Preferred Roboticsが一般発売した家庭用自律ロボット「カチャカ」。家具を目的の場所に動かして「片付け」をサポートする、これまでにない発想の製品だ。
今回は、開発の経緯からデザインのこだわり、今後の展望などについて、Preferred Robotics 代表取締役CEOの礒部達氏に伺った。
先端テクノロジーで部屋が散らかるのを防ぐロボット
カチャカは、箱状のロボットと、専用のキャスター付き収納棚「カチャカシェルフ」で構成されている。ロボットがシェルフの下に入り込むことで、棚を好きな場所へと動かせる仕組みだ。
本体には、独自のSLAM(自己位置推定とマッピング)技術を搭載。ほかにもカメラやレーザーセンサー、3Dセンサー、家具認識センサー、2基の段差センサーを備え、自ら作成した地図をもとに、自分の位置を推定して障害物などを避けながら自走できる。
カチャカシェルフの移動指示、スケジュール設定は、カチャカに音声で呼びかける方法のほか、専用スマホアプリでも操作することが可能となっている。
最先端のロボット掃除機にも似たテクノロジーが詰め込まれた製品だが、カチャカ自身が掃除や片付けをするのではなく、部屋が散らからないような環境をサポートするものだ。
カチャカを手がけるPreferred Roboticsは、ディープラーニングなどのAI開発スタートアップ企業のPreferred Networks(PFN)の子会社として2021年11月に設立。自律移動ロボットの研究から開発、製造、販売を行っている。
親会社のPFNが保有するディープラーニング技術とスーパーコンピュータを最大限に活用して、「人の役に立つ」ロボットの提供に取り組んでいる。2022年10月には、資本業務提携をしているアマノと共同開発した、業務用の小型床洗浄ロボット「HAPiiBOT」を発売しているが、自社開発の製品としてはカチャカが初となる。
大学時代からロボット技術を研究し、前職でも開発に従事してきた礒部氏だが、「家具をロボットが運ぶ」という発想の製品を開発するに至った想いを次のように語った。
「日本のロボット技術はすごくレベルが高いのですが、お掃除ロボットやファミレスの配膳ロボットなど実際にビジネスとして成功している事例は、ほとんどが中国製です。
ロボット技術に長年従事してきた私としては、日本発のロボットで市場をきちんと作りたい、雇用を生んでいきたいとの思いがありました」(礒部氏)
礒部氏自身、アーム(腕)のついたロボットの研究開発を続けていたそうだ。
「部屋の中をきれいに保っておくことを実現する上で、散らかった後にロボットが片付けるのではなく、そもそも散らからないようにすればいい。そのためにはどうしたらいいのか?と考えていました」(磯部氏)
当初は「ロボットアーム」も検討、決め手は発展性
そして、ひらめいたのが“収納場所が近くまで来てくれる”という逆転の発想。ロボット本体と専用家具を組み合わせて片付ける現在のスタイルを選択した経緯をこう説明した。
「開発当初、片づけをアームで実現しようとした時期もありました。現在、ディープラーニングの発達で技術的な進歩が著しいので、(ロボットによる片付けシステムを実現する)大きなチャンスではあったと思います。
ただ、例えば図鑑の中に描いてあるヘリコプターを、おもちゃだと思って片付けようとすることもあるんです。そういうケースを全部潰していこうとすると、時間もコストもかかってしまいます。ビジネスのチャンスとして、より短期的かつ可能性が大きいのは、今のような“スマートファニチャー”というコンセプトだろうと考えました」(磯部氏)
「ユーザー目線で考えたとき、その家庭にもともとある家具もありますし、その家のコンセプトによって置きたい家具は変わりますよね。だから、(カチャカの上に載せる)家具を選べたり、少しずつ買い足しができたり、といったことも考えました。
他にも、掃除用ユニットの追加や、コラボ家具の提供といった発想も出てきました。そういった拡張性や発展性のあるプロダクトにしたかったのが、現在のロボット+家具というかたちにたどり着いた一番大きな理由ですね。
腕が付いたロボットよりもコストを抑えられますし、家の中にあっても違和感のない自然なたたずまいも実現できました。いろいろなことを考えた上でこの形に落ち着いたんです」(磯部氏)
こうして2019年の夏には構想が固まり、同年秋にはプロジェクトが正式にスタート。2021年11月、Preferred Roboticsとして会社が設立されるに至った。
片付けをサポートする前代未聞のロボットであるカチャカ。その構想段階では、SFで描かれるような「アームで物を片付けるロボット」が検討されていたことに驚きを隠せない。
現代の暮らしに落とし込める技術のカタチとしてカチャカが生まれたのは、検討を重ねた末の最適解といえそうだ。