は、その最先端実例で、実際のゲームや映像製作現場で積極利用がなされ始めている。
近年のゲームで、後者の人工合成表情方式をこだわって採用しているのは、VALVE SOFTWAREのハーフライフ2シリーズだ。同作ではキャラクターの表情制御に、カリフォルニア医大の精神医学教授であり、心理学の分野でも著名なPaul Ekman博士の理論を実装しており、パラメータの組み合わせとそのパラメータの推移だけで、リアルな表情変化や感情表現を実現できている。
(トライゼット西川善司)