近年、「エッジコンピューティング」と呼ばれる、新たな情報処理の形が注目を集めています。「エッジコンピューティング」とは、あらゆるモノがインターネットにつながり、大量のデータを活用可能にするIoT(Internet of Thing)が現実となる中、「クラウド」での集中処理に加えて、つながるモノの近く(エッジ)でも分散的に情報処理することです。これによって、より迅速・効率的な情報処理を実現できることから、期待が大きく高まっています。

この「エッジコンピューティング」の実現には、次の3要素が必要です。

(1)データの加工・分析等を担当する、エッジコンピューティング用のアプリケーション
(2)(1)を稼働させる、エッジコンピューティング用のハードウェア(エッジ向けの小さなデバイスや、通常のサーバなど)
(3)多数の拠点に分散して整備することになる(1)と(2)を効率的に統合管理する、エッジコンピューティング用の管理プラットフォーム

本連載では、(3)のエッジコンピューティング用の管理プラットフォーム(エッジプラットフォーム)の技術内容や具体的な製品を主に紹介しつつ、「エッジコンピューティング」自体の登場背景やユースケースを併せて解説していきます。

第1回となる今回は、「エッジコンピューティング」の登場背景とそのメリットを解説します。

「エッジコンピューティング」が登場した背景

2000年代初頭に、データセンターにサーバ、ネットワーク、ストレージを集中的に配置して、効率的に管理・運用し、ネットワーク経由でこれらのリソースを利用する「クラウドコンピューティング」の考え方が出てきました。

クラウドは、インターネット上に配置されたパブリッククラウドから始まり、続いて企業内のデータセンターに置かれた設備をプライベートクラウドとしてアップグレードする動きも出てきました。

その後、さまざまなクラウドが出てきましたが、現在ではパブリッククラウドであればAmazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、プライベートクラウドではVMware、OpenStackなどが主に利用されています。

一時期はパブリッククラウドとプライベートクラウドは対立する構図で描かれた時期もありましたが、今ではパブリッククラウドとプライベートクラウドをアプリケーションの特性に合わせて使い分ける「ハイブリッドクラウド」の形態が一般的になっています。

さらに、1つのパブリック/プライベートクラウドを選定して使う方法から、複数のパブリック/プライベートクラウドを状況に応じて使い分ける「マルチクラウド」へと進化しています。

ここで、クラウドに集約出来ない各種デバイス及びそこでの情報処理は残ったままでしたが、これらをクラウドのように効率的に運用・管理する「エッジコンピューティング」の考え方が出てきました。今後はマルチクラウドに加えてエッジを取り扱う、「マルチクラウド+エッジ」の時代になると考えられています。

エッジの定義

エッジはクラウド以外の部分を指しますが、その範囲は広く、センサーなどのデバイスの一番近くに置かれる1台の小さなデバイスを指す場合や、各拠点内に数台のサーバを用意してエッジとする場合もあります。

また、通信キャリアでは、携帯網や固定網回線の中でユーザに一番近い場所で処理を行うサーバ群をエッジと捉えて、MEC(Multi-access Edge Computing)と呼ぶ場合もあります。

「エッジコンピューティング」を採用する理由

マルチクラウド時代に、エッジにアプリケーションを配置する主な理由は以下の3点です。

(1)低遅延や高信頼性

1つ目の理由は、アプリケーションに必要な要素として、少ない遅延や高い信頼性が挙げられる場合です。少ない遅延とは、データを元に数ミリ秒での判断を必要とするアプリケーションです。

例えば工場の中で工作機械やロボットの制御や警告等を行っているアプリケーションや、車の制御を行っているようなアプリケーションです。これは少しの遅延でも重大な問題が生じるため、エッジでの処理が必要となります。

(2)処理の全体最適

2つ目は、システム全体を見渡した場合に、エッジ側である程度の処理をしておいた方が効率的な場合です。

例えば、データをクラウドに上げる場合も、各デバイスの近くでデータをサマライズしたり圧縮したりするほうが、回線コストなどを削減できる場合があります。また、比較的に重い処理を実施するAIなどのアプリケーションでは、一部をエッジ側で処理する方が良い場合もあります。例えば、監視カメラで人を判別する時に、顔画像だけをエッジ上で全体画像から切り抜いてセンター側に送って個人を特定すれば、システム全体で効率的に人を判別できます。

(3)セキュリティ

3つ目は、セキュリティ上の理由でクラウド等にデータを出せない場合です。

例えば、顔などの個人情報に関わる画像データをエッジ側で匿名化したり、画像では無く処理後の統計データのみクラウドに上げたりすることが考えられます。また、工場の生産に関わる機密データなどをエッジ側で処理して判断に使うことも考えられます。

今回は、「エッジコンピューティング」の登場背景とそのメリットについて解説しました。次回は「エッジコンピューティング」関連の製品カテゴリーと、エッジプラットフォームについて紹介します。

著者プロフィール

荒牧 大樹


ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部 第1応用技術部 シニアエキスパート


2009年にネットワンシステムズ入社。ビデオ会議・IP電話等などのCollaboration事業、OpenStackなどのプラットフォーム事業、データ分析・機械学習などのAI事業を担当。2019年からはエッジコンピューティングに関する事業を担当。