2021年夏、ブルーフレームの名で知られる英国「アラジン」ブランドのストーブを国内展開する日本エー・アイ・シーから、「アラジン グラファイト ポップアップトースター」が発売された。
わずか0.2秒で発熱する特性のある「遠赤グラファイト」をトースターに応用した「アラジン グラファイト グリル&トースター」から、ポップアップ型の新たなラインナップとして登場。同じトースターとはいえ、機構・設計が大きく異なるため、新たに解決しなければならない課題も多かった。
開発を担当した日本エー・アイ・シー企画本部 商品戦略課の片山幸二氏に、プロダクトデザインの視点から、従来のトースターとの相違点を中心に語ってもらった。
検証のためにパン作りまで手がけた「ベーグルモード」
機能はトーストに特化しつつも、4つのモードを搭載。トースト、冷凍トースト、あたためのほか、ユニークなのがカットした面だけを焼く「ベーグルモード」。片山氏によると、このモードの調整が非常に大変だったとのこと。
「ベーグルモードの焼き色の調整は、最初は大まかに食パンで調整した上で、最後はベーグルで実際に検証していったのですが、弊社がある兵庫県の加西市はすごく田舎なのでベーグルの入手が難しくて……。最終的には大きなスーパーで見つけたのですが、最初のうちは自分でこねて、ゆでて、焼いて、作って検証していました(笑)」(片山氏)
製品が完成した後は、発売までに第三者機関で安全性を確認する認証を受ける必要がある。国内向けに販売していたこれまでは日本の「電気用品安全法」に準じて開発すればよかったが、今回は海外展開を見据え、「IEC規格(International Electrotechnical Commission/国際電気標準会議)」という国際認証を受ける必要があり、よりレベルの高い安全性が求められた。
「海外展開を見据え、IEC規格に準じて、ガラス面は二重ガラスにしています。ほかにも、各部の温度上昇を測定して危険な発熱がないかを評価する平常温度上昇試験などが行われるのですが、日本の場合は、ケイカル板を用いた疑似パンを用いて試験するところを、国際規格では本物のパンを焼いて実証しなければなりません。測定位置も日本の規格より多く、全体を通してハードルがとても高かったです」(片山氏)
形は違えど、アラジンらしい本体デザイン
外観は、アラジンの他のラインナップと同様に、レトロさの中にどこか新しさも感じる、親しみやすいデザイン。カラーはアラジンの象徴的なグリーンで、丸みを帯びた温かみのあるフォルムやダイヤル式の操作部は、従来のトースターから継承している。
アラジン グラファイト ポップアップトースターの外観で特徴的なのは、前面に透明のガラスを採用したこと。アラジンのトースターの象徴である、グラファイトヒーターが光を放つ様子と、パンがこんがりと焼けていく様子を見せるためのものだ。
「お客様がおいしいトーストが焼き上がる様子を楽しめるように、透明のガラス窓をデザインに取り入れました。グラファイトヒーターの温かみのある光の中で、パンの表面がこんがりときつね色に焼きあがる様子を楽しむことができ、窓の中心にはアラジンのランプマークが浮かび上がります」(片山氏)
ガラス窓の上下には水玉模様のプリントが施されている。片山氏は、「焼き上がっていくトーストにフォーカスされるよう、上下から中心にグラデーションをかけています。水玉ガラス器の装飾模様をヒントに、レトロな雰囲気を表現しています」とデザインの意図を説明した。
2015年の発売以来、安定した人気を博しているアラジンのトースター。一消費者として、新たな形が登場するとは思いもしなかった。
「おいしいトーストをすばやく焼く」という共通の目的に、同じ遠赤グラファイトを使用しながらも、違ったアプローチで一から挑むその意欲に驚いた。だがその道筋を聞くと、彼らの意欲や真摯な姿勢は、予想のさらに上を行くものだったようだ。