過去の名車に乗る人、往年の名車を愛する人にとって、憧れの場所ともいえる「ヤナセクラシックカーセンター」。そこにはどんな技術があり、どんなメカニックが働いているのだろうか。愛車のメルセデス・ベンツ「W124」に乗って同センターを訪問した。
ヤナセクオリティーを継承する場所
2022年4月に開催されたクラシックカーの祭典「オートモービルカウンシル」で個人的に最も気になったのが、ヤナセクラシックカーセンターが販売していたW124の「E320」セダンだ。展示されていたのは最終型の1995年式(左ハンドル)で、ホワイトのボディにブルーのファブリックシートという仕様だった。走行距離はたったの1万5,349km。同センターのメンテナンスがしっかり入っていることもあり、ジャスト400万円と結構な値段になっていた。
この連載の主役である筆者のW124は中後期1993年式の「280E」(右ハンドル、革内装)。ヤングクラシックの中では比較的、手の出しやすい価格をキープしていた我がW124も年々、程度の良好な個体が少なくなり、さらには純正パーツが欠品していたり、あってもびっくりするような値段になっていたりして、車両自体も高額になりつつあるのではないかと少し心配になってきた。
オートモービルカウンシル会場で同センターの片岡浩一部長とそんな話をしているうちに、流れでセンターの取材を申し込んで実現したのが今回の訪問記なのだ。
ヤナセクラシックカーセンターはかつて、ヤナセの輸入車の新車整備を行っていた「横浜デポー」(横浜市都筑区、現在はアフターセールスなどの卸拠点である横浜ニューデポー)の中の一角にある、「オールドタイマー」や「ヤングタイマー」と呼ばれるモデルたちのレストアを行う施設だった。ヤナセのグループ会社であるヤナセオートシステムズが2018年に新設した組織だ。「往年の名車をヤナセクオリティーで蘇らせる」ことを標榜していて、すでにあのメルセデス・ベンツ「600」(W100型)をはじめとする数々のリコンディショニングを行っているのはご存じの通り。
「中でも、最も大変だったのはW121型190SLのフルレストアをお願いされたときで、完全分解から再生するまで2年以上かかりました」(片岡部長)とのこと。その成果が昨年のオートモビルカウンシルに展示されていたシルバー外装、レッド内装のあの車両だったのだ。
工場の2階にはトランスミッションのリペアコーナーがある。古くは3速のものから最新の9速まで、オーバーホールや修理中の新旧あらゆる車種のミッションが並べられた巨大な棚は、見ただけで圧倒される迫力だ。
ここではウエスタン自動車時代に入社し、ミッション一筋30年以上というベテランメカニックの小林洋一朗氏ががんばっていて、たまたま入庫していた600用の巨大なV8のエンジンブロックなども見せていただいた。
質のいい鉄をふんだんに使ったブロックは、それ自体が存在感抜群。Vバンクの谷間には「陸」「海」「空」を表すあのスリーポインテッドスターが“〇枠”なしの立体形状で刻まれていて、当時のメーカーが持っていた輝かしい誇りやオーラを、今でもしっかりと放っていた。
愛車も急遽、チェックを受けることに!
「せっかくなので」ということで筆者の124は、こちらもウエスタン自動車時代から長くメカニックを務めてきたベテランの野舘一朗氏がチェックをしてくれるという幸せな事態に。まさに、124が新車で登録されていた時代を知っている方だ。
ぐるりと外観をチェックした後は、センター周辺をテストドライブ。戻って来るや否やボンネットを垂直に上げて各部を点検。さらにリフトで下回りをチェック。その素早く正確で確実な動きは、まさにヤナセそのものという見事なものだった。
はたして野舘メカニックの診断はというと、「エンジンルーム内はきれいですね。なかなか状態がいいです。ただし、気になるのはパワステオイルが少し多すぎるのと、逆にオートマのトランスミッションオイルが減っているところ。下回りでは、ステアリングのタイロッドエンドブーツの劣化とエンジンマウントの振動が大きめになっているところ。また、足回りが少し硬く感じられるのは、ドライバーの耳に近いところにあるシートベルトのキャッチャーから振動に合わせて音が出ているので、それが硬さをより強く感じさせる原因のひとつとなり得ます」とのこと。運転席側のドアから開閉時にギィギィと音が鳴っていることも指摘された。
ということで、何はともあれ、今のところは大ごとになりそうな兆候はなく、しばらく安心して乗ることができそうな我が124。もし何かあっても、全てに精通したメカニックが集うヤナセクラシックカーセンターが最後の砦になってくれる、というのが明確に確認できた。ただし、そう思っているオーナーさんは日本中に数多くいるようで、片岡部長によると現状、入庫までは1年待ち(!)なのだそうだ。
さて、最後に我が124の近況をお伝えすると、タイヤをグッドイヤーの最新モデル「エフィシェントグリップ パフォーマンス2」に交換したことで、かなりスポーティーな乗り心地を示すようになった。これによって、アルピーヌ「A110」の試乗会で訪れた「ターンパイク」のハーフウェットの下り坂でもしっかりとしたステアリングの手応えを感じつつ、安心して走ることができた。
そして、特筆すべきはその燃費。中央道、圏央道、小田原厚木道路、ワインディングのターンパイクを往復してこの日は197kmを走り、補給したガソリンは16.60L。満タン法で11.87km/Lという数字はこれまでの最高値である。