2020年春にアテックスから発売された「ルルドスタイル EMSシート」※。わずか1ミリというPVC(ポリ塩化ビニル)素材を用い、表面を水でぬらすことで通電させて、その上に身体の部位を置くだけでエクササイズできる。手軽さと画期的さから人気を博している製品だが、この素材を活かした新たなラインナップとして、このほど発売されたのが「EMSベルト」だ。

※EMS(Electrical Muscle Stimulation):電気刺激を与えて筋肉を動かす機能。この機能を筋トレやダイエット目的で活用した、エクササイズ用機器の総称としても使われる。

  • 1ミリの薄いPVC素材のシートに特殊なプリントを施した、アテックスの「EMSベルト」。触れた部位にEMSによる刺激を与え、巻くだけでエクササイズできる

    1ミリの薄いPVC素材のシートに特殊なプリントを施した、アテックスの「EMSベルト」。触れた部位にEMSによる刺激を与え、巻くだけでエクササイズできる

今回は、EMSベルトと、同時期に発売された球体のEMS製品「EMSボール」について、担当者に開発エピソードを聞いた。

お腹のエクササイズに最適化した「EMSベルト」

EMSベルトはその名のとおり、EMSシートをベルトのようにお腹周りに巻き付けて使うニュータイプのEMS機器。元来の技術を応用して生まれた製品だが、EMSベルト用としてPVC素材に大幅な改良が加えられているのだ。開発・設計を担当したアテックス 商品開発本部 商品開発第2部・次長の佐藤奈津貴氏は、次のように明かした。

「PVC素材の1ミリシートというのは同じですが、身体にピッタリと巻き付けられるように製造方法を変えているんです。お腹にしっかりフィットするように、少し硬めに仕上げています。PVCは通気性がない素材なので、着けているうちに蒸れて汗をかいてきます。これによって水でぬらさなくてもそのまま通電できるのは、PVC素材のEMSベルトならではのメリットですね」(佐藤氏)

よく見ると、わずかにEMSシートと色味も違うように見える。佐藤氏によると、「カラーフィルム自体は同じ」とのことだが、「PVCの製造方法が違うので、微妙な光の反射によって違って見えるのだと思います。実は、電極のはわせ方も変えていて、限られた面積でできるだけ通電する範囲を稼ぎたいので、(EMSシートと比較して)より波打つように配置しています」と説明した。

  • EMSシートとEMSベルト。どちらも同じ厚さ1ミリのPVC素材を使用しているが、お腹周りに巻き付けるタイプのEMSベルトは、身体にフィットさせるため、少し硬めに仕上げた。波模様の配置もベルト用に最適化している

    EMSシートとEMSベルト。どちらも同じ厚さ1ミリのPVC素材を使用しているが、お腹周りに巻き付けるタイプのEMSベルトは、身体にフィットさせるため、少し硬めに仕上げた。波模様の配置もベルト用に最適化している

以前から、ルルドのEMS製品は広い周波数帯をカバーするのもセールスポイントの1つ。EMSベルトもユーザーが好みの周波数を3段階から選べる設計だが(周波数によって身体への刺激が変わる)、「今回はお腹周り専用のアイテム。同じ周波帯でも、効率的にお腹エクササイズができるよう、お腹周り専用の電気プログラムに設定しています」と語る。

筋膜リリースに着目した、ボール型EMS製品

2021年春、「ルルドスタイル」ブランドからはもう1つのEMSアイテムが新たに発売されている。同社では初めてとなる、球体のEMS製品「EMSボール」だ。開発・設計を担当した、アテックス 商品開発本部 商品開発第2部・新子翔也氏は、企画・開発に至る経緯を次のように話した。

  • ルルドブランド初の球体型のEMSアイテムとして登場した「EMSボール」

    ルルドブランド初の球体型のEMSアイテムとして登場した「EMSボール」

「コロナ禍で運動不足が続く中で、テニスボールを使った筋膜リリースによるダイエットが注目を集めているのを知りました。EMS製品を数多く展開する弊社としては、運動しながらEMSによる刺激を加えるとより効果が上がるため、機能性を持たせたボール状の製品を作ろうということになりました」(新子氏)

ボール全面での通電に難航

球体のEMS製品は、すでに他社製品では存在している。EMSボールが特異な点は、「ボールの全面に電気が流れること」と新子氏。

「全面に電気が流れるボール状のEMS製品」がこれまでなかったのは、「耐荷重の問題も理由の1つではないか」と話すように、この要素は実際に開発を進めていく上で大きなハードルとなった。

「体重をかけて使おうとなると、耐荷重と耐久性を高くしなければなりません。そこで、EMSボールでは、バッテリーを包んでいる樹脂の周りに柱を立てて、側面から圧がかかってもそれぞれの方向に逃げるように設計しました。EMSの基板は、操作部に近い位置に4面に分けて配置しています」(新子氏)

EMSの性能を持たせるには、プラスとマイナスが交互になるように電極を配置する必要がある。しかも、球状で転がしながら使う製品となると、縦横の位置が常に変わったり、電極の方向が同じになってしまったり、パターンが変わることで電気が流れなくなってしまうこともあり、開発は混迷を極めた。さらにその上で、周波数を調整したり、さまざまなパターンを試したりするなど、試行錯誤を繰り返していった。

EMSボールの大きさは、手のひらで軽く握れるテニスボールほどのサイズだ。テニスボールの筋膜リリースに着目したことが開発の経緯となっていることから、「サイズははじめから固定でした。このサイズにいかに収めるか? を目標に開発しました。重さは二番手、三番手の要素で、それ以上に耐荷重をどうするかの課題を克服するほうが重要でした」と新子氏は語る。

  • ウェーブの模様は、凸凹面が立体的な刺激と回転を促すとともに、外観デザイン上でもメリットをもたらす機能美ともいえる部分。充電台を兼ねるスタンドは、乗せたEMSボールが転がらないよう強力なマグネットを仕込んでいる

    ウェーブの模様は、凸凹面が立体的な刺激と回転を促すとともに、外観デザイン上でもメリットをもたらす機能美ともいえる部分。充電台を兼ねるスタンドは、乗せたEMSボールが転がらないよう強力なマグネットを仕込んでいる

ルルドブランドと言えば、機能性のみならず、デザイン性や使い勝手へのこだわりもポイント。EMSボールの外観では、表面が銀色で波模様が施されている点に注目だ。

「初期の段階では、クロムメッキのボールでしたが、身体への立体的な刺激と回転を促すためにウェーブの凹凸を施しました。クロムメッキのウェーブ加工は、独創的な光の反射をもたらしました。充電スタンドはマグネットタイプで、球状の本体が転がらないように強力なものを採用しています」

毎回新製品が登場するたびに、独創的な発想とデザイン性、使い勝手への妥協なき追求に驚かされる、アテックスのEMS製品群。今回もユニークなアイディアとそれが生まれた経緯やエピソードを伺うにつけ、「決して他と同じにはならない」という、ブランドとしての威信とプライド、そしてそれを目指すための企画・開発陣のチームワークにも凄まじいものを感じた。

  • 「EMSベルト」と「EMSボール」企画・開発メンバーの小林利絵氏、新子翔也氏、田代晶子氏、佐藤奈津貴氏

    「EMSベルト」と「EMSボール」企画・開発メンバーの小林利絵氏、新子翔也氏、田代晶子氏、佐藤奈津貴氏