インテルが2019年Q3の活動と今後の活動について説明会を開催した。新たにデビューした第10世代コアにより、ゲーミングPC、ビジネスPC、教育向け市場に注力。モダンPCにイノベーションを起こすProject Athena(プロジェクト アテネ)も積極的に推進していくとのことだ。

  • 2019年Q3の抱負を語るインテル鈴木社長

ユーザーの「体験」を満たすProject Athena

そのProject Athenaとはなんなのか。インテルは、プロセッサ開発に注力するのみならず、ユーザーが何を求めているかを重要しているという。そのためにも、プラットフォームレベルでPCをよくしていくことをもくろみ、最先端ノートの誕生を誘うために提唱されているのがProject Athenaだ。

インテル日本法人社長の鈴木国正氏は、インテルはキャタリストであるという。つまり触媒だ。インテルはビジネスを作る触媒として、Project Athennaを推進し、働き方の変化による新しいモビリティへの期待に応え、PCの利用環境のトレンドを創生しようとしているわけだ。

といっても、Project Athennaに準拠するための明確な要件が規定されているわけではない。あるとすれば、その体験指標として、「瞬時の起動(1秒以内のスリープ復帰)」、「優れた応答性」、「十分なバッテリ駆動時間(16時間以上のビデオ再生や4時間分のバッテリを30分以内で充電など)」といったことがあげられているにすぎない。

インテルは、このProject Athennaを、エコシステム、共同開発、マーケティングの3本の柱で推進していくとし、そのイノベーションプログラムに業界全体からのサポートとして100社を超えるベンダーが参加していることを明らかにした。ただ、その100社を超える中に、NECパーソナルコンピュータや富士通クライアントコンピューティング(FCCL)、パナソニックといった日本のベンダーのロゴは見つからない。レノボの名前はあるが、同社は傘下のNECPやFCCLに対して技術的には不干渉なので、どうにもこの温度差が気になるところだ。また、第1弾の認証ノートとして、デル、レノボ、HPの数機種がリストアップされている。

これらの認証ノートは順次、追加されていくそうだが、おおむね、それなりのバッテリ駆動時間を確保した2in1で、重量は1キロ前後、そしてモダンスタンバイに対応しているかどうかといった点が決め手になりそうだ。

モダンスタンバイは、以前、コネクテッド・スタンバイと呼ばれていた機能で、スリープ中にもWindowsのストアアプリが通信を行うというものだった。レガシーなデスクトップアプリは完全に稼働を停止するが、ストアアプリは通信を継続し、メールやメッセージを取得したり、クラウドからのプッシュ通知を受けることができる。これらはWindows側の要件になり、その要件も、当初より、ずいぶん緩和されてきているという話が各社から伝わってきている。ストアアプリの浸透がそれほど進んでいない現状では、この機能も宝の持ち腐れで、エンドユーザーにとってのメリットはスリープからの“瞬時の復帰”程度ではないだろうか。

パソコンで「瞬時の復帰」は難しい?

この瞬時の復帰というのが難しい。たとえば1秒以内の復帰を期待したときを考えてみると、1秒というのはかなり長い時間だということを実感するだろう。企業などではスリープ運用が管理者によって禁止されていることも少なくなく、使うたびに電源オンからの起動が求められれば、1秒は画期的に感じるかもしれない。しかし、モダンスタンバイの復帰はあくまでもスリープ運用をしたときの話だ。

さらに、ベンダーによってはカバンの中などでノートPCのモニタがごく短時間半開きになったときに、あやまってスリープから復帰しないように1秒程度の画面開閉確認の余裕を持たせている場合もある。当然、その時間も付加される。その上で1秒をクリアするのはなかなかたいへんだ。液晶を開くと、まるでスリープしていなかったかのような素早さで画面が表示されるのはとても気持ちがいいし、いわばスマホ体験に通じるものであり、それに慣れているユーザーにPCもそうなのだということを知らしめる必要があるということなのだろう。

さらに、スリープに入るとき、スリープから復帰するときには、LANやWAN、USB関連の周辺回路の状態も考慮しなければならない。こうした状況の中で理想を追求するには、やはりインテル一社では無理ということで、業界の各社との共同開発が前提になっているのは、このあたりの事情によるものだ。

いずれにしても、インテルがこのプロジェクトに注力し業界各社の協力を仰ぐことで、新たなユーザー体験が生まれ、PCはあると邪魔だがないと困る的な存在から「やっぱりPCはすごいね」という空気感が復活するといいのだが。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)