先週末、SNS界隈を騒がせたニュースとして、Googleマップの改変が大きな話題になった。
これまで(C)表記でZENRINが記載されていた地図ページからその表記がなくなり、どうやら別の地図データに置き換えが行われたようだ。そのことで、ZENRINの株価にまで影響を与えるような騒ぎになっている。まるでアップルの「パチンコガンダム事件」の再来だという声も聞こえてくる。
確かに、以前とちがう。巷では駐車場が道路になっているとか、あるはずの道路がないといったことが話題になっている。Googleマップが素晴らしかったのではなくZENRINが素晴らしかっただけじゃないかといった意見も多く見かける。さらには、要素技術が卓越した日本の技術も、米国のプラットフォーマーに好きなように利用されるだけと日本の将来を嘆いたり……。
あるはずの道がない
今回の件で被害を被った企業、団体、商店、飲食店は少なくないだろう。自サイトにGoogleの地図を表示したり、リンクしたりしていたところは、その先にある地図が正確であることを前提としていたのだから、万が一、地図の不正確さが原因でたどり着けなければたいへんだ。
ただ、ぐるなびやホットペッパーなどで表示されている地図には、ZENRINクレジットがないにもかかわらず、Googleマップのサイトでは表示されない道もちゃんと表示される。その相関関係がどうにもわからない。
地方のほうが問題は深刻ということで、気になって自分の出身地周辺の地図を、ZENRINデータを使っているYAHOO! 地図と比べてみたが、確かに、Googleマップではあるはずの道がなかった。かつての同級生が経営する寿司屋は面する道がなくなり、見事に地図上から消えている。
ただ、コトの本質はそこじゃない。Googleが何をしたのかではなく、何をしようとしているのかに注目しなければならない。
たとえば今、東京・渋谷周辺は再開発でたいへんな状況になっている。かなり頻繁に訪問する街なのに、行くたびに様相が変わっている。その変化をリアルタイムで地図に反映するのはたいへんな作業が必要になる。
紙の地図なら、ある瞬間を切り取ったものなのであきらめもつくが、Webの地図は生きているはずと、現時点での状況が反映されていることを期待するだろう。今、目の前にある状況を地図上でも確認したい。本当はそうなのだが、人間は地図と現実はちがうということを無意識に納得し、あきらめていた。
Googleマップが目指すこと
Googleがやろうとしているのは、ビッグデータを元に地図を自動生成することではないか。
たとえば、人が歩いた実績を元に、おそらく道であろうと推測して、それを地図上に展開する。ある日、そこに私道につき立ち入り禁止の看板が出たら、そこに侵入する人の数は激減してそこは道路ではなくなる。
つまり、Googleマップは「勝手に育つ地図」の提供への道を歩み始めたということだ。Google Earthも、Googleマップのストリートビューも、ポケモンGoもIngressもそのための布石だったのかと思うと、いろんなことが腑に落ちてくる。いや、こうした各種レイヤーのデータが集まってから、何に使うかを考えた結果なのかもしれない。
Googleは、Pixel 3シリーズのカメラ機能で、複数枚の写真から高解像度の写真を再構築するマルチフレーム超解像という方法でデジタルズームの概念をくつがえした。そして、そこでは複数フレームの位置合わせが重要な要素となっている。
地図に「解像度」という概念があるのかどうかは議論すべきことだとは思うが、直接人間の手を煩わせずに、実績としての「移動」と実績としての「道路」など、さまざまなレイヤーにまたがる情報の位置合わせによって、解像度の高い地図を生成することができればどうか。
すぐれたAIがあれば、きっとそれができる。これまでの地図の概念をくつがえすことができるかもしれない。それを試せるフィールドとして日本は絶好のロケーションだともいえる。
AIの進化を体験できるチャンス
ただ、これをいきなり本番投入というのはやりすぎだとは思う。せめてベータテストとして少なくとも1年程度の猶予は必要だったのではないか。もしかしたら、1年以上前から準備は進められていたのかもしれないが、サービスインが早すぎたようだ。このあたり、Googleには、日本の地図をこれからどうしたいのかを、きちんと説明してほしいと思う。
そんなものは地図じゃないという意見もたくさん出てきそうだ。だが、地図を再発明するには、そのくらいのことから始めなければならないということなのだろう。
光学技術に思いっきり依存してきた写真が、デジタルの力で今や別物に生まれ変わってしまったように(それがいいのか悪いのかは別問題)、地図もまた変わる。これからGoogleマップが、どのように変わっていくのか、それをつぶさに見るのだ。こんな身近な応用事例で、AIの進化を体感できるチャンスはめったにない。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)