気になるデジタル家電をユーザー目線でレビューする「デジものラボラトリー」。第2回は、ヤマハのミュージックプレーヤー「BODiBEAT(ボディビート)」をお送りする。一口にミュージックプレーヤーといっても、アップルのiPod(アイポッド)やソニーのウォークマンらが鎬を削る中、音楽産業の老舗たるヤマハが今更「ただの」プレーヤーを出すわけもなく、「BODiBEAT」は「インタラクティブミュージックプレーヤー」を冠している。その最大の特徴は、ユーザーの脈拍や運動ペースを感知して、そのテンポにあった楽曲をセレクトしてくれるという、まさに「インタラクティブ」なプレーヤーなのである。

4つの操作ボタンと有機ELディスプレイ、3色に変化するLEDを備える「BODiBEAT」の特徴的な外見

心地よいテンポの楽曲を聴きながらウォーキングやジョギングをする、というコンセプトは、iPodを使った「Nike+iPod(ナイキプラスアイポッド)」やauケータイの「Run&Walk BEATRUN(ランアンドウォーク ビートラン)」など、同時期に同様のサービスが出現している。しかし、両者が加速度センサーを使ってユーザーの運動ペースを検出しているのに対しBODiBEATは本体の加速度センサーに加えて耳に装着する脈拍センサーを駆使することで、より精密な運動ペースの検出を可能にする。そうして取り出した運動ペースを分析し、ユーザーが本体に転送した楽曲のほか、内蔵されている数千種類の音素材から10万通り以上の曲を作り出す「BODiBEAT Mixer(ミキサー)」機能で最適の選曲を実現するという。

さて、そんな音楽と身体リズムのシンクロナイズを体験するために、まずはBODiBEAT本体を装着する。二の腕にバンドを回してマジックテープで固定する、というオーソドックスな装着方法には抵抗感はなく、BODiBEAT本体の重さを感じることもほとんどない。また、音楽を聴くためのイヤフォンから1本だけケーブルを分岐させ、脈拍センサーを耳に装着するスタイルは、非常にスマートで好感が持てる。胸部にトランスミッターを装着する心拍計や指先で測定するタイプの脈拍計に比べると、遥かに手軽でストレスなく、正確な体内リズムを計ることができそうだ。実際、装着したままウォーキングをしてみても、脈拍センサーを意識する事はほとんどなかった。

耳かけ式のイヤフォンと脈拍センサーを耳に装着する。2つのスライダーを締めることによって、しっかりと固定される

最初のウォーキングは、敢えて本体内蔵メモリーには楽曲を入れずに、BODiBEAT Mixerのお手並みを拝見することにした。なお、BODiBEATには、「フリーワークアウト」、「フィットネス」、「トレーニング」、「ミュージック」の4つのモードがあり、BODiBEAT Mixerはミュージック以外のモードで使用可能となる。リアルタイムに生成される楽曲は音色やリズムを重視した曲が多く、変に歌詞を意識しない分、身体を動かしながら聴くシチュエーションに相応しいように思えた。メロディーラインの表現力なども想像していた以上に豊かで、DTM分野で実績のあるヤマハらしい完成度といえそうだ。なお、BODiBEAT Mixerが生成する楽曲の一端は、ヤマハのBODiBEAT製品ページのBGMとして耳にすることができる。

人差し指と親指で操作するつまみボタンは、運動中でも操作しやすい。

運動の強さによってLEDの色が青→緑→赤と変化する

次に本体内蔵メモリーに楽曲データを転送した上で、再びフリーワークアウトに挑戦した。データの転送には専用ソフトの「BODiBEAT Station」を使用する。対応オーディオファイル形式は、MP3、WMA、AAC、WAVで、DRMには対応しない。楽曲データをBODiBEAT Stationのライブラリに登録することで、楽曲のテンポ(bpm)が解析され、BODiBEAT本体に転送できる状態となる。転送の際はPCとBODiBEAT本体をUSBケーブルで接続するが、このとき同時にBODiBEAT本体の充電もできる。オプションのUSB電源アダプター「PA-U010」を使えば、PCを介さずにUSB充電することも可能だ。また、解析されたテンポが誤っていると感じた時には、手動でテンポを検出することもできる。The Beatlesの楽曲を264曲ほど転送してみたところ、元祖ヘヴィメタルともいわれる「Helter Skelter」が112bpmだったり(手動で検出すると168bpm)、何曲か半分のテンポで解析されていたりしたが、概ね正確に解析されていたようだ。

解析された楽曲はテンポによってウォーク用、ジョグ用に分類され、それぞれのシーンに合わせて使用される。実際にThe Beatlesの楽曲とともにウォーキングをしてみたが、下手に思い入れのある曲がかかると、運動ペースや脈拍の変化で勝手に曲を変えられてしまうのが口惜しくなってしまう。純粋にウォーキングをするなら、BODiBEAT Mixerの方が目的に叶っているように感じた。また、同じ人間が装着して運動する限り、いつもだいたい同じような運動ペース、脈拍になってしまう。本体内蔵メモリーの512MB程度では、運動するたびに毎回同じような選曲になりがちなので、気分を変えたいときには「音楽優先度」の設定を「BODiBEATソング」優先の設定にするのがおすすめだ。

解析されたThe Beatlesの楽曲のテンポ分布。100~150bpmに集中している

テンポが115~145bpmの楽曲が「ウォーク」に分類される

楽曲以外の使い勝手はどうだろうか。まず、外見的にも特徴的な、つまみボタンの操作感は良好だ。ただし、決定ボタンが無く、上下同時つまみで決定、という操作は、敷居が高いようにも感じた。またディスプレイの1.0型有機ELは太陽光下でも視認性が高く、表示される情報量もよく吟味されている。今回はウォーキングメインで使用したので、信号待ちなどで運動ペースが変化したときに鳴らされる「テンポガイド」が耳障りで、すぐに「オフ」にしてしまったが、LSD(Long Slow Distance)のときなどにはテンポガイドと最適な脈拍で緑に光るLEDを頼りに運動すればベストな結果を残せそうだ。

カロリーや運動中のペース変化のグラフ表示は有機ELディスプレイで確認できるほか、BODiBEAT Stationでより詳しく見ることができる

リアルタイムに脈拍や心拍数を計測してくれる機器も安くなってきたとはいえ、未だに7,000円以上もする。BODiBEATには、ミュージックプレーヤーと脈拍計が一体化した上に、胸にベルトなどを巻く必要もなく、運動ペースと楽曲をシンクロナイズさせて自動的に選曲してくれる唯一の機器という価値もある。歩幅の設定やセンサーの感度など、最初に調整すべき項目は多いが、自分好みにチューニングができれば、心強いパートナーとなってくれるだろう。