クラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売が始まると、およそ1時間で目標金額を達成して話題となったIHホットプレート「HOT DISH」。パソコン周辺機器メーカーのエレコムが挑む、白物家電の第一弾だ。

  • エレコム HOT DISH

    食器としても使えるIHホットプレート「HOT DISH」は、パソコンの周辺機器を長く手がけてきたエレコムが、初めて白物家電に参入した製品。上部がそのままお皿としても使える、ユニークな仕様が特長だ

プレートをお皿として使えるホットプレートという、大胆な発想も注目を集めている。また、社内のデザイン部門が中心となったプロジェクトから生まれた製品ということもあり、デザインへの想いもひときわ強い。

今回は、エレコム 商品開発部デザイン課のプロジェクトの中心メンバーに、HOT DISHのデザインが固まるまでの裏話を伺った。

食器らしさの裏に、家電としての試行錯誤

HOT DISHの試作段階では、お皿を多数購入して比較検討。その結果、白くて丸いオーソドックスなお皿のかたちが選ばれた。食器であることを大前提に、食卓でのたたずまいや使い勝手を考慮して、原点に立ち返った結果だそうだ。

だが、試行錯誤の末に選ばれた形状は、製造上のハードルを高くした。プロジェクトの中心メンバーの1人、エレコム 商品開発部デザイン課 デザイナーの佐伯綾子氏は次のように振り返る。

「HOT DISHのIH本体をものすごく小型化したことも要因としてありますが、そもそも、IHを丸くすることは難しいんです。円状であるIHの電磁コイルを、丸くてコンパクトなHOT DISHの本体に納めるとなると、排熱の構造がとても難しくなります。実は、『熱が逃げない』というのが最初に発生した問題でした。本体を少し大きくしたらうまくいくのですが、上に乗せるお皿とのバランスもあり、簡単ではありませんでした」(佐伯氏)

同課・課長の佐藤慶太氏も、「四角いほうが基板の収まりもよく、もちろん(本体は)大きいほうが作りやすいです。熱効率を考えて内部のスペースを設計しなければならず、部門間でかなり話し合ったところですね」と続ける。

  • エレコム 商品開発部 デザイン課・課長の佐藤慶太氏

    エレコム 商品開発部 デザイン課・課長の佐藤慶太氏

見つけた解決法は、IH本体の高さを5ミリから10ミリに上げること。ところが、やっとのことで問題を乗り越えた矢先、今度は別の問題が発生した。

「プレート自体にツバがついているので、温度調整などの操作をするとき、そこに手が当たってしまうことが問題になりました。それを回避するため、手の角度やベストな高さを検討した結果、たどり着いたのが現在の操作バー。ツマミのT字型です。操作時に上側ではなく下側を持つよう、形状によって誘導しています。さらに、手の角度がおのずと下に向くので、プレートに手が触れることを防いでいます」(佐藤氏)

  • 操作バーはT字型。手がお皿のツバの部分に当たらないよう、ユーザーを誘導するために考えられたかたちだ

    操作バーはT字型。手がお皿のツバの部分に当たらないよう、ユーザーを誘導するために考えられたかたちだ

「(操作時プレートに手が当たる問題は)カスタマーサポートから一番に指摘されたことですね。安全性は担保しないといけないですから」と佐伯氏。「アナログ式の操作レバーを採用したのは、温度調節を直感的にしたかったからです。デジタル制御のIHなのに、わざわざアナログ式の操作バーを採用することになりました」と笑う。

また、佐藤氏は操作バーを用いた理由を別の角度からも語る。

「操作バーはもちろん直感的に使えますが、ボタンではなく操作バーにしたのは、電気容量の問題をクリアでき、配線を最小限に収められるメリットが理由でもありました。また、ボタンやデジタル表示のタッチパネルにしてしまうと『機器っぽく』なって、コンセプトから外れてしまうので避けたのもありますね」(佐藤氏)

操作バーによって問題を一掃したかと思いきや、これまた一筋縄ではいかなかったようだ。

「今度は操作レバーの間から、IHの冷却ファンの風がもれてしまったんです。そこで、風が抜ける部分にどうやってフタをするか考えなければなりませんでした」(佐伯氏)と、デザインへのこだわりと機能性・性能を両立することの難しさを振り返った。

