渋谷、原宿、表参道を結ぶキャットストリート周辺の路地裏にあるピザハウスで、USBメモリをデコレーションするという風変わりなイベントが開催された。インテル主催、マイクロソフトとテックウィンド共催によるもので、この界隈を楽しむ女性を対象としたものだ。

デコした"自作"USBメモリをゲット

イベントが開催されたのは7月5日の土曜日。あいにく朝から霧のような雨が降る日だったが、午後には晴れ間も見えてきた。休日のこのエリアを楽しむ層に、IntelやMicrosoftといったブランドが認知されているとは思えないが、近頃流行りのタブレットなるものを飛び道具に「えーっ、これってパソコンなんだ」的な展開を期待し、PCのプレゼンスを向上させようというのが狙いだ。

とはいっても、イベントそのものは、ショー形式ではなく、午前11時から夕方まで、店にたまたま立ち寄った女子に、白いUSBメモリとスワロスキー風のデコパーツが無料であてがわれ、インストラクターの指導のもとに自分でデコレーションしてそれを持ち帰れるというものだ。このUSBメモリに、Windows to Goがインストールされていて、PCをそれでブートすれば、自分のWindows環境がどこでも再現できるというならすごいと思うが、そういう期待をする層を対象としたイベントではない。

女性たちがUSBメモリをデコレーション。ちょっと見慣れない風景だ

彼女たちが持ち帰ったいわゆる"自作"USBメモリを、いったい何に使うのかが気になるところだ。最悪の場合、自宅に戻ってもUSBメモリを差す端子がどこにもないということにもなりかねない。もっとも、最近のテレビやビデオレコーダーにはUSBメモリ端子が装備されはいるが、ストレージとして何かを記録するというよりもUSBメモリー内に保存されている写真や動画を再生するためのものだから、うまく活用できるとも思えない。加えて会社のパソコンはUSBメモリの使用は禁止だったりする。そうか、OTGケーブルを買ってきてスマホやタブレットにつなげばいいのね、といった発想にはならないはずなのだ。

とまあ、そのくらい若い世代にとって、PCのプレゼンスは落ちている。PCはいわゆるコモディティと化し、会社の仕事のために使う業務用機器といったイメージが浸透し始めている。だってスマホがあれば困らないから、というのが彼女たちの論理なんだろう。

テディベアとしてのスマホ

このイベントでのデコ体験も、そこにはPCは介在していない。普通に考えたら、タブレットの画面で自分の好きなデコレーションをデザインすると、その設計図的なものが表示されて、それにしたがって作業すればオリジナルのUSBメモリができあがるくらいのしかけを期待するところだ。。

でも、それをやってしまってはPCのイベントになってしまう。あくまでも、PCとは無縁を装いつつ実はPCとの接点に気づきを与えなければならない。

アクセサリーというのは役にたたないからいいのであって、自分でデコしたUSBメモリがストレージとして活用されることなく、なんとなくバッグに吊り下げられたり、スマホのストラップにくっつけられて持ち運ばれることで、PC的なものとの絆が保たれればという想いも感じられる。

個人的には、彼女たちが高性能PCを求めることはもうないかもしれないけれど、大きな画面は快適に思ってもらえるんじゃないかと思っている。普通の人々にとって、広大なメモリ空間や高い処理性能のプロセッサは、少なくとも今の時点では必要なく、検索で見つかって開いたウェブサイトを、スクロールやピンチイン、アウトを繰り返すことなく一覧できることが重要だ。あるいは、お気に入りの動画を大画面で楽しむか。だが、そのアドバンテージも、今後はワイヤレスによる大画面テレビへのミラーやキャストによって脅かされることになるだろう。

それでも、この10年で、ごく普通の人々が、スマホのようなインテリジェントなデバイスを肌身離さず持ち歩くようになったというのは、人類にとって大きな出来事だったと思う。四半世紀前に、電車の中でパソコンを開くと、奇異なものを見るような目で見られたものだが、内容的にはそれと同じことを、今ではみんな当たり前のようにやっている。

PCのこれからを考えるときに、USBメモリのデコレーションを楽しむ彼女たちの存在は、とても重要だ。できることのみならず、その見かけも重要な価値の一要素であり、プラットフォームとしてのハードウェアも、そこを考える必要がありそうだ。平板タブレットのデザインは、その差別化が簡単ではない。かといってピンクのタブレットが彼女たちに響くとも思えない。

今、スマホはテディベア的な唯一無二の存在となっている。機種変更でポイされるのはわかっていても、それまではボロボロになっても愛着をもって使い続けられる。でも、その日の気分や出かける目的に応じて、まるで洋服やアクセサリーを選ぶように、持ち出すデバイスをピックアップできるような環境。そろそろ、そこのところをまじめに考えなければならないのではないか。その選択肢のひとつとして、Windowsタブレットが含まれることがあるのかないのか。いろいろと考えさせられることの多いイベントではあった。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)