東芝ライフスタイルが今秋発売した、掃除機の新製品「VC-NXシリーズ」。キャニスタータイプの掃除機でありながら、駆動時間と吸引力の課題を克服したコードレス化を実現した製品だ。後編となる今回は、新製品における本体以外の部分についての開発裏話を、デザインを担当した、東芝 デザインセンター デザイン第二部 家庭電器システム担当参事の山内敏行氏に語っていただいた。

  • 「VC-NXシリーズ」

    東芝ライフスタイルから今秋発売された「VC-NXシリーズ」。スタンダードモデルの「VC-NX1」は"ブラストシルバー"と"サテンゴールド"、プレミアムモデルの「VC-NXS1」は"グランレッド"と"グランブロンズ"のそれぞれ2色をラインナップする

ユーザーの不満点を解消する、使い勝手に優れたコードレス式のキャニスター掃除機を生みだすために、新型モーターとバッテリーの開発に始まり、本体の内部構造や設計に至るまですべて一から見直しが図られた同製品。だが、ヘッドと延長管部分も担当者たちを悩ませたパーツだったという。中でも延長管が収縮する構造が廃止されているのが特に目を惹く。山内氏はその理由を次のように語る。

「延長管が伸縮する構造にすると、使用するパーツが増えることになり、必然的に重くなってしまいます。しかし、今回は手元の軽さにこだわった製品でもあるため、長さが変えられる要素は思い切ってなくすことにしました。延長管の伸縮はキャニスター掃除機では当たり前の構造ですが、そもそもスティッククリーナーでは採用されていないので、そこは割り切ってもいいだろうと判断しました」

軽さにこだわって開発されたという延長管やブラシヘッドは、もちろん素材選びにも及ぶ。山内氏によると、基本的な構造設計は従来とは変わらないものの、素材はグラスファイバーと呼ばれる軽量性と堅牢性を兼ね備えたものが選ばれ、できる限り軽くするために、通常は2~2.5ミリ程度だという厚みを、最大で1.3ミリまで薄くしたという。

「今回、モーターが新規開発されたものなので、従来のキャニスター掃除機とは切り分け、ゼロからひとつひとつ最適化をする必要がありました。ホース部分や延長管はモーターのパワーとの相性も重要なので、より圧損が少なくて一番効率的な太さというのを検討しました」とのことだ。

  • 操作感の評価
  • 操作感の評価
  • 操作感の評価
  • 開発初期段階では、スケッチやレンダリングだけでなく、使用時の操作感についてもデザイナー自らによる試作評価が行われたとのこと

バッテリータイプのキャニスター掃除機であることから、充電台の開発も必須だ。ダブルフェイススタイルと呼ばれる特異な機構を採用しているため、ここでも試行錯誤が続いたという。使い勝手のいい充電台を追求するために、次のような点が検討されたそうだ。

「充電台や充電ダストステーションは極力小さくしたいと思っていましたが、まずはどこに設置すべきかという点から議論しました。次に、本体をひっくり返して操作できるという特長をダストステーションにも活かせないだろうかということで考えられたのが、掃除機を掛けるという行為をする上で、自然な動作の流れでそのまま引っ張るだけでスムーズにダストステーションから引き出すことができるという仕組みでした。しかし、いざやってみると、バネの強さなど作ってみないとわからないということだらけで、ここでも何度も試作機を作ってはチェックしての繰り返しでした」

  • スタンダードモデル「VC-NX1」の充電台設置イメージ

    スタンダードモデル「VC-NX1」の充電台設置イメージ。壁際に置いてもスッキリ収まるスタイルが検討された

  • プレミアムモデルの「VC-NXS1」では"ダストステーション"と呼ばれる本体内のゴミを充電台に移動させる機構も備えている

    プレミアムモデルの「VC-NXS1」では"ダストステーション"と呼ばれる本体内のゴミを充電台に移動させる機構も備えている。本体をそのまま引っ張るだけで転がるようにスムーズに引き出せる仕組みも採用されている