デザインへのこだわりと「一体感」

2018年にスタートしたプロジェクトだが、初めて取り組むジャンルということもあり、製品化までにおよそ3年を要した。

「2018年の企画開始から、初代モデルを作るまでに1年が経過。そこからアイデアをかたちにできそうな工場を探して、開発を具体的に進めるために話し合い、家電を作るための担当者をつけるまでにもう1年くらい。工場や安全設計などを再調整して、社内で承認をもらうまでさらに1年。専門のチームができたのは2021年6月です。現在のメンバーは7~8人で、家電を経験している人やオーディオ機器を担当していた人にも加わってもらいました」(佐伯氏)

プロジェクト発足当時からのメンバーは、全員がデザイン部門出身。当然、外観のデザインは外せない最重要ポイントとなった。

佐藤氏は「食器らしさを表現するために、本体やプレートの色は白が大前提でした。白いお皿というのは、普遍性があって、多くの人がブレずに共感できるポイントです」と説明。その上で、「質感・色味に関して、青白っぽい白だと『機器っぽく』なってしまうので、落ち着きのある色を作りだすため、世にあるお皿をかき集めていろいろ比べた結果、少しだけ黄色味がある白に決めました」と続けた。

プレート部分は、アルミの鋳物にステンレスを貼り合わせている。「厚みがあるぶん重量感はあるのですが、温度の伝わり方は均一になって焼きムラができにくく仕上がりました」(佐伯氏)という。

  • 「ホットプレートをもっと日常使いできるものにしたい」という思いから生まれたHOT DISHだからこそ、お手入れや片付けのしやすさも重要。食器としてもそのまま使える設計にした、もう1つの理由でもある

    「ホットプレートをもっと日常使いできるものにしたい」という思いから生まれたHOT DISHだからこそ、お手入れや片付けのしやすさも重要。食器としてもそのまま使える設計にした、もう1つの理由でもある

また、最後まで徹底して追及したのは、「上下の一体感によって機器っぽさをなくすこと」だと、同チームのデザイナー、鹿野峻氏は語る。

「上下を一体化しながらも、IH本体とプレートがずれたりしないように、それぞれ凸凹を設けるなど工夫しました。プレートで焼く部分の内側にあるカーブは、調理のときに使い勝手がいいのと同時に、食べるときにはスプーンを添わせるのが心地よいカーブであることを両立させています」(鹿野氏)

  • プレートとIH本体の一体感は、機器っぽさをなくすために、最初から最後までこだわった部分。IH本体は単独でも使える

    プレートとIH本体の一体感は、機器っぽさをなくすために、最初から最後までこだわった部分。IH本体は単独でも使える

  • 調理器具でもあり、お皿でもあるプレートは、双方の機能性や使い心地を両立。特に、見た目も美しい魅せるカーブに注目

    調理器具でもあり、お皿でもあるプレートは、双方の機能性や使い心地を両立。特に、見た目も美しい魅せるカーブに注目

  • エレコム 商品開発部 デザイン課 デザイナーの鹿野峻氏

    エレコム 商品開発部 デザイン課 デザイナーの鹿野峻氏

HOT DISHは、「あなたらしい 暮らしをつくる おいしい秘訣」がコンセプトの「LiFERE(リフィーレ)」というブランドで展開。第1弾は「まずは、単身層向けの調理家電を」ということでHOT DISHを発売した。「今後も、生活家電も中心にラインナップの拡充を予定しています」と佐伯氏。HOT DISHに関しても、以下のように展望を明かしてくれた。

「HOT DISHに関して、カラバリやデザイン違いといったバリエーション展開ももちろん構想としてあります。ほかにも、IH自体を活かした、焼く・蒸すなど調理方法を広げるようなラインナップの展開も考えています」(佐伯氏)

  • 盛りつけた料理が食卓でも映える「HOT DISH」のプレート。適度な深さもあり、汁気のあるメニューの調理や盛りつけも行える

    盛りつけた料理が食卓でも映える「HOT DISH」のプレート。適度な深さもあり、汁気のあるメニューの調理や盛りつけも行える