外観上のデザインでは、特に本体のハンドル部分に強いこだわりがあるという。そう言われてこの部分をよくみると、タイヤから一直線になだらかにつながっているかのような自然なデザインになっていることに気付く。しかし、この見た目の美しさと機能性を両立させるのも一筋縄ではいかなかったそうだ。

「外観上の美しさを保つために、ちょうどタイヤからつながっているようなデザインになっているのですが、この部分の太さを調節するのが大変でした。ハンドルとしての強度や持った際の重心バランスや持ちやすさを考えるとあまり細くすることもできません。太過ぎてしまうとハンドル自体が持ちにくくなってしまいますし、調整が難しかったです。それから本体を床に置いた状態で使用する際にハンドルが飛び出ないようにするためにもかなり試行錯誤しました」

山内氏は、他にも"メカメカしさを感じさせない"ことが外観上のデザインのこだわりだと話す。そのため、タイヤ自体のデザインがスッキリしていることが強く意識されたとのことだが、本製品にはもう1つの大きな課題を抱えていた。

「排気の部分ですね。この部分は通常の掃除機ならば、後方の部分に設ければいいだけですが、"ダブルフェイススタイル"の本製品は前後がない構造。かと言って、排気口を下に設けてしまうと、床面に風を吹きつけてしまってゴミを舞い上がらせてしまうことになります。そこでシロッコファンの逆バージョンのような形にして側面に排気口を設けることになったのですが、横に穴がある設計を野暮ったく見せないようにそのままデザインに活かしました。この部分は特に機能美と言えるところですね」

  • 可動式のハンドルは、重心バランスやグリップ感などの操作性を考慮した上で見た目も美しくなるようデザイン

    可動式のハンドルは、重心バランスやグリップ感などの操作性を考慮した上で見た目も美しくなるようデザインに最も苦慮した部分の1つだという

  • "ダブルフェイススタイル"のために、大きな課題となった排気部

    "ダブルフェイススタイル"のために、大きな課題となった排気部。本体側面に設けることで解決を図ったと同時に機能美としてそのままタイヤ部分のデザインにも活かされている

同シリーズのカラーバリエーションは、スタンダードモデルのVC-NX1がブラストシルバーとサテンゴールド、プレミアムモデルのVC-NXS1はグランレッドとグランブロンズを展開している。これまで東芝の掃除機と言うと、消費者の間ではキャッチーなレッドのイメージが強かったと思うが、今回カラバリを思い切って変えたことや、選定の理由について山内氏は次のように語った。

「今回はすべて一から作ったブランニューの製品ですので、今までのイメージとは違ったものにしたいという思いが担当者の間ではありました。今までの流れで行くとレッドになるのですが、軽さやより先進的なイメージを与えたいということで、スタンダードモデルにはシルバーとゴールドを選びました。また、キャニスター型とはいえコードレス式なのでスティックタイプのように生活空間に出したままという使い方も想定されますので、室内の環境に対してインテリアとしてなじみやすい色というのもあります。一方のプレミアムモデルに関しては、高級感が出せるよう重厚感のあるカラーとして2色が選ばれたのですが、グロッシーな色とマット調の質感を組み合わせることで同じレッドであっても、これまでとは違った新しい感じを出すようにしました」

  • 東芝 デザインセンター デザイン第二部 家庭電器システム担当参事の山内敏行氏

    「今回は一から十までとにかくチャレンジングの要素が多かった」と振り返る、東芝 デザインセンター デザイン第二部 家庭電器システム担当参事の山内敏行氏

"コードレスで使い勝手のいい掃除機を開発する"という命題のもと誕生した、東芝ライフスタイルの「VC-NXシリーズ」。従来の掃除機の問題解決を図ることを起点に、新型モーターの開発に始まり、"ダブルフェイススタイル"と呼ばれる新たなスタイルの採用まで、掃除機史上においてはさまざまな試みが詰め込まれた画期的かつチャレンジングな製品と言える。

最後に山内氏は「今回やり切った感はありますが、ブランニューの初代モデルなので改善すべきところはあるかもしれません。我々としても、掃除機の開発は毎回生みの苦しみと格闘しながら、まだまだ何かあるんじゃないかと問題点を洗い出し、次のステージへと進化させていきたいです」と次の世代への意欲を語ってくれた。